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私と四次元固体

ネタバレというほどではないのですが、バックトゥザフューチャー2の話が出てきますので観てない方はご注意ください。

 つまり、向こうの世界っていうのはドッペルゲンガーの世界ということ?


「ある意味ではそうだけど、その言い方は語弊があるかな。逆にオレ達が向こうの世界に行ったとしてもドッペルゲンガーと呼ばれる事になる。ドッパルゲンガーってのはつまりこちらの世界に迷い込んで来た別世界人の事なんだよ」


 ちょ、ちょっと待って。別世界の人の事なんだよと言われましても、そんな簡単に受け入れられないよ。大体、銀の結社は儀式で召喚したんでしょ? けどドッペルゲンガーの目撃例なんて世界中に散らばってるよ。そんな簡単に行き来できるもんなの?


「行き来だけなら難しくない。というか普段からある程度は行き来してるんじゃないかと思う。ドッペルゲンガーとして認識されるのはよほどズレた時だけなんだろう」


 ズレた…………? ごめん、何の話をしてるのかわかんないよ。


「最初に言っただろ。平行世界の話だよ。まなっちゃんはバックトゥザフューチャーって映画を観たことはある?」


 そりゃあ、名作だしテレビでも何度も放送してるから観た事くらいはあるよ。


「その二作目、未来に行ったマーティーにドクが未来の自分とは絶対に会うなって言ったのを覚えてるかな?」


 覚えてる。確か同じ時間に二人の自分が存在する事で矛盾が生じ、それを修復する為に本人が気絶するか宇宙が消滅するというあまりにも釣り合わない二種類の結果に分岐するとかそんな話だったと思う。


「少しオレの記憶と違うけど……ま、いいや。要は世界にはそういう修正力というか強制力というか、そういう力があるって事だ。これは時間移動を扱う際にはよく言われる事だね。けど実際は君が経験したように二人の自分が出会っても宇宙が消滅したりはしない」


 時間と世界という違いこそあるが、ドッペルゲンカーが違う世界の自分という事なら今まさしくこの世界には二人の篠宮真夏がいて、会うどころかベタベタモニュモニュと触りまくっている。それでも宇宙は消滅などしていないし気絶もしていないというのは武山君の言う通りだ。

 でも、だったら世界に生じる矛盾はどうやって吸収されてるの? 


「オレが思うに矛盾でもなんでもないんじゃないかな」


 というと?


「まなっちゃんはさ、今オレ達のいる宇宙を四次元から見たらどういう風に見えると思う?」


 さっきから唐突な質問が多いな。四次元っていうのがどんな世界なのかがもう想像できないんですけど。

 ポケットの中だとしたらビスケットがどんどん増えていくような世界だろうか。やっぱり想像がつかないな~。


「四次元ってのは横軸Xと縦軸Y、それから奥行きZの三次元に時間軸Tを加えた世界。より言及するならT軸の増減が可能な……要するに過去にも未来にも行き来できる世界って事。だとしたらその世界では宇宙の始まりと終わりが同時に存在してる事になる」


 始まりと終わりが同じ…………? それは時間が存在しないという事?


「じゃなくて、時間すらも行き来可能な空間と同じように扱われるからだよ。この世界をパラパラ漫画と考えるとわかり易いかも。この世界の一瞬は一ページに書かれた絵でそれが積み重なる事で動いて見える。どこかのページで止める事も可能だし、めくり方を変えれば逆再生も可能だ」


 つまり武山君は四次元から見た三次元は角にラクガキのある教科書みたいなものだと?


「そうだね。少なくとも固体ではあると思う。三次元宇宙を内包した四次元固体だ」


 想像力豊かだねぇ。そういえば秋生もそういう想像好きだけど、魔術師ってそういうもん?

 私は武山君の妄想力に呆れて言った。広げられた風呂敷が大きすぎて何の話をしていたか忘れてしまいそうだよ。


「ああ、悪い。ドッペルゲンガーが本人と出会う事で生じる矛盾を世界がどう吸収してるかって話だったか。簡単にいうと四次元的な視点で見れば宇宙は始まったと同時に終わってるわけだからそこに矛盾なんてものはあり得ないって事。」


 あ~、なるほど。運命論みたいな話になるけど、宇宙が生まれた瞬間に終了までのすべての道筋が決まっているのだとしたら、確かに矛盾なんて起こりえない。

 あれ? でもそうなると、今度は武山君の言う平行世界っていうのがわかんなくなんない?

 宇宙が変化しないただの固体だとして、たとえば四次元の中で教科書を形作っているとすれば、別の宇宙がノートとか鉛筆になっているんだろう。

 そういうまったく別の固体としての宇宙は理解できるのだけど、武山君の言う平行世界はこの宇宙とは似て非なるものだ。先の教科書の例えで言えば初版と第二版くらいの差しかない世界だ。そんなものが自然に存在し得るのだろうか?


「うん、いい着眼点だね。確かに時間の存在しない閉じた世界なのに似たような世界がいくつも存在するのはおかしい。僕らが認識できる範囲の差なんて宇宙から見れば誤差の範囲だろうしね。という事は、平行世界は別の世界のようでありながら僕らのいる世界とつながっていると考えるのが自然だろう。あり得たかもしれない別の可能性の世界。いわゆる多世界解釈だね」


 その単語は何か聞いたことがある。おぼろげにしか覚えていないけれど、量子論? か何かの仮説のようなものだったと思う。シュレーディンガーの猫が生きている世界と死んでいる世界が存在するとか何とか。そう考えると武山君の言っている事も完全な妄想とは言い切れないのかもしれない。

 さらに武山君の妄想語りは続く。


「時間的に閉じた宇宙を動かす為にはその可能性という軸、P軸が新たに必要だ。PはポシビリティのPね」


 XYZTPか。話が五次元に及んできた。もうそろそろ勘弁願いたいな~。


「オレの経験や得てきた知識から言わせてもらえば、このP軸は割りと曖昧で、隣り合った世界くらいなら常に行き来しているか、もしくはある程度世界が重なり合って宇宙を形成しているんじゃないかと思う。量子単位で変化があってもオレ達には認識できないからね」


 言っている事はよくわからなくなってきたが、重なり合っているというのは量子論でも言われている事だというくらいは知っている。

 先のシュレーディンガーの猫でいえば電子がある瞬間にA点とB点のどちらにあるかという可能性が重なり合っているわけだけど、高山君の考えでは電子がA点にある世界とB点にある世界そのものが重ね合わせになっているか、もしくは陽炎が揺らぐようにゆらゆらとどちらかの世界を行ったり来たりしているらしい。


「そう。そして話が長くなって申し訳ないが、ここからが本題だ。本来一般的なドッペルゲンガーはこの世界の揺らぎが修正力で修正できないほど大きくなったときに現れる現象だと思うんだよ。揺らぎが大きいって事はP軸がそれなりに離れているって事だから、こっちの世界との違いも大きくなる。実際、君に一番近しいはずのお兄さんすら篠宮という苗字ではなくなっているんだし、これ以上P軸が離れると篠宮真夏という存在自体が別のものになっているかもしれない。武山真夏とか」


 小声でなにボソっととんでもない事言ってんだ!

 と、一応突っ込みは入れておこう。冗談にしとかないと後が怖そうだ。

 それはともかく、ここまでの説明でドッペルゲンガーに対する武山君の考えはわかった。要するに無数に存在する平行世界の中で、近くもなく遠くもない距離にある二つの世界が重なり合った時、偶然にも他方の世界に取り残されてしまった可哀想な一般市民だという事だ。

 そしておそらくその考えというか、概念を元に武山君というパイプを通して召喚されたのが真夏Bなのだろう。

 わからなかったのは、なぜそんな事をわざわざ私に説明してくれるのか、という事だが、その理由についても何となく察しがついた。


 ねえ、武山君、武山君。質問していいかい?


「なにかな?」


 別に聞きたいわけではないし、違うなら違うとはっきり言って欲しいのだけど、もしかしたらひょっとして万が一にもそういう可能性が無きにしも有らずなんじゃないかと思って聞くだけなのだけれどもね?


「回りくどいな。オレが言えた義理じゃないけど。なんなんだよ?」


 いや、うん。もしかして武山君と真夏Bのやろうとしている儀式ってさ。


「うん?」


 私も参加する感じなのかな…………?


筆者の自己満足回でございます。こういうくだらない事を考えるのが大好きです。

前書きで期待させてしまった方は申し訳ない。当作品は今後も含めてSFではございませんのであしからず。


ご清覧ありがとうございました!

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