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私と武山語り

 消失……? 蘇らせるって…………

 耳慣れない単語の並びに言葉が上手く出てこない。消失は消え失せてしまったという事。蘇らせるは亡くした者を復活させるという事。

 消失はともかく、蘇らせるという単語が気になった。

 …………まるで死んでしまったみたいな言い方だね?


「ん。ああ、すまない。そんなつもりじゃなかったんだけど、見つけるってのも違うし何て言っていいかわからなかったんだよ」


 どゆこと?

 聞き返した自分の声はずいぶん剣呑な響きを含んでいるように聞こえた。


「どこにあるか……篠宮の身体が今どこに居るかはわかってるんだ。等価交換ってわけじゃないけど『真夏B』がこちらに来るのと引き換えにあちらの世界に送られている。それをどうにかしてこっちの世界に戻せばいいわけなんだけど……って大丈夫? ついて来れてる?」


 そう言って武山君は様子を見るようにちらりと私の目を見た。

 大丈夫! まだ話についていってるから! そんな不安そうにこっち見んな!

 要は魔術にも質量保存の法則のようなものがあるという事だろう。何かを得る為に何かを失う。

 逆凪というのだっけ? 術をかけるとその反動が自分にも返ってくるという話を漫画か何かで見た記憶がある。通常は術を行使する前に対策を施すが、呪い返しを受けると対策が役に立たなくなるとかそんな話だった。呪いとか魔術で生贄を使うのはこの対策でもあるんだって。

 あれ……それって兄の身体が生贄に捧げられたって事?


「向こうに行っちゃってるから生贄という認識でも間違いじゃないね。大丈夫。向こうでオレが保護してるから、ちゃんと生きてるよ」


 そうなのか。

 武山君の言葉に安堵の息を吐く。べ、別に武山君がついてれば安心とか思ったわけじゃないんだからねっ。

 というか、普通に向こうでオレが、とか言ってるけどこちらとあちら、似通った二つの世界を同時に認識してるの? 頭混乱しない?


「するよ。してる。特に感情が絡むと本当に厄介なんだ。けど生まれつきそういう体質なんだから仕方ない。だからオレは魔術を学ぶしかなかったんだ。世間では勘違いされているけれど、魔術ってのは自分の感情を制御する為の体系化された技術だからね」


 うん。それは秋生から聞いた事がある。その話をさせると一夜じゃ終わらないから二度と聞きたいとは思わないけど、役者さんとかだと割と魔術に傾倒する人は多いらしい。人気商売だから表沙汰にしないだけだとか嘘くさい事をのたまってた。

 けど、そうだとしたら一つ疑問が出てくる。

 武山君は感情を制御する為に魔術を学んだという。彼自身の特殊な体質を考えれば、すでに何度も言われているように彼の魔術師としての腕は確かなのだろう。でもさ、それにしてはさ、ちょっとお粗末に過ぎないだろうか。

 感情を制御出来ている人がどうしてわざわざ障害の多い同性に惚れてるのさ?

 私がそこにツッコむと、武山君は慌てて弁解を始めた。


「いや、だからさ、感情が絡むと本当に厄介なんだよ。大体、最初に会った時は女の子だったんだ。男だって知った時にはもう……その……気に入っちゃってたんだから、仕方がないだろっ」


 はい~?

 慌てた武山君が言葉につかえながらも放った言い訳。そこには今の私が聞き捨てられない珍妙な言葉が混ざっていた。

 最初に会った時は……何だって?

 私が問うと武山君は一瞬しまったというような表情をして頭を抱えた。けれどすぐに顔を上げたかと思うと開き直ったようにこう言った。


「あ~、もうっ。結局全部話さないとダメか。いいよ、わかったよ。最初から話してやる。理解しようがしまいがとりあえず全部話すから、ショック受けんなよ」


 そう前置きして彼は語り始めた。

 始まりは高校の入学式。武山君が私――つまり真夏Bを見つけるところからだった。

 向こうの世界の武山君はこっちと違って魔術師のコミュニティ? みたいなのにも顔を出していて、そこで見た顔だったので声をかけるようになったそうだ。

 美少女だからな。気持ちはわかる。

 学校にいる間は妙な噂が立つのを避ける為なのかあまり話さなかったという事だが、外ではちょくちょく会って議論を交わしたりなどしていたらしい。デートですね、わかります。

 けれどそうして良好な関係を気付いていた二人に突然変化が訪れる。


「知り合って二ヶ月くらい経った頃だから六月か。急に真夏Bの態度がよそよそしくなったんだ」


 探りを入れても要領を得ず、悶々と日々だけが過ぎていく中、武山君は偶然にも真夏Bがある男性の事を調べまわっている事を知る。

 男性の名は白金徹。隣の市にある大きな病院に勤務するお医者さんだ。

 翌日、真夏Bを呼び出して問い詰めたところ、彼女は自分の出生について調べていると言った。

 こちらの世界の事を知っている武山君はそれを双子の兄についてだと思い、自分の体質が役に立つんじゃないかと思って協力を申し出たそうだ。

 まあそうだよね。中の良い女の子が自分の知らない男の事を気にしてるって思ったら気になるもんね! 放っておけないよね!


「違う! この頃はまだオレも興味半分だったんだよ…………けど、調べていくうちに少しずつ雲行きが怪しくなっていった」


 それは白金徹の勤務する病院にまつわる過去の新聞記事や噂などを収集するうちに徐々に姿を現し始めた。

 医療事故と思しき体内残留物。患者の意思を誘導しての先進医療の導入。外資系企業との癒着。

 それぞれ別の噂、事件として扱われ大きな騒ぎにはなっていなかったものの、真夏Bはこれらの糸を束ねて一本の線に繋げた。

 研究中の医療機器――特に人工臓器の人体実験と密輸。


「決定的な証拠があったわけじゃない。いや、後々証拠も証言も用意したけど、この段階ではまだ妄想みたいなもんだった。けど、普通なら考えもしないような突飛な事に真剣に向き合って可能性を模索する彼女の姿勢には、正直感銘を受けたよ」


 と、言わなくてもいい感情を吐露する武山君。

 こんな言い方をするって事はきっとこの頃にはすでに相当入れ込んでいたんだろう。ニヨニヨ。

 そこからどう発展していくのか。私としてはそこのところが他人事として、あくまでも他人事としてヒジョーに気になったのだが、そこから話は急展開を迎えた。

なんか真夏がウザキャラに……

ご覧いただきありがとうございました!


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