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私と篠宮真冬の消失

 えーと…………あんだって?

 いけね、頭が飽和状態で喜劇王が演じるお婆さんみたいな聞き方になってしまった。馬鹿にしてるわけじゃないのよ?


「してるだろ、その目は」


 はて。生憎自分では今どんな目で彼を見ているのかわからないのだけど。

 どちらかと言えば懐疑的に見ているつもりだ。だって別の世界とか言われましても、ねぇ。


「いきなり言われても信じられないんだろうな。いいよ、いつもの事だ」


 そう言ってどこか遠い目をする武山君。その横顔は哀愁に満ち溢れ、過去のトラウマを連想させた。

 黙ってその横顔を見つめる事数秒。武山君の目が微かに泳ぎ始める。

 ああ、これきっとツッコミ待ちしてるんだな。聞いて欲しいならそう言えばいいのに。

 放っておくのが本人の為だと思うが、なんだかいたたまれないので助け舟を出してあげよう。

 格好つけてるとこ悪いけど、聞かないぜ?


「……まなっちゃんはもう少し温もりのある会話を学んだ方がいい。篠宮が可哀想になってきた」


 見透かされたのがわかったか、うなだれて半眼になる武山君。

 兄とは会話自体がなかったから何とも言えないが、姉には温もりのある会話をしているつもりだ。物理的に。

 まあ良い。そんなに聞いてほしいなら聞いてあげよう。ホレホレ、優しい私に話してごらん。


「いつの間にかオレが言いたいみたいになってるのが意味不明なんだけど……ま、いい。実のところオレもあれを別の世界と言っていいのかどうなのかよくわからない。共通点も多いし、こっちの世界と違う部分も別の形で補われてたりするから、全く別ってわけじゃないんだと思う」


 それは摩訶不思議な見たことも聞いた事もない幻想の世界――――というわけではないらしい。

 魔王や勇者が我が物顔で闊歩している世界なら行ってみたいと思わなくもないのだが。


「どちらかというと平行世界って感じか。大体一緒。でも微妙に違う世界」


 残念ながら見た目は私達の住むこの世界と変わらず、歴史も物理法則も同じなら住んでいる人もほぼ同じという鏡のような世界という話だ。

 ほぼ同じ、というのは武山君が知る範囲での事だけど、何人かは立場や状況が違っているので住所や名前が一致しない場合もあるとか。

 その最も身近な例は、私達兄妹。


「向こうの君達はごく最近までお互いの事を全く知らなかったよ」


 まるで見てきたような口ぶりだ。

 ひょっとして武山君もそっちの世界に召喚された事があったりするのかしらん?


「いや、オレは全然別のもんだよ。最初から向こうの世界に居たし、こっちの世界にも居るんだ」


 なんだそりゃ。て、哲学か? いいよ。相手になってやるよ。

 意味もなくファイティングポーズをとって威嚇する。勉強はともかく頭使うのは苦手だ。


「う~ん、そう言われても他に説明のしようがないんだけど。ともあれ君達双子は離れ離れに暮らしていた。いや、戸籍も違うからもしかしたら双子ですらないのかもな」


 武山君は事も無げに言う。

 正直、そんな自分は想像もつかないというのが本音だ。

 他の部分はいい。見た目がそんなに変わらないという話だし、生まれた時から兄がいなかったならあっちの私はさぞ自由を謳歌していた事だろう。

 ただ、双子じゃない自分というのは想像の範囲外だった。

 望んでそうなったわけではないが、双子であるというのは私にとってはアイデンティティーの一つだ。疎ましく思うにせよ、好ましく思うにせよ、私の思考、思想、悩み、生活、本能、あらゆるところに影響を与えていると言っていい。それが無くなった……元々無かったとしたら、自分がどうなるのか。その想像ができなかった。


「ちなみにだけど、向こうのまなっちゃん『真夏B』は魔術師だよ」


 そう…………なの?

 いや、そうかもしれない。生来自分を磨くのが好きな私の生き方について、以前秋生に魔術師向きだと言われた事がある。その時は趣味に巻き込まれるのが嫌で逃げたのだけど、秋生という事例がなければ案外のめりこんだかもしれない。

 実際、真夏Bは昨日私に魔術を仕掛けている。それも電話越しに。

 秋生がはっきり出来ないと断言した魔術だ。あっちの私は相当に優秀な魔術師だと見える。これについては武山君も同意見のようだった。


「優秀だよ。少なくともオレが手を組もうと思う程度には」


 傲岸不遜な物言いだ。けれどそんな男に優秀と言わしめる真夏Bは相当なものなのだろう。流石私。

 というか、武山君と『真夏B』は手を組んでるの?


「そうだよ」


 なんで?

 特に考えなしに聞いてみる。だって武山君は地域一番の組織に一人で立ち向かうような魔術師なのだ。そんな人が他人と手を組んでまで何をしようというのか、単純に気になる。

 それだけだったのだけど、これが思ったよりも深刻な話のようで深いため息を吐かれた。


「彼女の目的がオレの目的でもあるからだよ」


 ふむ? 武山君の目的?

 考えた事なかったけど、そういえばなんで兄を女の子に……? あ、いや、違うか。たまたま器が真夏Bだったから女の子になっただけで、それ自体は目的じゃないんだ。

 あれ? でも器を召喚したのが銀のなんとかだとしたら魂はどっから持ってきたんだろう? 真夏Bは元々入ってたとしても兄のは…………

 そこまで考えて私は自分が重大な事を見落としている事にようやく気づいた。

 なんで気付かなかったんだろう。身体が別世界の私『真夏B』だとして、中に入っているのが兄『真冬』と『真夏B』の二つだとしたら――――――


「そう、それがオレと彼女の目的」


 沸き起こった疑問に連れられていつの間にか自分の世界に入り込んでいた私の隣から、低く深い武山君の声が滑り込む。

 口に出ていたのだろうか。いや、そんなはずはない。けれど私の思考を見透かしたかのように、彼はその続きを口にした。


「オレ達の目的はこの世界から消失した『篠宮真冬』を蘇らせる事だ」


ご覧いただきありがとうございました!

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