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私と母

※2014 7/9 誤字脱字を修正

 家から徒歩五分のコンビニに出掛けてパンツを買う。透明なプラスチックの箱に折りたたまれて入っているのでどんなデザインかがわからないのは残念。色は白にした。

 さすがにブラは置いてなかったけど、パット詰めれば私のでも何とかなるだろう。

 それだけ買うのも恥ずかしいので参考のためにファッション誌を持ってレジへ行き、予算をオーバーして元に戻す。二十歳そこそこの店員の兄ちゃんが笑顔で対応してくれたのが心に痛かった。夜中のコンビニ店員なんだからもっと愛想悪くしろよっ!


 逃げるようにコンビニを後にして家の近くまで来ると、姉がベランダに出て手旗信号を送っているのが見えた。

 何してるんだろ?


 何か必死な様子でわたわたと大げさに動く姉は教育番組の着ぐるみのようで遠目にも可愛い。

 その様子をほっこりと眺めながら家に近づいて行くと、車庫の前に差し掛かったところで理由がわかった。

 父と母が帰って来ている――――――――!


 私は一階の居間にいるであろう両親に気付かれないよう、忍び足でベランダへ近付いてこちらを見下ろす姉にどうなっているか状況を聞いた。

 幸いにも家の居間は玄関を挟んで逆方向にあるので少々話しても気付かれる心配はない。


「真夏が出てからすぐ帰って来たんだよ。まだ上がって来てはないけど、返事はしたからそのうち上がって来るかも…………」


 薄暗いベランダを見上げる形なので表情は見えないが、姉の声はかなり焦っているように聞こえた。

 っていうか、返事したんかい。


「だってそうしないと電気つけっぱで寝てると思われて上がってくるかもしれないだろ!」


 まあそれはそうだけど……声で気付かれなかったのか。

 う~ん、部屋の中からだし、返事くらいならわかんないか。

 未だに私と兄の名前を間違えて呼ぶ事の多い両親に苛立ちを覚える私としては釈然としなかったが、気付かれなかったならその方が良い。

 それよりも今の問題はどうやって部屋に戻るかだ。


 うちの家は真ん中に玄関があってそこから廊下がまっすぐ伸び、左右の部屋を分断する構造をしている。

 階段も玄関から伸びているので二階に上がろうと思ったら一度玄関を通る必要がある。しかし玄関のすぐ脇には居間の入り口があるのだ。

 夏休み前のこの季節、居間のドアは開け放しになっている。今日に限って閉じているという事はないだろう。


 つまり居間にいる両親にバレないように二階へ上がるのは不可能だ。

 階段を使えばの話だけど。


「どうする?」


 不安そうに尋ねる姉にビッと親指を立てて、私は隣の家とうちを隔てる塀に手をかけてよじ登り始めた。

 出掛ける時にジーパンにしてて良かった。

 そこから同じように車庫の屋根をよじ登るとほぼ二階の屋根と同じ高さにたどり着いた。驚いた姉の歓声が聞こえる。

 さらに波板を踏み抜かないよう、骨組みの上を慎重に歩いて家に近づくと、裸足になって二階の屋根に飛び移った。

 小学生の時に発見し利用していた我が家の裏ルートだ。

 中学に上がって以降はめっきり使わなくなっていたので不安はあったけど、ここまで来ればもう大丈夫。


 私はすべり落ちないよう壁伝いにベランダまで移動すると、その柵に手を置いて体ごと乗った。

 そのまま足をかけてベランダに入ろうとした、その時――――――


「マカ~。入るわよ~」


 突然部屋の向こうから声がしたかと思うとこちらの返事も待たずドアを開いて母が入って来た。

 マカというのは私の愛称だ。私が真夏でマカ、兄は真冬でマトと呼ばれている。


 っていうか、やばい。こんなところを見られたら女の子なんだから云々というお説教が始まってしまう。

 私は反射的に足を下ろして屋根を移動すると外壁沿いに曲がって壁の陰に隠れた。

 って、しまった! 姉がベランダにいるんだった!


 壁から頭だけ覗かせてベランダを見ると、そこには呆然と佇む姉の姿。

 こうなったら誰もいない部屋を見て母が兄の部屋へ向かってくれるのを祈るのみだ。


 天を仰いでたまたま目に付いたオリオン座に祈りを捧げる私。

 しかしそんな私の祈りも虚しく、部屋とベランダをつなぐ窓から母の頭がひょっこりと現れた。


「どうしたの? そんなところに出てたら蚊に刺されるわよ~」


 息を潜めて屋根の上に座り込む私の耳にいつもと変わらぬ母ののんびりとした声が届く。

 姉は救いを求めるように私の方を窺っているが、この状況で私にどうしろというんだ。

 目立つ手振りをするわけにもいかず、目線だけで姉に何とかするように訴え続ける。

 姉は気付かれない程度に無理無理と小さく首を振って訴えていたが、やがて観念したようにため息を吐くと、ぎぎぎぎと音がしそうなほどぎこちなく母の方へ振り返った。

 窓の隙間から漏れる明かりが姉の横顔を照らし出す。

 ほんの一瞬、姉の緊張が夜気を通して伝わってきた。

 姉はそれをすぐに振り払って姿勢を正し、母から視線を逸らすように俯いてポツポツと言葉を紡ぐ。


「………………星の観察……そう、星の観察してるん…………の。学祭でプラネタリウムをやる……クラスがあってね、どんなかな~と思って……アハハハ…………」


 姉の空笑いが閑静な住宅街に響く。

 母の様子を窺うと、姉の説明に納得したのか特に気にした様子もなく、楽しそうね~みたいな事を言っている。


 気付か…………ない?

 先ほど両親が帰って来た時は返事を返しただけだというし、距離も遠いから気付かないのも無理はないと思ったのだが、今は二メートルくらいの距離で話している。

 明かりも当たって顔も見えているはずだが、母の様子に動揺したような素振りは見えなかった。

 見た目はすごく似てるし家の中にいるんだから疑う方がおかしいのかもしれないけど、声は別人なのになぁ…………


 釈然としない気持ちになりつつも、私は続けて姉と母の会話に耳を傾ける。

 内容は私の学祭の事になっていたので姉は余計にしどろもどろになりながら、言葉少なに何とかかわしていた。

 けれど学祭の話が一段落したところで母が突然話題を変えると、ついに姉は絶句してしまった。


「ところで、マトが部屋にいないんだけど、マカ何か聞いてな~い?」


 どうやら母は先に兄の部屋を見てからこちらに来たようだった。

 私の祈りは最初から届かないようになってたのね。


 首だけで振り返り再び私に助けを求めるような視線を送って来る姉。

 だから私にどないせいと言うのか。

 私は暗闇の中でもわかるよう、姉に向かって首を振った。

 姉は諦めたようにため息を吐くと、どう返すべきか考え始めたようだった。


 それにしても――――私も興味本位に少し考える。 

 コレ姉はどう答えるんだろう。

 どうやら母は見た目に騙されて姉を私だと思い込んでいるので、この場だけなら凌ぐのは容易いだろう。

 けれどずっとそのままというわけにはいかないし、体が元に戻らなければいずれ両親にも話さなければならない時が来るだろう。


 だとしたらこの場で言ってしまった方が良い気がする。

 でもそうなると病院とか行かされるのかな?

 珍しい症例とかいって検査尽くしの日々が待っていたりして。


 しかも、しかもだよ。姉は私そっくりの美少女なのだ。

 まともな美的感覚を持った男性なら放ってはおかないだろう。

 それはお医者さんといえど例外ではないはず。

 検査と称してあっあーんな事やこっおーんな事をいろいろエロエロされてしまうに違いない。

 やばい、私それ特等席で見たいんだけど! 検査って親族は見せてもらえるのかなっ?


 止まらない妄想を膨らませつつ、姉を生暖かく見守る私。

 ふと気付くと姉がもの凄い恨みがましい目でこっちを睨んでいた。

 あ、伝わっちゃったか。テヘ。


 向こうからは見えないだろうが、私は舌を出してウインクしながら謝意を表明した。

 けれど私の海よりも深い反省の気持ちは伝わらなかったのか、姉は母の方を振り返ると意味のわからない事を言い出したのである。


「お兄ちゃんならそこにいるよ」


 そう言って姉が指差したのは紛れもなく私が頭を出している壁の陰だった。

 慌てて頭を引っ込めたが、言葉の意味がわからず一瞬フリーズしてしまったので間に合わなかっただろう。

 案の定私の姿を見咎めたらしい母の声が私に出てくるよう呼びかけてくる。


 どういう事? どういうつもり? お兄ちゃん? 私が? なぜ?

 混乱する頭で何とか姉の真意を理解しようと考えるも、呼びかけてくる声が気になってそれどころではない。

 とにかくご近所に迷惑だし、母の声を止めてから姉に問い質してやろう。


 私は弱冠の怒りと共にそう決意すると姿を見せるべく屋根の上に立ち上がった。

 しかしそこから一歩を踏み出すよりも前に、姉の更なる追撃を受ける。


「お兄ちゃんてばお母さん達がいないのをいい事に、私にキスしようとしたんだよ!」


 それを聞いた瞬間、私の頭の中は真っ白になった。


脱線してしまって書きたいところになかなかたどり着けません……。

ご覧頂ありがとうございます!

楽しんでいただけていれば幸いです!

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