私と屋上
私……自身?
言われた事に理解が追いつかず、私は思わず聞き返していた。
「まあ、理解しろとは言わないけど一応説明しようか?」
そう問う武山君に私が否と答えられるわけもなく、ただ黙って頷く。
すると武山君はおもむろに携帯を出して誰かに電話をかけ始めた。
「オレだ。悪ぃんだけど午後の授業、篠宮とサボるからゴマ化しといてくれ。そういうんじゃねえって。ああ。頼む」
どうやらクラスメイトに代返だか言い訳だかを頼んだようだ。
え、てか私もサボるの?
状況についてついて行けない私を引っ張るようにして、武山君は立ち上がり再び移動を始めた。
授業をサボるとなると中庭では目立ち過ぎるし、落ち着いて話す事も出来ないからだろう。今朝からもう何度目かわからないが、またしても状況に流され付いて行く私。
たどり着いたのは屋上だった。
入り口に立ち入り禁止の札はあったが、どういうわけかすんなりと出る事が出来た。鍵かかってないんかい。
屋上に出ると真昼の太陽に炙られ熱された空気が陽炎を伴ってむわりと立ち昇っていた。
こんな場所で長話とか勘弁して欲しいのだけど。
ついそう漏らすと、武山君が移動して塔屋の影に消えた。何をしているのかと思って私が覗きにいこうとすると、その途中で頭上から声が降ってきた。見上げるといつの間にか塔屋の上に登った武山君が私を見下ろして手招きをしている。どうやら梯子で登れるようになっているらしい。
上の方が太陽に近くて暑そうだなーとか思いつつ、私も登って塔屋の上に出るとそこには大きな給水タンクが鎮座しており、その影で武山君が手招きしていた。影の中に入ると思いのほか涼しく感じる。
「お気に入りの場所ってやつだね。水が入ってるからか涼しいし、何より景色がいいだろ?」
言われて見るとなかなか悪くない景色だった。屋上というだけでも見晴らしが良いのだけど、ここは更に一段高いので屋上を囲っている柵にも邪魔される事なく、遠く町並みを一望出来る。
あらロマンチック。隣にいるのが変態でなければもっと良かったのに。
「心外だな。変態度で言えば篠宮のが上だろ」
失敬な。君が私の何を知っているというのだね。
確かに世間一般の常識からは少しズレた感性を持っていると自負してはいるが、変態といわれるほどではないと信じてる。かわいいもの(女の子)好きなのも自分大好きなのもティーンエイジャーなら多かれ少なかれあるはず。そのはずだ。
「いや、君じゃなくて……ああ、いや、なんでもない。それよりもう一人の君の話だったね」
そう言って武山君はゴマ化すように話を戻した。私じゃないとしたらその”篠宮真夏”の事か、兄の事だろう。どちらの性癖にも興味はないからここはゴマ化されておこう。涼しいと言っても他の場所と比べていくらかマシという程度だし、なるべく早く話を終わらせたい。
私は黙って先を促した。
「どっから話したもんかな。まず真面目な話として聞いて欲しいんだけど……実はオレ、魔術師なんだ」
ん? うん、知ってる。
変な前置きをするから何を言うのかと思えば、既出の情報じゃないか。いや、私が聞いたのは秋生からだから武山君としては初出になるんだろうけど。
そんな事を考えていたら案の定、訝しげな表情をされた。
「割と勇気のいる告白なんだけど……そうか。真夏Bから聞いたのか」
真夏Bて。わかりやすいじゃないか。私が真夏Aというわけだね。
「いや、まなっちゃんはCくらいじゃなかった?」
おい。Aはどこいったのさ……ってどこ見ていってんだ、そういう意味かっ!
私は武山君の視線が胸の辺りに移動しているのに気付いて、それを遮るように腕で隠しながら叫んだ。
今はサラシ巻いてるんだからサイズなんてわからんだろうがー…………ああ、一度見られてるんだった。
というか、まさか姉の胸を見たんじゃないだろうな、こいつ。
もしもそうだったら絶対に許さん。
「いや、冗談。見てないよ。ほんとにマジで。神に誓って。だからそんな殺気篭もった目でみないでくれ」
むぅ。武山君が何と言おうと信用に値しないのでもう少し突っ込んで聞きたいところなのだが、そうするとまた話が進まなくなるのでやめておこう。
私はわざとわかり易く肺を膨らませて深呼吸をした。
まあいい。とりあえず信じるよ。ちなみに私が聞いたのはBからじゃないよ。
「あれ、そうなのか。まさか結社のメンバーから……?」
いやいや、そんな怪しげな組織に入ってる知り合いいないから。友達にそういうの詳しい子がいるんだよ。
秋生と武山君はもう面識があるので話しても良いかとも思ったが、よく思い出してみると二人が話したのは一言二言くらいで、武山君は秋生を魔術師ではなく私の友人としか認識してないみたいなので黙っている事にする。友人の個人情報なので当然だろう。
ただ、話が重複するのも面倒なので結社については知っていると答えておいた。
「なら話は早いね。その結社が召喚したのが真夏Bだ。オレはそれを事前に知ってたから横から奪い取ったってわけ」
わかったかな? と言わんばかりの口調で言う武山君。
いや、ちょっと待て。色々おかしいでしょ。まずなんで魂とかじゃなく物理的に身体が召喚されてんのさ。そんなの超科学の世界じゃないか。
「いいところに気付いたね。確かに質量のあるものを魔術で召喚するなんてのは非現実的だ。けど、概念なら?」
概念?
言われた意味がわからない。広辞苑をください。日常で使わなくもない単語だけど改めて考えると難しいな。
たぶん抽象的なものに形を与えるための型みたいな意味?
「うん、その理解で大丈夫だよ。どうせ辞書なんて見ても意味わからないから。要は篠宮真夏という存在を抽象化して質量を無くし、こっちに移動させた後で型に嵌めて形を戻すって感じかな」
なんか科学反応の説明みたいに言うけど、物理法則はどこへやったんだ。質量を無くし、とか。意味がわからない。
けれど事実として兄は姉になり、その身体は私の身体と酷似している。
……あれ、でも呼び出されたのって金曜の夜だよね? その時点の私を元にしたにしては大分造形に差があるのだけど?
武山君もそれは認識しているはずだ。BとかCとか言ってやがったし。
もう少し前の私ならわからないけど、金曜の段階と比べたら今とほぼ同じはず。にも関わらず見た目にわかるほどの違いがあるのはなんでだ?
そう聞いて見ると、武山君は一瞬意味がわからなかったようで眉根を寄せて考えるような仕草をした後、すぐにあっと声を上げて答えた。
「違う、そうじゃないんだよ。彼女はコピーじゃなくて、オリジナル。抽象化して召喚された『別の世界の篠宮真夏』って事だよ」
さも当然のように言う武山君。
えーと………………別の世界?
わからない事はなるべく考えないようにして話を進めてきたけれど、流石に頭が痛くなってきた。
あー、水曜投稿 間に合わず。。
大した内容はないのにすごい難産でした……端折った部分で次話が埋まりそうだぜ。
ご覧いただきありがとうございました!




