私と少女の危機的状況
R15っていうか、今回は15禁でお願いします。
そんなわけがないでしょう。私は身体と声を強張らせながら答えた。
その答えに、姉にとりついている名前も知らない誰かは観察するような油断ならない目で私を見ながらも不敵な笑みを浮かべて満足そうに頷く。
「ふふふ。いいよ、いいよ~。疑い、警戒し、吟味して、その上で真冬を思いやり、結果私の思惑通りに動く。最高だね」
ただでさえベッドの上と下で見下ろされる位置にいるというのに、そいつは更に顎を突き上げ、視線だけ私に向けて見下すように笑う。これが普通の女の子だったら抱きしめて耳たぶに甘噛みでもしてやるのだが、さすがの私も性格の悪そうな正体不明の憑依者にやるほどぶっとい神経はしていない。というかさっきから少女の声を聞く度に背筋の辺りにざわざわとした感覚が走って気持ち悪いのだ。
それはどうも。で、今日は朝っぱらから何の用なのかな?
自分の身体を抱くように両手を組んで、見下ろされる視線に負けてたまるかと睨み返す。それにしても中身が違えばこうして見下されるのも悪くないやいや、そんな場合じゃないだろう私。
精一杯殺気を込めて返したつもりの視線は、けれど心の奥底にある愉悦が漏れたのか、ひるみもせず飄々と受け流された。
「ん~? 別に用というようなものはないんだけどね。私に聞きたい事がいっぱいあるんじゃないかと思って、真冬が目を覚ます前にわざわざ出てきてあげたわけだよ」
にっこりという擬音が見えそうなほど満面に笑みを浮かべて、姉にとりついた謎の人物が言う。
くぅっ、こんな時でもカワイイと思ってしまう自分の感性が憎い!
先程唇に触れた温もりや舌先のこそばゆさを思い出し後ろ髪を引かれる私だったが、べりべりと音がしそうな勢いで引き剥がし清廉潔白な気持ちで相対する。
とてつもなく恩着せがましい言い方だったのが気になるけれど、確かに相手の方からわざわざ出て来て質問に答えてくれるというのだ。この機会を逃す手はない。
まずは何度したかわからないが、昨日電話越しには答えてもらえなかった質問から投げかけてみる。
貴方のお名前なんてぇの?
「またそれかい。もう、何度も言ってるのに全然わかってくれないんだもんな。篠宮真夏」
それはこっちの台詞だ。何度聞いても全然答えてくれない。
いや、これはもしかして暗に聞くなと言っているのをわかってくれないという意味だろうか。
えー、でも答えてくれるんでしょ? そのために出てきたんでしょ?
「いやいや、聞きたい事があるんじゃないかと思って、とは言ったけどすべてに答えるとは言ってない……ああ、この言い方だとまた誤解を招くなぁ」
目だけで天井を仰ぎ、何やら考えるような仕草を始める少女。
やがて何かを思い出したかのように「あっ」と声を上げたかと思うと、なぜか少しだけ顔を赤らめて私の方を見た。
「う~……背に腹は変えられない…………か」
そして諦めたようにうめいて何の事かわからずポカリと口を開ける私の目の前で立ち上がると、おもむろにパジャマのズボンに手をかけてそれを一気にずり下げた。
ほっそりとした白い脚、丸く柔らかそうなお尻、それをつつむ可愛らしいエメラルド色のパンツ。これはたぶんハルネ先輩が見繕ってくれた物だ。それらがカーテン越しに入り込む朝日をバックに私の網膜に焼き刻まれる。
な、え、と、突然何を…………
混乱し、前屈みに……もとい、前のめりになって警戒する私の目の前で、更にパジャマから左足を抜いた少女は再びベッドに腰掛けると、引き抜いた脚をへの字に曲げて内腿を見せるように開いた。
「こ……ここ、見て」
上擦った声でそう言う少女の指し示したのは、足の付け根、それも内腿の普通ならまず見る事のない部分だった。自分でもそんなところを人に見せるのに抵抗があるのか、股を覗き込むように指し示すのではなく、顔を右側に背け、左手をお尻側からまわして指示棒で示すように人差し指を当てている。
なにコレ、エロい。
私は羞恥に悶えながらも懸命に何かを証明しようとする少女の熱意に応えるべく、警戒心は緩めないままに内股に顔を埋めんばかりに近付いてその指し示された部分を覗き込んだ。指し示された時点で大体予想はついていたのだが、少女が指し示していたのは思った通り小さな痣だった。昨日、七ヶ瀬プラザの試着室でも見たものだ。
これがどうかしたの?
息がかかるほど近くで内腿を観察しながら聞いてみると、そのはずみで息がかかったらしく少女の身体がピクンと揺れる。
「うぅ~~~~……よく、見て。たぶん、全く同じはず、だから」
きっと本心では離れてって言いたいんだろうなとわかるくらい顔を真っ赤にして涙すら浮かべながら声を絞り出す少女。
いつもなら小躍りして喜び、遠視のフリで焦らしつつ息を吹きかけて反応を楽しむくらいはするのだけれど、少女の言葉を聞いた私は瞬間的にある可能性を思いつき、食い入るようにその内腿に浮かび上がる痣を凝視した。
直後、浮かれていた気分が一気にしぼみ、頭は急速に血の気を失って冷えてゆく。
そんなはずはない。そんな事があるはずがない。
だってあの痣は子供の頃に私がつけたものだ。
兄と自分は違うんだと密かに主張するため、私が『私に』つけた痣だ。
同じなはずがない。同じものが兄に――姉の身体についているはずがない。
否定しようとする心の声に従って、私はより詳しく調べようと少女の腰を半ば抱き寄せるようにして内腿に手を這わせる。
色合い、大きさ、形、どれ一つとっても違いを見出せない。
けれどそんなはずはない。そんなはずはないのだ。
周りを圧迫して拡大してみたり、唾をつけて擦ったりしてもその痣が不自然に消えるような事はない。
触れたり舐めたりするたびに少女は悩ましげな声を上げるが、構うものか。
私には余裕がなかった。
だって、だって……………………
――――――この痣があるって事は、この身体は私のって事じゃないか――――――
私が心の中で悲痛な叫びを上げた時、同時に背後でガチャリとドアノブを回すような音が聞こえた。
ドアを開き、笑顔で部屋の中へ入ってきた母は、ベッドの上で悶える少女と、その内股に顔を埋める私の姿を確認すると、表情すら変えないままにその場で硬直したのだった。
気付けば朝だけで4話も使ってますね。。多分次も朝の話に……なるのかな?
まあいつも通りですが予定は未定という事で。
ご覧いただきありがとうございました!




