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私と家路

 その後、秋生と私は二階へ戻り、服飾コーナーの反対側にある本屋と文具屋に寄って学祭の買出しを行った。

 買い物リストは用意していたのだが、久しぶりに寄った文具屋には面白い文房具が増えていて、気づくと四時を回っていた。

 購入したのは飾りつけ用の色紙とか画用紙、ティッシュ、ウェットティッシュや記録用のノートなど、紙類が圧倒的に多かったのでボリュームは紙袋に三つ程度なのにその全部が異様に重い。まあ部の男性陣はホームセンターで木材とか金属材を買いに行っているはずなのでそれよりはマシなのだけど。

 とはいえ一人ではキツいので秋生に紙袋一つと私の手提げカバンを持ってもらった。

 服飾コーナーへ戻り、先輩のいるブランドコーナーへ向かう。

 そこにはデニムのショートパンツに上はゆるめのボーダータンクトップと赤いジャケット、靴は鹿か馬のような短い毛足の革を使った丈の低いブーツでタンクトップとおそろいのボーダーニーソックス、そして頭にはクリーム色のキャスケットを被ったパンキッシュな格好でポーズをとる姉とそれを激写するハルネ先輩が待っていた。

 場所は先ほど私がパンツ姿を晒した控え室である。外ではレジに張り付いたハクさんが一人でお客さんを捌いている。先ほど私達が居た時には疎らだったお客さんも、食事時を過ぎたせいか少し増えていて大変そうだったのだけど、手伝わなくても良いのだろうか。というかそもそも姉の着る服を選んで欲しいというような依頼をしたはずなのだが。

 なにしてんですか、先輩。


「お、秋生さん、真夏ちゃん、おかえり。早かったっスね~」

「二時間近く経ってますよ」

「えっ! もうそんな経ってたっスか? なはは、夢中になってて気づかなかったっス」


 悪びれた風もなく笑って頭を掻くハルネ先輩。

 相変わらずノリが軽いけど、私達が控え室へ入るときに見たハクさんのあの笑顔を見たら笑ってなんていられなくなるだろう。

 とりあえず仕事に戻った方がいいですよ。


「う……ん。しまったなぁ。ハク兄怒ってた?」


 どうでしょうね。一応私達には笑顔で接してくれましたけど、話しかけるのには勇気がいりました。

 個人的な印象で言えば怒っているようにしか見えなかったが先入観があったかもしれないので言葉を濁して伝えると、ハルネ先輩は笑顔を引きつらせて、


「ちょっと、様子を見てくる」


 今にも消えそうな小さな声でそう呟いて控え室から出て行った。

 私はその背中を敬礼で見送った。

 ご冥福をお祈りします。


 ハルネ先輩が去ったところで姉の方に目をやると、カメラから開放されて疲れが出たのかその場に座り込んでぐったりとうなだれていた。

 お疲れ様。声をかけて一緒に座り込む。

 洋服ちゃんと選んでもらった? まさかずっと撮影会してたわけじゃないよね?


「ああ、うん。もちろん選んでもらったよ。量が多くて明らかに予算オーバーだったんで、手頃な価格で合わせやすいのをって頼んだんだけど、実際に合わせて見るのが一番だって言われてあれやこれやという間に撮影されてた。カメラマンってこええのな」


 それはカメラマンの手管なのかな。なにか決定的に方向性を間違っている気がするのだけど。人事ながらハルネ先輩の将来が不安である。

 とはいえハルネ先輩のセンスは私も認めるところだ。選んでもらったという服はどれも上下セットになっているようだが、組み替えても違和感のないシンプルデザインとアクセントに使えそうな個性的なデザインがバランスよくなるように選んである。

 流石だなぁと感心しつつ、私はその中から予算に合ったものを数点選んで姉に手渡し、サイズを見るために試着してもらった。

 特に問題ないようだったのでそれらを姉に持たせてハクさんの元へ送り出し、私と秋生で簡単に片付けてから控え室を後にした。


 レジの後ろから顔を出すと、丁度姉がお会計を終えたところだった。

 てっきりハルネ先輩がレジを打っているものだと思っていたのだが、そこに立っていたのはハクさんだった。

 嫌な思い出を払拭するように私の方からハクさんに声をかける。

 お邪魔しました~。


「ああ、ごめんね、お構いもできなくて」


 いえいえ。こちらこそ長い時間占拠してしまってすみません。

 会釈程度に頭を下げながら周囲を見てみると、店の片隅で展示品の畳み直しをしているハルネ先輩の姿を発見した。不満そうな表情を浮かべているところをみるとやはり怒られたのだろう。

 私達がレジ側から出てお互いの荷物の重さを確認しながら誰がどれを持つか話し始めると、ハクさんはハルネ先輩をレジに立たせて控え室へと引っ込んだ。

 たぶん、私達に邪魔された分の休憩を今からとるのだろう。ハクさんには本当に迷惑をかけてしまって申し訳ない。

 ハルネ先輩にそう言って再度謝っておいて欲しい旨を伝えると、


「あー、いいっていいって。迷惑かけたのは全般的にあたしだからさ。真夏ちゃんはどっちかってーと被害者だろ」


 そう言われてみればそうかもしれないと納得する。

 てか、被害とか。恥ずかしいので思い出させないで欲しい。


「ごめんごめん。ま、ハク兄の事は気にしないでまた遊びに来てくれよ」


 そう言って手を振るハルネ先輩と別れて、私達三人は七ヶ瀬プラザを出た。

 厚い雲の立ちこめた空は夏場の夕方だというのにどんよりと暗く、今にも振り出しそうな色合いだったので私達は振り出す前にと足早に駅へ向かった。

 秋生は徒歩で帰れるのだが、荷物が多いのでわざわざ遠回りして付き合ってくれたのだ。


 駅につくと秋生から荷物を受け取って別れ、私と姉は二人きりで帰路につく。

 別れ際、秋生はさよならの代わりに「例の件、忘れないでね」と囁いて手を振った。


 少し時間の早い休日の電車の中は人もまばらで、私達はボックス席に座って一息ついた。

 電車の柔らかな椅子に腰を落ち着け、単調な揺れに身を任せていると再び眠気が襲ってくる。

 向かい側を見ると姉もうつらうつらと船を漕いでいた。

 よだれが垂れそうですよ、お姉さん。

 すぐ隣の駅で降りなければならないので、寝かさないようにホッペをつまみ、ムニムニとひっぱってもてあそぶ。その手を嫌がるように首を振って払おうとする姉を尚もいじりながら、私は秋生の言葉を思い出す。

 例の件…………ね。

 それはつまり、フードコートで聞かされた話。姉の正体についての仮説の事だ。

端折った感が前面に出てますが、ちょっと二日目長くなり過ぎているのでお許しを。


ご覧いただきありがとうございました!

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