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私と悪戯心

 それで秋生。さっきの話はどういう事なのかな? あんた武山君の事、前から知ってたの?


「ええ、知ってたわ」


 あっさりと。何のためらいもなく告げる秋生。どうしよう。グーで殴りたい。

 いやいや、折角ハルネ先輩の警戒心を解いたところだ。我慢我慢。


「だから言ったでしょう。彼もまた魔に魅入られし呪い子だと」


 ぅあ? あ~……ああ、なんかそのフレーズは確かに聞いた覚えがあるなあ。ファーストフード店で聞いたんだっけ。

 つまり知ってて追い返したわけ?


「そうよ」


 やはりしれっとした応えが返って来る。

 ぐぬぬ。何、この悪びれのなさ。私の方が悪い事してる気分になる。

 なんであの時言ってくれなかったのさ?


「聞く気があったの?」


 単純に思った通りの事を質問しただけだったのだが、この時初めて秋生の言葉に感情らしいものが篭った。

 あれ……なんか怒っていらっしゃる。

 すでに二時間近く経過しているのでよく覚えていないのだけど、何か気に障るような事をしただろうか。

 記憶の糸を手繰り寄せて思い出してみる。


 武山君が突然現れた時、秋生は確か驚いたような表情で固まっていた。

 私が武山君の話を聞いている間にどうしていたかはわからないが、この時秋生をハブにしたのは武山君だ。私は悪くない。

 秋生が武山君を追い払った後は……ああ、秋生が妄想で暴走したんだっけ。んで適当にあしらって……直後に姉が現れた、と。


 ん~、もしかしてこの適当にあしらって、の辺りかな?

 直接的に聞くとヘソを曲げられそうなので若干表現を婉曲にして秋生に聞いてみると、どうやら私の推測は正しかった。

 魔術の話を適当にあしらわれたのが気に入らなかったらしい。


「真夏はいつも私が魔術の話をしようとすると聞く耳を持たなくなるじゃない」


 ふむ? そうだっけ?

 惚けてそんな応えを返すものの、身に覚えのある話だった。

 だって魔術とか興味ないんだもん。私は天使ではあっても聖人君子ではないのだよ。嫌なものは嫌、興味ないものは興味ないと態度で示さねば。


「それはわかるわよ。これでも真夏の前では控えているつもりだもの。けれどそうやって説明を拒否した後で蒸し返されては私だって良い気はしないわ」


 ぐむ。そういう事か。

 あの時オカルトを科学するみたいな長い話をしていたのは壮大な前振りで、武山君の話はその後にするつもりだったのか。

 その途中で私が聞く気を失くし、更に姉が現れた事で話す機会も失ったから秋生なりに気を遣って蒸し返さないようにしていたのだろう。それを私の方から蒸し返して責められたのでは秋生が気分を害するのも無理はない。

 私は申し訳ない気持ちで二の句が告げなくなった。


「つまり秋生さんは篠宮ちゃんと趣味の話が出来なくって拗ねてるんスね」


 黙りこんだ私に代わって話を引き継いだのはテニスのラリーを観戦するように様子を見守っていたハルネ先輩だった。

 突然割り込んだ明後日の方向からの攻撃に、秋生は顔を赤くして振り向く。


「いやー、秋生さんも可愛いところあるッスね。今、初めて秋生さんが後輩に見えました」


 屈託のない笑顔でそんな事を言われた秋生は口をパクパクとさせて何か話そうとしていたが、結局何も言えず俯いて口を閉ざしてしまった。

 あれは図星だった時の反応だな。

 黙りこんだ秋生に、今が反撃時と見た私は普段以上にフレンドリーに見えるよう両手を開いて受け入れる姿勢を見せながら近付いた。


 なんだ、私と趣味の話がしたかったのかー。愛い奴め。

 けれど魔術の話は簡便してください。超常現象とかなら少しは興味あるからそっちが良いな~。


 パシャリ


 嫌味たっぷりに笑顔を浮かべて秋生の肩に手を回した時、聞きなれた音がして私と秋生は音のした方に顔を向ける。

 するといつの間に用意していたのか、携帯電話の背面をこちらに向けて構えるハルネ先輩の姿があった。

 何してんでスか、先輩?


「えへへ。仲直りの記念に一枚、ね。お~、やっぱり二人とも見目麗しいから絵になるなあ。普段と違った秋生さんも可愛らしいッスよ」


 んむ? まあ、私が麗しいのは当然ですけどね? 秋生が可愛い事になってるのもわかりますけどね?

 なんで写真とるの? 仲直りの記念? 自分の事でもないのに? そういうもん?

 まだいまいちハルネ先輩のキャラが掴めていない私は、それがアリなのかナシなのか微妙に判断がつかなかった。

 確かに友達が仲直りした記念に写真を撮るのはなくもない気がするけど、一方が今日知り合ったばかりでも撮るかな?


「ん~、なんか色合いが地味だな。秋生さん、こっちのブラウス羽織ってもらえまスか? 篠宮ちゃんは後ろの帽子被ってみて。その麦わらのやつ」


 わけもわからず言われるがまま、振り返ったところに飾ってある造花のついた麦わら帽子かぶる。

 秋生も言われた通り指定された丈の短いブラウスを羽織ると私の隣に戻ってきた。

 なるほど。喪服の如き黒一色の地味さを払拭する為に、お堅い中にも華やかさのあるギンガムチェックのブラウスで緩和したのか。オーソドックスだけど、お手軽で効果もバツグンの良いアレンジ。さすが店員さんだ。


「いいねいいね、二人とも似合ってるッスよ。うっし、次はこっちのスカートに履き替えて……」


 ハルネ先輩はノリノリで写真を撮るとすぐに次着ける物を選びにかかる。

 私の隣では秋生が「悪い流れね」と苦笑混じりに零していた。

 ああ、そうか。わかった。この人私と同類なんだ。

 理解が追いつくと同時、私の脳裏には彼女の思惑とは別の素晴らしい考えが過ぎった。

 私が新人類なら「見えたっ!」とか叫びつつ背景に効果線が走るところだ。

 ハルネ先輩、ハルネ先輩。


「ん? なにかな篠宮ちゃん。あ、このピンクのカーディガンを腰に巻くのはどうだろう」


 いえ、それも大変良いと思うのですが、ワタクシ試してみたいワンピースがありまして。


「ワンピース? どれ?」


 あっちのワゴンセールのやつなんですけど、試着してみても良いですか?


「ああ、あれも可愛いよな~。ならボトムスにこっちのジーパンを……」


 あ、いえ、まずはワンピースだけで着てみますのでコーディネイトは後でお願いします。


「ボトムスなしだとかなり短いけど、いいの?」


 そこが良いのですよ。ホッホッホ。では、着替えて参りまする。

 疑問府を浮かべるハルネ先輩を置いてワンピース片手に試着室へと向かう。カーテンは閉まっているが、中身はご存知の通りである。

 私は外側から中が見えないように気をつけながらカーテンの中へと入った。


「短いのが良いって……彼女、露出癖でもあるんスか?」

「否定はしませんが、今のは単に悪戯好きなだけですよ」


 聞こえてるよ、お二人さん……ってか、否定しろよ、秋生っ!

 ノリで発言する怖さを知った十五歳の夏でした。


 試着室に入ると待ちくたびれた姉が下着姿で座り込んでいた。

 私はそれに覆いかぶさるように跪き、うな垂れる。


「さんざん人を待たせておいて何落ち込んでるんだよ」


 うう……それについては本当に申し訳ないと思っているのだけど、死者に鞭打つのやめてもらえませんかね。

 まあいい、二人同じ格好で出て行けばあの先輩も理解するだろう。

 ちゃっちゃと着替えて出ていくぞ、お姉ちゃん!


「よ、よくわからんけど、おう」


 というわけで私は濡れ衣を解くべく急いで姉の着替えを手伝う事にした。

 まず姉を鏡に正対するように立たせて下着のつけ方をチェックする。

 ふむふむ。初めてにしては上手く出来ている。胸も形良く収まっているし、紐パンの締め具合も締めすぎず緩すぎず丁度良い感じだ。

 少々ひっぱったくらいでは……あ、ほどけた。


「ほどけたじゃねぇ! 思いっきり引っ張んな」


 いや、こういうハプニングってお約束だから念入りに確かめただけだよ~。

 テヘッと舌を出しつつゴマ化して笑う。

 ともあれ下着の着方は合格だ。次はワンピースなのだが……実を言うとこれは完成図を想像できれば別に難しい事は何もない。

 姉に着方がわからないのはたぶん、男性用の服は基本的に結んだり引っ掛けたりという概念がないからだと思われる。

 それさえ分かれば細かい調整などはほとんど必要ないのだ。


「え、そうなのか?」


 うむ。そういうわけでまずはインナーのTシャツを着てもらう。これは手を出さなくても問題なかった。

 で、次はこっちのワンピース本体なのだけど、まずはこの筒状になっているところに両足を入れて腰まで上げてね。

 姉が私の言う通りにワンピースを履くと、おなかの辺りに布の余ったスカート状になる。

 この余った布で身体の前側を覆うように持ち上げて、上の細いところを首の後ろで結べば……はい、完成。


「おお、こうなるのか」


 完成形もわからずただクシャっとした布で想像を膨らませていた姉はちゃんと服らしい形になったのを見て感嘆の声を漏らした。

 そこじゃなくて服の可愛いさを見て欲しいのだけれど。まあ嬉しそうに見ているので良しとしよう。

 さ、次は私だ。

 姉のとは別の色を選んだが、形は同じなので特にこれという問題もなく着替えを終える。

 着てみて思ったのだけどこのワンピース本当に着丈短いな。屈んだだけで下着が見えてしまいそうだ。


「ぺ、ぺあるっく…………」


 む?

 着替え終えてから裾を下げようと無駄な努力をしていると、私のワンピース姿を見た姉がくぐもった声で呟くのが聞こえた。

 そういえば言ってなかったっけ。そうだよ~ペアルックだよ~。

 改めて言われると気恥ずかしい気がするが、大丈夫。私の予想では秋生を中心にして歩けば双子を侍らせる秋生に世間の目は向くはずである。

 それよりも私達が出て行った時のハルネ先輩の反応が見物だ。

 どんな反応をするだろうか。良い声で鳴いてくれると良いのだが。

 私は抑えた声でキシシと一人笑って、嫌がる姉を無理矢理外へと押し出した。


今回また投稿が遅くなってしまいました。申し訳ございません。


ご覧いただきありがとうございました!

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