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私と紐

 下着を買って戻った私は待ちくたびれた二人にしこたま怒られた。

 だが! 私は正しかった! 姉は昨日私が貸したパンツのままだったのだ! それどころかお風呂にも入っていなかった! きちゃないっ!


「一日入らなかったくらいで大げさな……っつか、着替えないんだから仕方ないだろ」


 言い訳乙。

 というわけで例によって試着室に二人で篭ってお着替えをする事にする。

 先に試着室へ入る姉の後にくっついて私が靴を脱いでいると、その目の前でカーテンが閉められた。をい?


「下着換えるまで待って!」


 強い口調でそう言われて私は脱いだ靴の上に立ちつくす。

 いやそんな気はしてましたけどね。ちっ、恥らう姉をじっくりねっとり視姦するチャンスだと思ったのに。

 仕方がないのでカーテン越しに耳をそばだてて音だけで中の様子を探る。


「恥ずかしいからやめなさい」


 すると今度は秋生に耳をつかまれて引き剥がされました。

 おのれ、世の中敵ばっかりだ。

 いじけた私は秋生が嫌がりそうな帽子を探しては秋生に被せてストレスを発散させる。

 そんな風に暇を潰しているとしばらくしてから姉が試着室のカーテンから首だけ出して私を呼んだので、マタドールに突進する闘牛よろしく勢いをつけてカーテンへと突っ込んだ。

 勢い余ってカーテンを引きちぎるかと思ったが、姉が堪えて勢いを殺してくれたので何とか大丈夫だった。しかし――――


「ちょっとお客さん、そういう事されると困るんすけど」


 店員さんと思われる声がカーテンの外から咎めてきた。

 す、すみません、ちょっとテンションが振り切ってしまっただけなんです。悪気はなかったんです。

 恥ずかしいのでカーテンは開けないまま外に向かって平謝り。おかしい。姉を辱めるつもりだったのに何故私が恥ずかしい思いをしているのか。

 釈然としないものの、自分が悪いのはわかっているので姿の見えない店員さんに向かって頭を下げ続けるしかなかった。

 と、そこへ騒ぎを聞きつけたらしい秋生の声が割って入る。

 すると店員さんの声が急に小声になって外からの声がよく聞こえなくなった。

 なんだろう? 秋生と話し込んでいるような感じだけど……

 詳細はわからなかったが、秋生が何とかゴマ化そうとしてくれているのかもしれない。ここは好意に甘えて早いトコ本懐を遂げるべきだろう。

 さあ、そういうわけだ、お姉ちゃん。我々の罪は許された。


「許されてねーし、共犯みたいに言うな」


 倒れないように受け止めてくれたんだから犯罪幇助だよ。そんな事より着せ替えしようぜ!

 先ほどの反省はどこへやら、私は再びテンションを上げて手をわきわきさせながら姉に向かう。

 てっきりワンピースの着方がわからなくて呼ばれたのだと思ったのだが、どうやらそれ以前に下着の着方がわからなかったらしい。姉はまだ、きちゃない方の格好のままだった。


「きちゃないとか言うな。それよりお前、なんてものを買ってきてくれたんだよ」


 険しい表情をした姉が差し出したのは先ほど私が手渡した、下着を入れた袋だった。

 ふふ。やはり拒絶反応を示してきたか。ある程度予想していた展開だ。

 私は袋に手を突っ込んで中の品物を取り出す。細く、柔らかなフリルをあしらった紐に引かれてするすると取り出したそれは、いわゆる紐パンと呼ばれるタイプのショーツだった。

 正直これの正しい履き方は私にもよくわからない。まあ見せる相手もいないのにこんな不安なもん履く機会なんてそうそうないだろという話なのだけど余計なお世話だ放っといてくれ。

 そんなわけで呼ばれるところまでは予想出来ていたのである。

 が、その後をどうするかは考えていなかった。


「これ、紐パンってやつだろ? 実物を見るのは初めてだけどこんな平面的な構造してたのか」


 私がつまんでぶら下げた紐パンに顔を近づけて姉がその構造にしみじみと感想を漏らす。

 まあ紐結ばないと型紙から切り取っただけの布みたいなもんだからね。

 しかし困った。面白いと思ったから……あ、いや、姉に似合うと思ったから買ったのだが、パンツの履き方を教えるのってやっぱり最初は履かせてあげるところから始めるべきだよね。身内とはいえそれってどうなんだろう。ぎりぎりアウトな気がする。

 いや、けどパンツの履き方なんて最初はみんな親から教えてもらうはず。ご家庭の事情次第ではお姉ちゃんから教えてもらう場合もあるだろう。だとしたら妹とはいえ女子としては大先輩にあたるこの私が教える事に何の問題があろうか。いや、ない。

 そう、これは家族という社会の営みの一つである。けして私が裸で恥らう姉を見たいとか、自分と比べてどんな具合か知りたいとかそういう欲求から言っているわけではないのだ。

 さあ、お姉ちゃん、スポーンと全部脱ぐがいい。一糸まとわぬ生まれたままの姿を妹の前に晒すがいいよ。


「生まれたままって……生まれた時とは性別が違うんだが」


 ぶつぶつと言いながらも私が期待するほどには抵抗がないのか、姉は少しも恥らう事なく服を脱ぎ、まもなくパンツ一丁になった。

 って、なんでパンツは履いたままなのさ。


「え、パンツも脱ぐのか?」


 当たり前じゃん! パンツ履き換えようっていうのに脱がないでどうするのさ!

 あまりにも躊躇なく脱ぐので恥ずかしくないのかと思ったのだが、パンツだけは別らしい。

 なんでも上裸パンイチは学校でもよくある事なので恥ずかしさはあまり感じないのだとか。言われてみれば男子って教室とかでも普通に着替えたりしてるなぁ。

 そんな事を考えつつも折角なので姉の肢体をまじまじと見つめる私。

 流れるような滑らかな曲線を描くくびれた腰。自己主張をしない程度に密やかに、けれど女の子らしい柔らかさをかもし出す控えめな胸。ぼんやりと明かりを跳ね返す乳白色の肌。どれひとつとっても欠点の見当たらない至高の芸術品のよう……ん?

 舐めるように顔を近づけて姉の美しい肢体を楽しんでいた私だったが、視界の端に少しだけ色の違う痣のようになった部分が見えた。太ももの内側、足の付け根に程近い見ようと思っても中々見えないような場所だ。

 私はその痣に心当たりがあった。

 けれどもっとよく確認しようと私がその部分に顔を近づけると、嫌がるように姉が身をよじる。


「あ、あんまり見つめるなよっ!」


 自分で恥ずかしくないと言っておきながら、少し眺めたくらいで根をあげるとは不甲斐ない。

 とはいえ見られて恥ずかしいと感じるという事は、少しは女の子としての自覚が生まれて来たのかもしれない。これは喜ぶべきところだろう。

 いいよ、いいよー。その恥じらい最高だよー。

 私がはやし立てると姉に頬を膨らませてそっぽを向かれた。ぶりっ子みたいな素振りだが姉がやると異常に似合っていて可愛らしい。

 しかしあまりやり過ぎて嫌われては困るので、痣の確認はとりあえず後回し。

 結局姉は私の前でパンツを脱ぐのはどうしても嫌だというので、やり方だけ見せて私は一旦試着室から出るという事になった。


 そんじゃあ説明するよ。いくつか履き方はあると思うんだけど、私は片方を仮留めしてから履くようにしてる。

 言いながら私は履いているキュロットスカートの裾を捲し上げて、なるべく太ももの付け根に近い位置に巻きつけるように紐を結んだ。

 この状態で反対も仮留めしてから擦り上げて、後で綺麗に見えるように調整するって感じ。


「お~、なるほど」


 ちょっと不恰好で恥ずかしかったが、キュロットの上にパンツを履く形で一通りの手順をやってみせると、姉は関心したように声を漏らして私の股間に顔を近づけてまじまじと見つめた。ああ、なるほど。先ほどとは逆の立場になってしまったが、これは確かに身をよじりたくもなる。

 ってか、太ももに息がかかってこそばゆいんですけど!

 色々と耐えかねた私は姉の頭をガッとつかんで引き離すと立ち上がらせてさっさとパンツの紐をほどいた。


 ふ~、あぶねぃ。変な気分になるところだったぜ。

 額にかいた変な汗を片手で拭って息を吐く私。自分はノーマルだと思ってたけど、こんな狭い空間に美少女と二人きりというシチュエーションは精神的にあまり良くないようだ。

 自ら望んで作ったシチュエーションだけど、一歩間違うと盛大に道を踏み外しかねない諸刃の剣だったようである。

 ふと姉を見ると、全くわかっていない感じのきょとんとした表情で私を見ている。なんか腹立つな。

 まあいいや、とりあえず履き方はわかった?


「ああ、うん。たぶん大丈夫」


 いまいち自身のなさげな答えが返る。

 その歯切れの悪さが不安ではあったけれど、一旦落ち着く必要性を感じていた私は、履いたら呼ぶようにと姉に伝えて試着室からそそくさと逃げ出した。


ご覧いただきましてありがとうございます!

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