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私とワンピース

 改めてご紹介します。こちら、一昨日まで男の子だったはずの私の姉、篠宮真冬でございます。

 友達に兄弟を紹介するという慣れないシチュエーションに思わず敬語になってしまう。

 考えてみれば中学に入って以降ずっと兄を避けて来た私にとって兄弟を紹介するなんて初めての経験だ。

 姉も慣れていない様子で俯きつつ「どうも」と頭を下げる。

 女の子になった云々という話は先ほど姉が来る前に話してあるので割愛した。

 で、さっき自己紹介してくれた通り、こっちの暗いのが私の友達の小野田秋生さん。


「一言余計よ。それにしても……」


 と、一旦言葉を区切って私と姉を見比べる秋生。

 まあ、言いたい事は良くわかる。私だってふいに目の前に来られると鏡と間違えてしまうくらいなのだ。一卵性の双子だってもっと違って見えるのではないかと思う。

 私は秋生の心中を慮って一人でうんうんと頷いた。しかしどうやら彼女は別の事を考えていたようである。


「真夏、ちょっと劣化したんじゃない?」


 ひどっ! なんだ劣化って!

 自覚はしていたものの、人から直接言われるとまた心に刺さるものがある。

 私は半目になって秋生を睨みつつ元通りの体型に戻るべくダイエットを決意するのであった。


 さて、一通りの紹介も終わりお店の開く時間になったので私達は移動を開始した。

 ここ七ヶ瀬町にはいくつかの百貨店があって、駅から歩いて行ける範囲でも2軒存在する。今回はそのうちの一つ、七ヶ瀬プラザへ向かう事にした。

 道中姉に武山君と遭遇した件を話すとバツの悪いそうな表情で謝られた。どうやら電話で武山君に待ち合わせの事を話したのは本当らしい。姉の武山君に対する信頼感がちょっと心配だなぁ。

 話しながら歩いているとあっという間にプラザへ到着。中に入ってまずは学祭の買い出しを済ませてしまおうと文具屋に足を向けると秋生に止められる。


「荷物になるから買い出しは後にしましょう。それよりお姉さんの服を選ぶのでしょう? 私も付き合うわ」


 という事で先に姉の服を買う事になった。

 婦人服コーナーのある二階へ向かう途中、日曜という事もあって買い物客が多い中を三人並んで歩いていると姉が妙におどおどし始めた。

 理由を聞いてみると先ほどプラザへ入った辺りから周りの人にちらちら見られているように思えて気になるのだそうだ。

 何を今更…………

 今朝の話を聞いた時も思ったのだが、姉はあまり人の視線に慣れていないのだろうか。私達の場合双子というだけで割りと昔から注目を集める事が多かったように思うのだが。

 聞いてみると私が思ったのとはちょっと違う答えが返ってきた。


「だってこんな女の子みたいな格好した事ないから変なんじゃないかと思って……」


 なるほど。どこら辺が女の子みたいな格好なのかと思わないでもないけど、今の格好でも姉にとっては十分に女の子みたいなのだろう。

 自分が周りから見て浮いているから見られているのではないかと疑っているわけだ。

 私は大丈夫大丈夫と姉が安心できるように声をかけてあげた。

 実際今見られているのは双子が珍しいからだと思う。しかも超絶可愛いしねっ!

 私もっ!姉もっ! ついでに秋生もっ!

 とか考えていたら秋生に睨まれた。


「真夏、今とても失礼な事を考えていなかった?」


 滅相もない。秋生は可愛いな~。

 冷や汗をかきつつも何とかゴマ化す私。なんで今のでわかるんだろう……

 冗談はともかく、私達が並べば注目されるのは当然だと本気で思う。それだけに姉の中途半端な格好が残念で仕方がなかった。

 いっそペアルックにしてやろうか。そんな考えが頭を過ぎる。

 ちょっと痛い子な気もするけど、間に秋生が居れば逆にありなんじゃなかろうか。姉の服が手の出る額ならちょっと考えてみてもいいかも。

 と、そこまで考えて私は重要な事に気がついた。姉の所持金がいくらか聞いていなかったのだ。

 ねね、お姉ちゃんお姉ちゃん、そういえば軍資金はいくらくらいあるの?


「相場がわからないからとりあえず二万ほど下ろしてきたけど……足りるよな?」


 う~ん、二万円か。今後使っていく服を揃えるとなるとかなり心許ない金額だ。たぶん姉は外出用に一着か二着あればいいとでも思っているのだろう。

 まー、当面はそれでもいいんだけどさー。

 後々の事も考えればコスメ類も少しは欲しいところなのだけど、今回は諦めるしかないか。

 姉妹で貸し借りとかちょっと憧れなんだけどなぁ。


「ボヤかないの。ひとまず今着替える服が欲しいのならワンピースはどうかしら?」


 浮かない表情になっていたらしい私に秋生が言う。

 ふと気がつくと婦人服コーナーの中でも割かしリーズナブルな価格設定になっているブランドのコーナーの前に居た。

 秋生が手にとって示しているのはワゴンに乗せられたバーゲン品だった。

 お~、それなんか格好いいね。

 黒とブラウンのボーダーがシックなワンピースだ。胸のところがドレープになっているので小さくても気にならないし、インナーに長袖のTシャツがついているのも嬉しい。

 丈が短い気もするけど、まあヒップをベルトで押さえれば大丈夫だろう。

 けど、姉が着るにはちょっとシックに過ぎないかね?


「他にもカラーがあるみたいよ。ほら」


 そう言ってワゴンから引っ張り出した布を開いてみると、同じタイプの色違いで白と青のボーダーになっていた。

 ふむふむ。これいいかも。でも、お高いんでしょう?

 深夜のテレフォンショッピング風に聞き返すと今度はワゴンに張られた値札を指差された。そこには千九百八十円と書かれていた。

 おお、やっすい。これなら私の分も買える。

 というわけで主に値段の気に入った私は店員さんに言って試着させてもらう事にした。というか、させる事にした。姉に。


「なんで一緒に入って来るのかな?」


 ワンピースを渡して試着室に入ろうとする姉を追いかけるように靴を脱いでいると、不思議なものでも見るような顔をした姉に見咎められた。

 なんでと言われましても……着せて差し上げようかと思いまして?

 普通のワンピースならシャツと同じでかぶるだけなので大丈夫だろうけど、これはホルターネックになっているので完成図がわからないと少し難しいと思う。

 私がそう言って姉の持つワンピースを指差すと、姉は開いてその構造を見る。しばらく伸ばしたり持ち替えたりしていたが、やがて諦めたように私に差し出してきた。


 よし。それではいよいよ待ちに待った姉のファッションショーと行きましょうか~っ!

ご覧いただきましてありがとうございました!

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