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第7話

 暗い暗い地下道は底冷えする程冷たい、狭くはない通路も至る所で地下水の侵入を許していて無難に歩行できる場所が制限されていた。

 その冥界への道を彷彿とさせるような暗黒の回廊を、男女二人が並んで歩いている。

 一人は赤い短髪に背が高く筋肉質の男で、特に両腕の筋肉は、背広の上からでもわかる程その発達が著しい。


 もう一人の女は、小柄で体にフィットしたドレス型のバトルスーツを身に着けていて、この冷えた空間でも気にした風も無く歩いている。オレンジ色のショートカットの髪と同色のスカーフを首に巻いており、それが、歩くことで生じる風によってたなびいていた。


「どうだ、何か掴めたか?」


 男は抑えてはいるがよく通る声で女に語りかける、


「まだ…何も反応はない」


 それに応える女の声は、低く少年のような声質だ。時折、耳に手を当てながら意識を集中させて何かを聞こうとしている。


 不滅の魂B級超人・豪拳のデランと飛耳のカルムは、組織の命を受けて最重要保護対象であるシィーの追跡のため、それが潜ったとされる地下道を探索していた。

 カルムは飛耳という綽名のとおり、遠近・大小様々な音を聴く真力を有している。この能力の優れたところは、単に、耳が良いのではなく聴力を極限までコントロールできるということにある。すなわち、近くで爆音が響こうが、全く気にすることなく最大で10km以上離れた対象の足音や、さらには心臓の音までを聞き分けることができるというものだ。

 彼女はこの能力のために、追跡者として抜擢された。そして、デランはその護衛である。


 二人が、溶解のフリードリヒの指令を受けて、地下道の探索をはじめてから、20分あまりが経過しようとしていた


「あ〜あ、さっさと終わらせてこんな暗くて寒い所からは早く抜け出したいねぇ…なんか掴めたか?」


 先ほど襲撃現場で見た男と戦えると思って来たのに、なかなかその対象が見つからないため、デランは落ち着くことができず、先程からカルムに何度も同じ問いを続けていた。


「しつこい…気が散るから遮断するね…」


「おいおい、わかったよ、お前まで苛つくなって…ってもう聞こえねえのか?」


 結局、彼女を怒らせデランの声は彼女の耳から拒絶されてしまい。デランは話し相手を失ったことでますます暇になった自らの境地を憐れむ。


「あー、クソ暇だ。

 これなら、上に残って維持軍が来るの待った方がよかったぜ

 もしかしたら、こっちは外れかもなぁ~」


 一人そう呟いて盛大な欠伸をした。そのまま薄目になってボーっと虚空を見上げる。


「それにしても、S級超人を間近で見れる機会なんて滅多にねえよな…あれが俺たちが目指すべき頂点か…」


 ………。


「しっかし、原始人はともかく、貴族とピエロは意外と普通だったな…」


 ディランの脳裏に溶解のフリードリヒと道化のツァーリの姿が浮かぶ。自分が鈍いからかもしれないが、二人からは得体の知れない怪しさこそあるものの、上に立つ者、或いは、実力者としての風格やオーラといったものが全く感じられなかったし、二人共痩身であるため筋肉質な自分からしてみれば、その細首など真力を使わずともこの鍛え抜かれた腕の力だけで簡単に捻り潰せそうに思えた。


 S級超人の名誉のために補足しておくが、これはフリードリヒとツァーリが内部のものに対して威圧していないだけで、もし彼らが少しでもその余裕ある振る舞いを解いたならディランは壮絶な勘違いをせずに済んだであろう。


「今度手合わせ願ってみるか…あわよくば取って替わって俺がS級超人になれるかもしれねぇ、そしたらこんな雑用なんぞしなくても、好きな時に好きなだけ闘う事が出来るじゃねえか

 よし、そうときまれば、こんな任務さっさと終わらせるとするか!」


 聞き手がいないことをいいことに、不謹慎極まりない独り言の末に勘違いも甚だしい結論に達したディランは、口元に笑みを浮かべつつ横にいるカルムに声をかける。


「悪いが、ちょっくら駆けてくるぜ」


「待って…」


「!?、てめえ、聞こえてたのか!」


 普通、何が起こるかわからないような所で、仮にも護衛であるデランの声を遮断するなどという軽率な行動をするはずがない。そんなこともわからないのかとカルムは呆れつつも、今は反応のあった前方のことに意識を集中させる。それは虫や小動物の類いではない、もっと大きな物が動く音だった。しかもそれは地下道を移動できる物としては、常軌を逸した速さで動いていた。


「ここから5km先、あの隔壁の向こうから何かが来る…なにこれ…すごくはやい…」


 カルムは、額に汗を滲ませつつ、傍らのデランに伝える。


「へっ、しゃらくせえ、向こうから来てくれたんなら好都合じゃねえか!」


 デランは声を張り上げ、左腕に真力を集中させた。すると、ミチミチと、腕の筋肉が音を立て背広の袖を破らんばかりに膨らみ、激しく力強い赤光が彼の左腕から一気に吹き出してくる。

 空気をも震わすそれを腕に纏わせたデランは、そのまま目の前の隔壁に向かって一気に駆け出し、一度、左腕を引いた状態から、一気に戻してパンチを放った。


 思いのほか厚い作りだったはず隔壁は、そのパンチ一発で周りの土砂を巻き込みつつ粉々に吹き飛び、そこだけ通路が一回りも広がってしまった。

 その力の凄まじさに横にいたカルムは、バカだけど侮れないとデランを少し見直したが、今はこの自分を動揺させる音の正体を確かめるために、再び意識を集中させる。

 おそらく隔壁を壊した音でこちらに気づき、速度を弱めるか止まっているはずだ。

 カルムは再び真力をコントロールして、徐々にその可聴領域を前に広げていく。


「いた…2km先、まだ止まらずにこっちに向かってきている」


「へへ、こりゃすげえぇ…」


 温存のために真力を解いたデランだったが、接近してくる物体に危機感を持ったのか、その腕にまた赤い光を纏わせ始めた。


「あと1km…」


 通路の向こうに1つだけ点のような光が見えた。


「あと500m」


 その光はどんどん大きくなっていく、暗いためにその正体はまだわからないが、光自体は地面から離れて見えた。

 既に視認出来るためか、カルムはスカートの中から二丁拳銃を取り出して構えている。それは攻撃性の真力を持たない彼女の護身用の武器であった。


 さらに、物体は接近する。こちらの明かりが届く位置に近づいてきたことで、それが二足歩行で何か相当の大きさがありそうな物を抱えていることがわかる。しかも、抱えているそれは大切なものなのか極力揺らすまいと腰から上は微動だにせず、下半身のみが稼働している不自然な走法だった。それでいて、これほどの速力を出すことには、体力的なことには自信のあるデランでさえ驚きを覚えた。


 物体の姿を確認してから瞬きもしないうちに、それは、二人の目の前5mまで迫り来た所で急停止した。その身に纏っていた風が一気に吹き抜けてカルムの髪とスカートを揺らす。


 間近で見ることで、物体の正体はカルムからすれば自分たちと同年代の少年のように見えた。あれだけの激走してきたことを疑うほど、その呼吸は乱れておらず、悠然とした様子で二人を見つめている。抱えていたのは少女で、それが今二人が探している不滅の魂の重要保護対象であることは間違いなかった。


 会話など必要ない。必然的に臨戦態勢から戦闘へと移行するはずだったのだが。


「どうも」


 少年、即ちソウガは、暗闇の中に突然現れた二人に驚きもせず一言そう言って会釈をした。

 そしてそのまま、何事もなかったようにふたりの横を颯爽と駆け抜けた。

 ソウガのその行動に、唖然としてしばらくその場に硬直した二人だったが、いち早く我を取り戻したデランが振り返り絶叫する。


「むぁてぇゴルァアアアアア!」


 デランは絶叫とともに真力を解放し、辺りは彼の真力で真っ赤に照らされた。


「なにか?」


 カルムでさえ耳を庇うデランの馬鹿でかい怒鳴り声か、或いはその強烈な真力の光に反応したのか、立ち去ろうとしていたソウガはピタッとその動きを止めて二人の方に振り向いた。


「なにか?じゃねえぇ、お前が抱えているそれは、俺らの組織の所有物だ。返してもらうぜ!」


 そう言うやいなや、地面を陥没するほど強く蹴ってソウガに向かって一気に接近し、その顔面に左パンチを叩き込もうとした。

 先ほど、かなり厚かった壁面をその周りの土砂ごと微塵にしたパンチをである。

 カルムはそれをまともに喰らうであろう少年から出るであろう-ドチャッ-とか-バシャッ-という音を予想して、せめてその姿を見ぬように目を閉じてしまった。彼女がいまだB級でしかも、非戦闘型の真力使いだからこその反応であった。


 いきなり襲いかかってくるデランを前に、ソウガは至って冷静だった。真力欠乏の後遺症からまだ回復していないために眠らせているフェイを右腕だけで支えると、フェイを庇うように半身になってデランの攻撃を迎えることにした。

 空気をも震わせるそのパンチには、それ相応の威力があるとソウガも判断して迷わず回避を選択し、迫り来る左ストレートを右に飛んで避ける。空を突くこととなったそれは、それでも真力を纏った拳圧で近くの壁に大穴をあけた。

 渾身のパンチをいとも簡単にかわされたデランだが、その顔は気に食わなさそうにしているものの余裕が残されている


 誘いか…


 ソウガがそう判断するに至った時には、既にデランの右パンチが繰り出されていた。まだ着地していないソウガに、全身全霊を込めたデランの全力パンチが迫る。

 最初の左パンチは加減こそしていないが、躱されても良かった。躱すことで相手は絶対不利になる位置に移動させるのがその目的で、これは、デランがソウガの身軽さを知っているからこそ、躱すだろうと読んで狙った誘いであった。

 ()った!

 そう、デランは確信したが、しかし、ソウガはなんでもないといった表情でいつの間にか真力を纏わせていた左手を前に出した。その真力は今までソウガが扱っていたものとは少し異質で、色素を伴わない光がソウガの左手の周囲を激しく渦巻いており、それをデランの右拳に当てて、そのまま横に流すように逸した。


「う、そ…」


 しばらく目を閉じていたカルムはなかなか決着の音が聞こえてこないことで不安を覚えた。近くからはまだ3つの心臓の音が聞こえていて、ひとつだけその鼓動が早くなってきている。間違いないデランの鼓動だ。なにがあったのか不安になりそっと目を開けたことでその状況を理解し、思わず心情をつぶやいた。

 豪拳のデランー彼はその名のとおり、愚直に拳のみに心血を注ぎ何度も昇華させてきた男だ。その彼にとってパンチとは唯一無二の力の表現方法であり、自信であり誇りであった。それは決して自己満足ではない、アンバランス故にB級に甘んじているが、そのパンチの威力だけならS級に値すると組織からも認められていたのだ。

 その彼の全力を込めたパンチが軽く往なされた。まるで顔の前を飛び回る五月蝿いハエを振り払うかのように容易に。

 いったいこの少年は何者なのか?不滅の魂に属するものとして驚愕しない訳がない。


「て、てめぇ、何しやがった?」


 今まで鍛え上げてきたものの結晶ともいえるパンチを捌かれたことで、屈辱というよりも絶望感から、ようやく立ち直ったデランがそう叫びながら、恨みがましく睨みつける。

 しかし、その目に映ったのは先程までの悠然とした態度から変わって、明らかに怒気を含んだソウガの(かお)だった。


「爺さんが言ってた。人に上下は無い、みんな平等だと。

 そして、俺もそう思う。だからフェイはお前たちの所有物じゃない。

 答えろ!どうしてフェイを追っているんだ?」


 高速炉の崩落からピエロの襲撃、そして完全包囲からの脱出と、尋常ではない事が相次いだことで、ソウガはフェイがこの一連の事件の中心にいることはしっていた。しかし、その理由はわからないままで、ジェットにははぐらかされ、フェイを気にして彼女には直接聞けなかった。積りに積もった疑問を、その主犯である不滅の魂に所属しているであろう二人に、率直にぶつけたのだ。

 その怒気に呼応するかのように、ソウガの体からは眩しいと感じる程の青い真力の光が溢れ出ていた。


「はあ?そんな決まってるじゃねえか、そいつは人…」


「デランは黙ってて、その子を追っている理由…それは、世界政府からその子を守るためよ」


 考え無しのデランを制止し、カルムは真剣な面持ちで、普段の彼女では到底出さない大きな声でその言葉を口にしたのだった。


高機能執筆ファームの使い方に苦戦してます。閉じたら反映されてなかったんです。どうして?(笑)

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