表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第5話

 ジェットは目の前にいる化物との戦闘に終止符を打つべく、密かに可変銃を切り換えて腰部に装着している弾薬ケースに入っていた弾を素早く装填した。


「ん~、何を企んでいるか知りませんが、素直に死を受け入れた方が良いと思いますよ」


 悦に入っていたはずが、目の前にいる男の様子の変化をすぐさま察知し、その態度が気に入らないと顔を歪めた。


 S級超人・道化のツァーリ…世界政府の記録では、声の真力を使い、声に物量を持たせるコトバノナイフの使い手とあるが、今回、ジェットが戦ったことでその恐るべき能力の一端が明かされることになった。今の自分では相打ちに持ち込むことも到底不可能。そう断じた男の行動は早かった。


「時間が無い、決着をつけるぞ」


 中指を自らに向けて2度曲げて挑発する


 歴然たる力の差を見せつけられてなお、非常にわかりやすい挑発行動をとってくる格下の相手に、ピエロは苛立ちそれを抹殺すべく行動に出る。


「それはこちらのセリフです!!!生意気なその口から真っ先に!切り裂いて差し上げましょうぉア!!!」


 静かだった口調がだんだんと激しさを増してくる、そして、目一杯息を吸い込み口を開く


 -アイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイ-


 それは、瞬時に聴覚を奪う甲高い音だった。

 そのまさしく奇声をあげたピエロ。勿論、単なる奇声で有るわけがない。S級超人・道化のツァーリが上げる独特の奇声は放たれたと同時に周りの空気を震わし、その本体は、真力により質量を有した幾千幾百の見えざるナイフとなる。


 無軌道に襲いかかろうとする刃の群れを前にして、しかしその標的であるジェットの顔には笑みが浮かんでいた。この場面でピエロがその能力を使って来ると読んでいたからだ。そして、そのままに構えた可変銃の引き金を引く。


【可変銃-爆弾丸】発射(ファイア)


 引き金を引くとともにジェットは後方に飛んだ、放たれた爆弾を内蔵する弾丸は射出後すぐに爆発するように設定されているため、閃光と共に爆風が周囲を吹き飛ばす。


「な、なにいいいいいいいいいいいいいい!!!!?」


 勝利を確信してからの予想外の事態に驚愕の表情を浮かべるピエロ。

 質量を有したがためにその見えないコトバノナイフは、爆風の影響をもろに受けて一部とは言えない程の量が持ち主に襲い掛かる。


「がああああああああああああああああああああ」


 道化のツァーリは跳躍し、急所を守るように体を屈して腕と足でガードするも、爆風の影響で威力が殺された上に自身は真力で強化されているとはいえ、S超人である自らの技を喰らうのであるからそのダメージは計り知れない。


 -ズザザザザザザザザッ-


 肌を破り肉を傷つける苦痛を、目一杯の悲鳴を上げて耐えるピエロは、自分に向かってきたナイフを全てその身で受け止め、跳躍から落下し、地面に這い蹲る。


 周囲は爆風と跳ね返されたナイフのために建物が吹っ飛び瓦礫が散乱している。


「許さん、許しませんよぉぉぉぉ」


 どうにか耐え忍び、辛うじて立てるものの、お気に入りのスーツと手足をズタボロにされたピエロは怒りに震えて絶叫し、この状況を作りだした張本人を探す。


 鬼気迫るその容姿は、最早、狂人にしか見えない。自分をここまでコケにした相手をどう殺してやろうかと、頭の中はそのことばかりで先程までの冷静さはない。血走った目で前後左右、ひょっとして上!?ハッとして上空を見上げる。しかし、そこにジェットの姿はなかった…先ほどの爆弾を発射してから後ろに飛んでそのまま逃げたようだった。


 慌てて、周囲の気配を探る。


 ……………。


 通常の聴力では聞き取れない超音波を口から出して、ジェットと先に逃げた二人を探す。


「ああ、ああああああああああ〜」


 突然、ピエロは、両膝を地面に付いて叫んだ。ジェットのも、ソウガのも、フェイのでさえ、その気配を感じられないからだ

 手酷くやられ、対象も取り逃がしてしまった。S級超人の名に傷をつける取り返しのつかない大失態に、道化のツァーリは愕然と膝を地面に着き、唯々虚空にむけて叫ぶのだった。


 その後、この喫茶店があった所の周囲は、それはそれは広い更地になっていたという。生存者の証言では、突然、低い男の声のような音がした後、何もかもがすべて吹き飛ばされたということだそうだ。




 地下道へのトンネルの入口を潰したソウガは、地下道に入ると振り返ってこちらを見ているフェイのもとに足を進める。入口からの光源が断たれたことで。洞窟の壁はソウガの右手にある真力剣から吹き出る青い光にゆらゆら照らされて、幻想的な雰囲気を醸し出している。


「ちょっと待ってて」


 右手はそのままに、左手で背嚢を背中から外し、地面に置いてガサゴソと探るソウガは、中からヘッドライトを取り出してスイッチをONにしてから右手の真力剣を解いて装着する。


「お待たせ。もう少し歩けば明るいところにいけると思うから、これで辛抱してくれ」


 ソウガはヘッドライトを指差し、満面の笑みうかべながらそう言った。


「うん」


 フェイが頷くのを確認して、ソウガは二方向に分かれる通路を迷わず左側にすすもうとする。右は新都方面へ行く道ではあるが地上に出る場所が遠いために避けた。


「俺の後ろを離れて歩くと暗くて足元が見えないだろうから、横を歩きなよ」


 フェイのついてくる足音がしないので、ふと気がついたことをソウガが指摘する。


「あっ…」


 案の定、声がしたので振り返ると、フェイが今まさにその場に倒れこむ寸前だった。


「だいじょうぶか?」


 瞬時に近づいて彼女を抱きとめることに成功し、慣れてないと暗いところを歩くのは大変かなどと思ってフェイを見たソウガだったが、どうやら彼女の様子がおかしいことに気づいた。無意識に触れた手が恐ろしく冷たかったのだ。離れているときはヘッドライトの光が弱くてわからなかった顔色が、今、間近で見たことで透けるように白い肌が青ざめていることに気づく。


「え?」


 慌てるソウガに対して、


「ごめんなさい。大丈夫だから…少し休ませて」


 と、フェイはそう言ったが、とても大丈夫そうには見えなかった。突然のことでどうして良いかわからず、ひとまずそのまま彼女の肩を支えて地面に座らせた。


 心当たりはあった。先ほどフェイが使った青い玉の所為だろう。ソウガに罪悪感が出てくる。


「無理させてしまって…ごめん」


「そんなことない。あなたがいてくれたおかげで、こうして無事にいるんだもの、あやまったりしないで…」


「無事じゃないだろ!どうしてこんな…言ってくれてたら」


 知らなかったこととは言え、フェイに無理を強いていた自分に対する怒りが、漏れ出て語気を強くしてしまった。自己嫌悪から壁を拳で叩きつけようとするが、物に当たる愚かしさを知るソウガは当たる直前で力を抜き


 -ペチン-


 と、小さな音を立てるにとどまった。


 洞窟内が再びその静けさを取り戻す。


 しばらくの間、黙考したソウガだったが、意を決したように


「やってみるか…」


 と呟き、フェイを正面から見据えてその両肩を持つ。


「もしかしたら、君の体を元に戻せるかもしれない。大丈夫!俺に任せてくれ!」


 辛そうながらも、一瞬ぽかんとした様子でこちらを見つめていたフェイだったが、


「はい、お願いします」


 と、頷いてくれた。




 真力を覚醒させた人間はそれによって絶大な身体の能力を得ることができるが、真力が減るとその身体能力は大きく低下し、失ってしまえばその体を維持できなくなり消滅してしまうという制約を負う。

 ソウガはフェイの状態を看て、真力が減ったことにより身体機能の低下を起こす真力欠乏症を発症している判断した。

 それは、真力の行使により体内中の真力量が減ったことで、重要器官を保護するために真力が胴体部に集中し、同時に真力が流れる血管がそれを外に出すまいと萎縮してしまうことで、四肢に血液と真力が十分に行き渡らなくなって、一時的な機能低下を起こす真力使い特有の症状である。

 その治療法は理論的にはいたって単純で、強制的に萎縮した血管を拡張させ、外部から真力を注ぐことで解決すると考えられている。

 しかし、実際に薬で血管を拡張することは出来ても、外部からの真力の調達手段が乏しいことと、どうやって真力を相手に注ぐのかが解明されていないことによって、現状では一晩安静にして自然回復を待つしか処置方法が無いとされている。症状が重度の場合は、数ヶ月単位の静養。或いは、自然回復機能が働かず衰弱死することもあり、真力使いにとっては、、己の真力量を常に気にしながらその能力を行使しなければならないのだ。


 フェイもこのことは充分理解していて、それでも、あの絶望的な状況から抜け出すために、やむを得ず大量の真力を使ったのだった。しかし、今まであれほど大きな力を一気に使った事がなかったために予想以上に消耗してしまい、内心は〈このままでは、これからの移動に影響してしまう。不滅の魂がいつここを嗅ぎつけるかわからないのだから、回復を待つのはリスクが大きい〉と焦っていた。

 しかし、目の前の少年は自分を心配してくれていはいるものの、事態の深刻さをまるで理解していないように振舞っていて、彼女の心は不安で支配されそうになったが、すぐにその不

 安は消える事になる。それは、少年の様子が楽天的というよりは、まるで、この状況に慣れている様だと気づいたからであった。そして、しばらく考えてからなにやら解決方法をひらめいたように、こちらを真剣な眼差しで見つめてくる少年に頼もしさを感じ、フェイは自分の運命を託すことにしたのだった。





 厳しい修行の中で、何度も真力切れを起こしてぶっ倒れた俺は、その都度、爺さんの技で回復させられていた。あるとき、興味本位でその技を教えてもらおうとしたが、


「真力の制御が未熟なお前ではまだ無理だ」


 と、言われながらも、真力の制御が上達したら使用して良いという条件付きで、その技を教えてもらった。そして、この技の危険性も…

 だけど、いま、目の前にいるフェイは、重度とは言えないがかなり消耗具合が進んでいる真力欠乏症を発症している。もしかすると、数ヶ月は静養が必要かもしれない。


 俺は覚悟を決めて、教わった技を彼女に施すことにした。


「痛いけどがまんするんだぞ」


 そう言ってから、素早く血道に点穴を施す


「っあ」


 点穴を施したことで、フェイが小さく悲鳴を上げる。青く宝石のような瞳は潤み、艶のある唇はきつく結ばれた。


「痛いのはこれだけだから」


 俺は、彼女の背後に周り、両手に極限まで抑えた真力を湛えると、慎重に彼女の背に当てた。


 ………。


「あれ?」


 いくら力を込めても、俺の真力は、フェイに入り込もうとしなかった。まるで、彼女の体に拒絶されているかのように、反応がない


「どうしたの?」


 キョトンとした表情でフェイが、振り返る


「いや、君に真力が通らなくて…」


 カッコつけて失敗したので、俺はバツが悪くなって後頭部を掻いた。しかし、それに対する彼女の回答は、驚くべきものだった


「このスーツを脱がないと、真力を弾いちゃうよ」


 ………。


 二人の間に再び沈黙の時が流れる。


「そ、その…背中だけ脱いでもらってもいい…かな?」


 覚悟を決めた俺の提案に、フェイは返事をしないかわりに、コクっと頷いた。相変わらず透き通った青白い肌だけど頬のあたりが、わずかに紅潮して見えた。


 その返事を待って、俺は後ろを向き、ヘッドライトを消して準備をする


 -シュルシュルッ-


 と、肌と保護スーツが擦れる音がする。鼓動が早くなり、ソワソワしてきて、時間の流れが今だけおかしくなった感覚にとらわれて、俺は両拳を固く握り締めてそれに耐えた。


「いいよ」


 消え去りそうなほど小さな声は、決して真力欠乏症の所為だけではないだろう。


「わかった。俺に任せてくれ」


 俺は強くそう返事をして再度、両手に真力を湛えて振り返る。

 するとそこには、俺の真力に照らされて青白く浮かび上がった、芸術品があった。束ねられた美しく青い髪は、右肩から胸の方に流されていて、項から腰のあたりまで、肌が露出している。思わず息を飲みながらも慎重に手を当てると、見るからに緊張している体がピクンと反応する。気密性の高いスーツを着ていたためか、それとも、真力欠乏症のためかわからないが、その肌はしっとりと汗ばんでいた。フェイの体は少しずつ俺の真力を受け入れてくれている。どうやら、相性は問題ないようだ。


「辛くなったら、言ってくれ」


「うん、まだ平気…」


 フェイ自身も問題なさそうなので、ここから真力の出力を上げていく。


「あっ、」


 手にたたえた真力が少しその輝きを強めたことで、フェイは反応するも、体からは緊張が取れて、回復しているようにも見受けられる。


「あなたの真力、とってもあたたかい…」


 まだ辛いはずなのにフェイは、俺の膝に手を当ててそう言った。嬉しくなった俺は調子に乗りさらに力を込めた。


「はぁぁぁ…」


 フェイの体が少し浮いた気がした。しばらく続けるとだんだんと呼吸が早くなってきた。その手は俺の膝を強く掴んでいる。


「はぁ、はぁ、…か、からだがあつい…こんな激しぃ…」


 どうしたんだろう、なんか様子が変だ。さらに呼吸が荒く、肌も火照ったように熱く湿り気を強めている。力を弱めようかとも思ったが、本当に辛そうというわけでもない様子だし、止めるように彼女も言ってこなかったので、一気に決めることにした。


「あぁ…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」


 フェイが前のめりに倒れ込みそうになったので、咄嗟に真力を解いて彼女の胸の前に両手を回して受け止めた…。



 こうして無事に治療は終わった。何故かフェイはぐったりして恍惚としているけど、弱かった脈は少し早いが正常に回復していて、スーツを上げてもらいヘッドライトをつけたら顔色も少し赤みを増して元に戻っていので、俺は新たな自信をつけることができた。

 フェイもいずれ立って歩けるだろう。しかし、今は時間がないので、勝手ながら背負っていくことにした。

 そのままでは邪魔な背嚢を前にして、後ろにフェイを背負う形で俺は立ち上がった。すると、俺の背中のあたりに柔らかな感触が襲い掛かる。さっき倒れ込みそうになった時に偶然触ってしまったものと同じ感触だ。


 ………。


 暗い道を走るとき、それには凄まじい集中力がいる。ヘッドライトがあったとしてもその視界は制限されるだろう。この感触は、俺の煩悩を呼び覚まし、俺の集中を妨げる恐れがある。だから俺の決断は早かった。

 すぐさま、嫌がるフェイに謝って、お姫様抱っこに変更する。これはこれで問題があるが、俺はまっすぐ前を見据えて、闇に包まれた地下道を疾走するのだった。











早々に、自分の定めた更新目標を過ぎてしまいました。

3月回に変えようかな?なんて悩んでいます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ