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まわる彼女と彼

作者: まはろ
掲載日:2013/10/28

彼女はいつも孤独だった。

しかし、彼女は世界から祝福されていた。

水、大地、風、緑、炎。

全てから祝福されていた。


彼女が泣くと、風が頬を優しく撫で。

彼女が淋しがると、大地が優しく包む。

彼女が悲しんでいると、緑がざわめき慰め。

彼女が悩むと、炎がゆらめき癒し。

彼女が怒ると、水が宥めた。


彼女には両親の記憶が無い。

自然に育てられた。


一人だが彼らに支えられながら、彼女は笑うことが出来たのだ。


ある日、怪我人が彼女の元にあらわれた。

彼女が初めて見た、人間。そして男性。


彼女は彼の看護を献身的にした。

どうか、よくなりますように。

彼女も力も使いながら。


日に日に良くなっていく彼に彼女は嬉しかった。

そして、徐々に彼のことを彼女は好きになる。


ある日、彼が寝ている時に、彼が肌身離さず身につけているロケットペンダントの中身の絵を偶然みてしまった。

世間知らずの彼女だけど、両親が残した本や日記で得た知識で、その絵が何を示すのか知っていた。


それでも、彼女は微笑んで、彼に尽くした。

どんな未来でも、彼女は孤独であることには変わりない。ならば、夢を見させてもらおう。彼女はそう思って接した。


水、大地、風、緑、炎が。

彼女を心配してくれるのが分かる。

しかし、これでいいの。彼女はそう思った。


いつしか、彼は彼女を触れるようになった。

彼女は嬉しかった。


彼は愛の言葉を囁き、彼女にキスをして、優しく抱く。

経験したことのない、それに、彼女の心は歓喜に溢れ、頬を涙で濡らした。

こんな幸せなことがあるのか、と彼女は思った。


彼は最初は優しく愛の言葉を囁いていた。

しかし、徐々に愛の言葉を囁くたびに苦しそうな表情をみせた。

そして、いつしか彼は愛の言葉を囁くと泣くようになった。


それが辛かった彼女は彼を抱きしめて、自分は泣かないようにしよう、と思った。

泣く彼に彼女は微笑んで、彼が泣かないように、代わりに優しく愛の言葉を囁いた。


そして、その日が来た。

泣きながら彼女を抱く彼。彼女は彼を宥めながら、わたしは幸せよ、と言った。

そして、彼の振り下ろす(やいば)に身を貫かれた。彼の涙が、ポタリと彼女の顔を濡らした。

彼女は微睡むように笑みを浮かべ、目を閉じる。


水、大地、風、緑、炎が悲しむ声が聞こえた。

皆に別れを告げて、お礼を言う。





ごめんなさい。

彼を怒らないであげて。

わたしの愛しい人なの。

わたし、幸せなの。















若菜(わかな)はそっと目を開いた。

そして、その頬に流れる涙を拭いた。

毎晩のように見る夢。

水彩画のように滲んでいて薄い色でぼやけているような、そんな夢だ。




若菜は起き上がる。

そして、私服に着替えて、リビングに行く。

母が台所に立ち、朝食を作っていた。


「もう!昨日から調子がおかしい!」


どうやらコンロの火がつかないようだ。


「ちょっと代わって」


若菜が代わりにコンロのスイッチをひねる。

ボッと炎がつく。


「あら、おかしいわね。わたし嫌われてるのかしら?」


そう言い、首をかしげる母に若菜は笑う。


こういうのは若菜が産まれた時からあった。

まるで何かに好かれているようだった。


若菜は、思う。

あの夢は、もう一人の自分なのではないかと。


「今日はどこに行くの?」


母の声に、ハッと意識を現実に戻す。


「友達と、ウサギーランドに行くの」


ウサギーランドとは有名なテーマパークだ。


「ふうん。気をつけて帰ってきなさいよ」


「うん」













そして、友人と合流してウサギーランドにいる。同じ高校のクラスメイトだ。

2人はウサギの耳のカチューシャをつけている。

ウサギーランドのメインキャラクターの象徴とも言える耳だ。


友人はこれをつけないと気が済まないのだ。

若菜もつけさせられた。


「若菜ちゃん!若菜ちゃん!」はしゃぐ友人。


「ん?なぁに?」微笑む若菜。


「あれ乗ろうよ!」


「うん」


そうして、二人はウサギーランドの一つのシンボルとも言える、ジェットコースターに乗ることになる。

このジェットコースターは、冒険をイメージしているものである。

ゴンドラに乗り、水に流されながら移動する(カラクリは詳しくは分からないが、水だけではなく、安全に機械が固定して動かしてるのだろう)。

そのジェットコースターはとても混んでいた。2時間待ちだ。

しかし、あることをすると早く乗れるということを店員から2人は聞く。

ゴンドラは一つの列は3人まで乗れる。2人で来ている人達の隣に相乗りをさせてもらうのだ。

友人と相談して、友人とは別々に、一人で相乗りさせてもらうことになった。



若菜の番になり、店員に誘導された。

ちょうどゴンドラの人数がいっぱいだったらしく、友人は若菜の後のゴンドラから来る。


若菜が相乗りになったのは若菜と同じ年齢くらいの男の子2人だった。

隣に座る男の子を見て、若菜はドクンと胸がなった。

そして、その不可解な自分の胸に首をかしげた。

若菜が見過ぎたためか、隣の男の子も若菜をジッと見る。

ごまかす為に若菜はペコッと頭を下げた。


いってらっしゃい、と店員に言われて若菜達を乗せたゴンドラは移動をはじめる。



若菜達は順調に、進んでいく。


若菜は何度か乗ったことがあるから知っている。クライマックスは滝の上に来たゴンドラが急降下するのだ。


若菜達の乗るゴンドラは少しずつ、滝の上に登っていく。落ちるだろう、それを想像して若菜は膝の上に置いていた手を動かして、胸元にある取っ手を掴む。


その時に、隣の男の子の手も掴んでしまった。

手がじわりと熱くなる。

懐かしい。

若菜がそれを思った瞬間、若菜達のゴンドラは滝から落ちた。


バチャンッとゴンドラは水飛沫を立てて、滝の下に着水した。


若菜はパッと手を離す。

そして、男の子に謝ろうと隣を見たら。

つい、吹き出してしまった。


何故なら、びしょ濡れなのだ。

若菜は一滴も濡れていないのに。


「ご、ごめんなさい」笑ったことを謝る若菜。

「あ、全然気にしなくていいよ。俺、よくあるんだこういうこと」


「よく?」


「ああ。何かに嫌われてるみたいなんだ。産まれた時から」しぶい顔で彼は言った。


「私とは真逆ですね」何気なく微笑んでそう言う。特に若菜に意図はなかった。


ゴンドラから降りて、若菜は出口で友人を待った。

男の子たちは滝に落ちている時に撮られる写真を記念に買っているようだ。


友人が笑顔で出てきた。


「次どこいこうか?」若菜が言う。


「んー」友人が悩む。


「ねぇ」


その二人にさっきの男の子達が話しかけて来た。


「その、良かったら、一緒に周らない?」


そう提案してきたのだ。

若菜は友人を見た。


友人が「いいよ!」と答えた。

そして、「ただし」と続けた。












若菜達はお化け屋敷にいた。

このお化け屋敷は椅子の乗り物が動いて、お化けのいる世界を移動する、そんなアトラクションだ。

友人はひどく怖がりなので、嫌がっていたが、男の子達が説得してくることになった。



その男の子達はそれはそれは可愛いらしい姿になった。

若菜達同様、ウサギの耳のカチューシャをつけているのだ。友人はこれをつけないと仲間に出来ないと言ったのだ。

男の子達は、そんなに若菜達と一緒に周りたかったのか、しぶしぶ付けた。

そして、今に至る。


お化け屋敷は3人乗りの椅子に座り移動するのだが、若菜達は4人であるため2人で乗ることにした。


「ね、一緒に乗ろうよ」


若菜は声をかけられて、先程ジェットコースターでも隣に座った男の子ーー名前は(しゅう)君というらしいーーと一緒に乗ることになった。



目まぐるしく驚かしてくる機械やライトのお化け達に、若菜はすごいなぁと感心するばかりだ。


若菜の前にいる友人達の椅子からは、ひい!と悲鳴があがる。怖がりな友人が叫んでいるのだろう。

その声を聞いて、つい若菜はクスッと笑ってしまった。


「ねぇ、さっき言ってた、“私とは真逆ですね”ってどういう意味?」周が若菜に聞いてきた。


飛び出してくる生首を見ていた若菜は、周に顔を向ける。

時間をおいても尋ねる程、周が不快に思った発言だったのか、心配になったが、周は普通に興味を持っただけなのか、ただ若菜を見つめている。


「私は、何かに好かれてるみたいなの。産まれた時から」


「だから、若菜ちゃんは水しぶきが、かからなかったのかな?」


「あはは。ただ運が良かっただけかもしれないけどね」


「例えば、どんな事が、他には?」


「うーん。今朝は母が点かなくて苦戦していたコンロの火が、私に代わるとすぐに点いたかなぁ。偶然だと思うけど」


「・・・俺は、点いていた火が、点かなくなることは、よくある・・・」しぶい顔でいう周。


しぶい顔が面白くて笑う若菜。それに破顔する周。



「俺はよく夢を見るんだけど・・・」周がそう言いかけた。


おかえりなさい!と店員の声が響く。


どうやら、お化け屋敷のアトラクションは終わってしまっていたようだった。


先に出口で待っていた友人と合流する。


その後は周の視線は感じたが、周と2人きりになく、話の続きはしなかった。

パレードを見て、住んでる町が隣同士だったのが分かり、連絡先を交換して、それぞれ帰宅した。




俺はよく夢を見るんだけど・・・


あの後、周は何を言おうとしたのか。


若菜は、帰り道に考えた。


そして、知らないほうが良いような気がして、すぐに考えるのをやめた。


そんな若菜だったが、周に連絡先を教えてしまったが最後、周からの連絡が絶え間なく来ることになる。






若菜は夢を見ていた。


水面に映る自分を見ていた。

そこに見えた自分は、銀色の髪をしていて、一度も切ったことがないのだろうか、その髪はお尻の下あたりまで伸びている。肌の色はそれは透き通るように白い。そして、瞳はなんとも言い難い色をしていた。

青にも見えるし緑ににも見える。しかし、茶色にも見えるし、赤にも見えて、琥珀色にも見える。光の入り方のせいか、角度なのか、わからないが不思議な、虹のような瞳だった。



立ちあがり、歩く。


着いたのは彼女が住む小屋だった。


彼女は料理を作る。


小屋の外の緑がざわめいた。


出かけてた彼が帰ってきたのだ。


彼が小屋のドアをノックする。


彼女は小走りでドアの鍵を解錠して、ドアを開ける。


彼は、茶色の髪の毛に葉っぱをつけていた。

身長の高い彼に、彼女は背伸びをして葉っぱを取り除く。


彼にその葉っぱを見せると、、彼の、茶色の瞳が柔らかくなった。


彼は彼女を抱きしめる。


彼女とは違う、硬い体。


彼女は抱きしめられながら、彼の表情をみる。


疲労を隠せないその顔は、悲しみで歪んでいた。


それをみて、彼女は気付く。


終わりが近い、ということに。




何かが若菜の頬を撫でた。

若菜はその刺激で夢から覚めた。

どうやら昨夜は窓を少し開けてしまっていたまま寝たらしい。

窓から風が入り、カーテンが優しく踊り、若菜の頬を触ったのだ。


若菜は、実感していた。

前は水彩画のような、なんとなくぼやけた夢の世界が、あのウサギーランドに行った日から、綺麗な鮮やかな世界に変わったのだ。あの日から1ヶ月ほど経つが、日に日に色づき、リアルになる。

鮮やかになるその世界は、まるで現実のようだった。それが、ますます若菜を混乱させた。どっちが夢で、どっちが現実か、分からなくなってしまいそうで、怖かった。


ベッドの枕元にある携帯を見る。

メールが届いていた。若菜は、メールを開く。差出人は、周だ。毎日、飽きずに連絡をしてきている。特に嫌ではなかったので、若菜も返信をしていた。


メールの内容はこうだった。


君と、どうしても話したい。


若菜は了承のメールをした。


彼からの連絡はたわいもないモノばっかりだった。


俺はよく夢を見るんだけど・・・


彼が言いかけた言葉。そのことに関しては、全く触れなかったのだ。


たぶん、その話の続きではないか、と若菜は思ったのだ。

周を見た時、胸の高鳴った。

手を触れた時、じわりと熱くなり懐かしく感じた。

周は夢の彼ではないか、そんな確信があった。


夢の中で殺された。

若菜はそれも忘れてるわけではない。

あの女が若菜であり、あの男が周であるならば、どんな理由があるにしろ、また殺される可能性があるのではないか。

夢の中の彼女は孤独で、死を選んだかもしれない。しかし、若菜は今大切なものがいっぱいあるから死にたくない。

若菜はそこまで考えた。


しかし、この夢を早く終わらせたい。

そう思ったのだ。

なぜなら、夢が鮮やかになってから、連動してるかのように若菜の瞳がときおり虹色になるのだ。

夢の彼女のように。

そして、虹色になっている時、

声が聞こえるのだ。

人の声ではない。

若菜を心配したり、愛してくれる、

自然の声だ。


このままでは、若菜は若菜ではなく。

夢の彼女になってしまうんではないか、そんな心配をするようになった。


だから、夢を終わらせたい。

終わらすための鍵は、周ではないか、そう思い、会うのを了承した。



会うのは、その日の昼になった。


静かな部屋で話したい、と言う事なので、

しぶしぶ周の家に行くことになった。


なんせ、会うのはウサギーランドを含めて2回目だ。

警戒しないはずはない。


いつか父からもらった、あるモノを持って若菜は向かった。













駅で待ち合わせをしている。

駅についたら、周を見つけた。

立っている周に、また胸が高鳴る。


ドキドキしてる場合じゃない、と若菜は気を引き締めて周に声をかける。


周はそれは嬉しそうに若菜に挨拶をして、周の家に向かった。


周の家には、両親と妹がいた。


若菜は笑顔で挨拶をして、若菜の母オススメのお菓子を渡した。周の家族はそれはもう喜んで、若菜を歓迎してくれた。



そして、周の部屋についた。


言われるままに、若菜は座椅子に座る。

周は、テーブルを挟んで若菜の向かい側の座椅子に座る。


若菜は緊張していた。

沈黙が続く。

それを壊したのは周だった。





「結婚してください!」




周は、若菜に、指輪を差し出しながら、そう言った。


「え?・・・え?」戸惑う若菜。


「いきなり過ぎるのは分かっているんだ!だけど、その、一目惚れで、初恋で・・・。学校も違うし、他の男から取られたくないし・・・嫌な夢みるし・・・どうしようって。家族に相談したら、婚約したらいいって言われたんだ!!これはバイトで稼いだ、婚約指輪なんだ」


「え?・・・え?」

なんてぶっとんだ家族だ、なんて突っ込む余裕は若菜にはない。


「俺、昔から夢を見るんだ・・・。起きた時はいつも内容のほとんどを忘れてる。覚えてることは、自然から愛されてる女の子がいて、一緒にいて、恋して、けど、女の子がいなくなっちゃう、そんな夢。起きたら、いつも悲しくて泣いてた。ほとんど覚えてないんだけどね。で、若菜ちゃんに会った。若菜ちゃんを見た時、ドキドキしたんだ。やっと会えた、あの夢は予知夢だったんだ、そう思った」


そして、周はため息をついて、また話し出す。


「けど、若菜ちゃんに会った日から、夢は鮮明になった。そして、起きても覚えてるんだ。その夢は、俺が一人で小屋にいるんだ。何もせず、生きることをやめたみたいに、ベッドの上でただ寝転んでるんだ。夢の中の俺はいつも、こんな事を思っていた。女の子に会いたい、って。女の子を失ったことにひどく後悔していて、女の子の思い出を反芻してた。そして、やっぱり女の子のことを愛してるって思って、女の子との未来を想像するんだ。女の子と結婚して、子供を作って、共に年老いていく、そんな未来を。そんなことを考えながら、夢の俺は、ベッドの上で一人で死ぬんだ。これを、若菜ちゃんに会った日から毎日繰り返しみるんだ」


そして周は若菜を力強く見つめる。


「これは、予知夢なんだ。ってことは、神様が、このままだと若菜ちゃんを失って、こうなるよって。誰かに取られちゃう前に、若菜ちゃんを失う前に、結婚したい!けど、まだ結婚できる歳じゃないなら、婚約して、高校を卒業したら、結婚したい!」


周は、若菜にぐいっと近寄り、若菜の手を握る。


「結婚してください!」


手を握られて若菜はドキドキした。

そして若菜は混乱した。

夢が予知夢ではないということは若菜は知っている。

何故なら、夢の中の若菜は小さい頃から一人だからだ。今は色んな人が若菜の周りにいる。

もし、ここで断ったらどうなるんだ?

殺されるのか?

若菜はどうしたらいいのか分からなかった。

夢がなんなのかよく分からなかくなってきた。


「若菜ちゃん。絶対に俺は幸せにする。子供は4人くらいがいいな。老後も、若菜ちゃんとなら楽しみだ。夢のようなことにはなりたくないんだ。若菜ちゃんを失いたくない」


感極まって泣きはじめた周。

それを見て、若菜は色々考えるのは辞めた。


若菜が、今、彼を愛しいって思ったのは、確かなのだ。


若菜は微笑んで、泣く彼の頭を撫でた。


「指輪、つけて?」若菜はそう言う。


周は若菜を驚いた表情で見つめる。

そして、今度は嬉し涙を流し始めた。


「あなたは、今も泣き虫なのね」


若菜はそう言って、周の涙を拭う。


周は、嬉しそうに笑った。


そして若菜の左手の薬指に指輪をそっとつけた。

若菜は微笑む。



「わ、わかなちゃん!」再度、感極まって彼が、若菜を押し倒す。


キスをしようとしたので、胸元に潜ませていた、あるモノを取り出して、周の首もとに当てて、スイッチを押した。


スタンガンだ。


周は気を失った。


毛布をかけて、若菜は去る。

左手の薬指の指輪を愛しそうに撫でながら。


若菜は彼が寝てしまったことを家族に告げて、周の家を去る。


若菜は、その日を境に夢を見なくなった。虹色の瞳にもならなくなった。

相変わらず、何かに好かれているようだけれど。










そして、時は進み。

若菜は、高校を卒業と同時に周と結婚した。大学になったので、学生結婚だ。

大学を卒業したら、周は社会人になった。

若菜は専業主婦だ。

お腹に赤ちゃんがいたからだ。

その後も、子宝に恵まれる。




そして、年老いた2人は手をつないで散歩をしていた。
























ある世界があった。

そこは精霊がいる世界だった。

精霊には王様がいた。

炎、水、地、風、緑の5つの精霊王がいる。

この世界の人間は精霊の加護を受けること出来た。

それを加護を受けし者と呼んだ。

加護を受けし者は精霊の力を借りることができたのだ。


また、加護だけではなく精霊に愛されし者も存在した。

愛されし者に与えられる力は王の力を使うことができるため、大変に強力だった。

そのため、愛されし者の力を欲しがった権力者が沢山いた。何かの争いに、愛されし者を使うと有利になるからだ。


愛されし者は、皆、心が綺麗な者だった。

なので、権力者の争いに協力するのを拒否した。

いつしか、愛されし者は“魔女”と呼ばれるようになった。

協力しない、脅威的な力を持つ者たちを権力者が恐れたからだ。

魔女狩りもされるようになる。

魔女狩りをする者達は、悪魔を剣で貫いた絵を、皆持ち歩いていた。

愛されし者達は、ほとんど魔女狩りにあい、死んでいった。



誰も来ない秘境の森に逃げ込んだある夫婦がいた。彼らは愛されし者だった。

彼らは平和に暮らすことが出来た。

娘も出来た。

その娘も愛されし者であった。


愛されし者には特徴がある。

炎の精霊王に愛された者は紅い瞳。

水の精霊王に愛された者は青い瞳。

というように、瞳の色が常人とは違う。

娘の瞳は虹色だ。

炎、水、地、風、緑の全ての精霊王に愛されていたのだ。


夫婦はこれは大変なことだと思い、しかし娘を大事に育てた。


娘が2歳になったころ、夫婦の小屋に、魔女狩りが来た。


夫婦は、娘を大地の精霊王に頼み、地面に隠した。


夫婦は連れていかれ、処刑された。


娘はそこで一人で生きていくことになる。


娘は精霊達のおかげですくすく育った。


娘は、本を読み、字が理解できた。


両親が残した日記を何度も何度も読んだ。



娘は成長し、女らしい身体つきになり、女性になった。



彼女の元に、ある日、怪我人が訪れる。


彼女は初めてみた人間を、そして男性をそれはそれは丁寧に介護をした。


男性はいつしか、住むようになった。


時々、どこかに出かけていくが、必ず彼女の元に帰ってきた。


彼女に触れ、彼女にキスをし、彼女に愛を囁き、彼女を抱くようになった。


ある日、彼女は彼が寝ている時に、肌身離さずつけている、ロケットペンダントの中身をみてしまった。それは悪魔が剣で貫かれている絵だ。

両親の日記で何度も見た、魔女狩りのマークだ。


愛する人に殺されるのであれば、それも良い。


彼女はそう思った。


彼は日に日に辛そうな表情をする。


どこかに出かけた後は、特に、だ。


彼女は彼を慰めた。


どちらにしろ私は一人で死んでいくはずだったの。

あなたが気にしなくて、いいわ。


そう思いつつ。


ある日、帰ってきた彼が、いつも以上に強く激しく彼女を抱いて、涙した。


彼女は最後を知り、微笑み、彼を優しく抱きしめた。


そうして、彼女は刃に貫かれた。


彼女の身体は風に包まれ、緑に抱かれ。

水に包まれ、大地に抱かれ、

優しい炎で粉となり、


空に舞い上がる。


空になった彼女は、嘆き、怒っている精霊王達をなだめる。


ごめんなさい。

彼を怒らないであげて。

わたしの愛しい人なの。

わたし、幸せなの。








男は、彼女がいたはずの場所を見て、呆然とした。そして、彼女を失ったことに気づく。


彼は、ロケットペンダントを開いて中を見た。魔女狩りの絵だ。


ハッ、彼女のどこが魔女だったんだ?


彼はそう思い、その絵を彼女を指したナイフで、ズタズタに引き裂く。


何回も何回も。


ペンダントを引きちぎり、ナイフと共に床に捨てた。


そして、ベッドに横になった。


彼女と何度も愛し合った場所だ。

彼女の虹色の瞳を何度も見つめた。

彼女の銀色の髪を何度も撫でた。


彼女は微笑んで消えた。


優しい彼女がつらい拷問をされ、利用されて、処刑されなくて、済む。


しかし良かったのか。


彼には何が最善だったのか、わからない。



彼は騎士だった。

騎士は、魔女狩りを実行しなければならない。


秘境の村に魔女はいないか、視察しろ、と上司に言われ、向かう途中に、獣に襲われた。


同僚は皆やられてしまい、彼は傷を負いながら、逃げていた。


その時に、彼女が住んでいる小屋についたのだ。


彼女は虹色の瞳をしていた。


すぐに魔女だとわかったが、彼女は彼が魔女狩りの騎士だと知らずにそれは丁寧に看病をしてくれた。


回復した頃、同僚は生きているのか気になった彼は、森を出たところにある秘境の村に出かけた。


そこで、彼の上司に会う。


彼は、罪悪感を持ちながらも、虹色の瞳の魔女が森にいたことを告げる。


これは、生まれたときから魔女狩りを洗脳されていた彼には当たり前の報告だった。


虹色と聞いて上司が出した結果が。


戦に利用できたら、すごい兵器になる。

どうにか手なずけて、自分たちの手柄にしよう。

今は戦はしていないから、時間はいくらでもかけていい。

もし、手なずけるのが難しいようであったら、捕らえて、拷問する。

それでもダメだったら危ない存在だから処刑だ。


定期的に村に来て報告をしろ、と命令を受ける。



彼が、彼女を手なずけなければならなくなった。


そして、彼女と彼の生活が始まった。


彼は、彼が小屋に帰ってくると、それはそれは嬉しそうに笑った。

彼が、キスをすると、恥ずかしそうに笑った。

彼が、抱くと、幸福そうに泣いた。


なんて、綺麗な生き物なんだ。


彼はそう思った。


いけない、と思いつつ彼女に惹かれていく自分がいた。


いつしか、愛してしまうようになっていた。


(いと)しい、と思うようになってしまった。



定期的に報告をするために上司に会いにいくのが、ひどく辛かった。


手なずけてない、と彼が言うと、上司は彼を怒る。


疲れて帰ってきた彼を彼女が慰める。

それも辛かった。


彼は彼女を抱くと泣いてしまうようになった。


そんな彼に、彼女は微笑んだ。



近々戦争になる。


上司は彼にこう告げた。


もし、このまま手なずけられないようならば、捕らえて、強制的にこちらのモノにしないといけない。

7日の間に手なずけて、お前が彼女を村に連れてこなければ、彼女を捕らえに行く。

お前には期待してるぞ、と。


彼は彼女の小屋までの帰り道、長く考えた。


彼女と共にどこかに逃げよう。


この考えは何度か持った事がある。

しかし、どこに逃げても彼女が魔女であるのは変わらないのだ。目立つ銀色の髪と虹色の瞳を長い間隠すのは難しい。


彼女を説得し戦争に協力してもらう。


優しい彼女は戦争に協力はしないだろう。そうなると、待ち受けているのは拷問と処刑だ。彼女がそんな辛い姿に合うのは耐えられない。


彼女を殺し、自分も死のう。


彼の選択肢では、これしか方法はなかった。



彼は彼女の小屋に帰る。

彼女はいつものように嬉しく微笑んだ。


失いたくない

ずっと一緒にいたい

幸せにしたい


幸せに、するには。


彼は激しく彼女を抱いた。


そして、泣いた。


彼女にナイフを振りかざす。


彼女は微笑んだ。


そして、命を絶った。


彼女の遺体は消えた。


彼は一人になる。


彼はただ自分が死ぬのを待つ。


この世界では、自ら手を加えて死ぬと生まれ変わることができない、という言い伝えがあったからだ。




生まれ変わって、また彼女に会いたかった。



彼は、ベッドで飲まず食わずで横たわっていた。


最初、上司に報告しなければ。

彼女を失うことにならなかった。


彼は深く後悔をしていた。


このベッドは彼女と寝たところだ。

彼女の瞳を見つめ、彼女の髪を撫で、彼女と笑い、彼女と泣き、彼女と抱きしめあった場所だ。


愛している。

愛している。



彼は夢を見た。



違う世界にいる。


彼女とまだ出会っていない。


うさぎの耳をつけた彼女と出会う。


手を握り、滝から落ちる。


びしょ濡れになった彼を笑う彼女。


彼女と一緒に動く大きい椅子に座りしゃべり笑い合う。


彼女に指輪を渡す。


そこでも彼は泣いていた。


白いドレスを着た彼女にキスをする。


また彼は泣く。彼女は微笑む。


彼女を抱く。


子供がいる。


そして4人の子供に彼女と彼は囲まれて幸せそうに笑っている。


年老いた彼女の手を握り歩く。





ああ、なんて幸せな夢なんだ。


彼はそう思い、息を引き取った。


彼の身体は風に包まれ、緑に抱かれ。

水に包まれ、大地に抱かれ、

優しい炎で粉となり、


空に舞い上がる。


そして、ある世界で2人の子供が産声をあげた。


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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。muzeと申します。 思わず鼻垂らして泣いてしまいました。 作者様の他の作品も見てみよう!と思ったら、まさかの暴走列車の方だったのですね! ヒロインの雰囲気が違いすぎて驚きま…
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