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第四章 Little Sister 四

 四


「ジゼラ?」

 シルヴィアの声を聞いて我に返り、ヴォルフは彼女を振り返った。しかし驚いたように目を丸くした彼女に違和感を覚え、片眉を歪める。

 怪訝な表情に気付いてか、シルヴィアは首を横に振った。編み込んで丸められた髪の中から、一筋の遅れ毛がこぼれる。

 見れば見るほどジゼラに似ている。唇の幅を少し狭めて髪を白くすれば、まるきり本人だ。しかしジゼラに姉妹はいただろうか。そう考えて、ヴォルフは気付く。

 ジゼラは以前、姉が三人いると言っていた。全員どこにいるか分からないとも聞いたし、年の差も姉妹と言われて違和感がない程度のはずだ。

 しかしそんな偶然が、あるものだろうか。訝しく思いながらも、ヴォルフは問いかけを口にする。

「……お前、セカンドネームは」

 傾げた首の角度まで、よく似ていた。よくよく見てみれば、二重の瞼がジゼラより少し厚い。否、間違い探しをしている場合ではない。

「マレスコッティ。言わなかった?」

 まさか知らず知らずの内に生き別れの姉妹の面倒を見ていたなどと、誰が予想しただろう。ヴォルフは目眩を覚えたが顔をしかめて堪え、ゆるく左右に首を振る。

 ここで結論付けて、お前の妹と旅をしている、と言うのも早計に過ぎる。しかも今、当の本人はいない。悪戯に動揺させるのも本意ではないし、他人の空似だったらと思うと迂闊には口に出せない。

 それよりも問題は、ジゼラがどこへ行ったかだ。彼女が一人でどこかに行く事は間違ってもないし、言い付けは必ず守る娘だ。魔女狩りが盛んだと言うから嫌な予感しかしないが、果たして彼女が黙って連れて行かれるだろうか。

「ヴォルフ、どうかした?」

 考え込んでいても、何も始まらない。ここにいても、ジゼラが戻ってくる可能性は低いだろう。

「連れがいなくなった。捜さねばならん」

 シルヴィアの表情が、俄かに硬くなる。何を思ってか左右を軽く見回し、ヴォルフに顔を近付けた。聞こえてはまずい事かと、彼は少し背中を丸めて屈む。

「連れの人って、女の人?」

「ああ」

 眉間に皺を寄せ、シルヴィアはヴォルフの背を軽く叩いた。

「じゃあまずいよ、広場見たでしょ。早く捜そう」

「広場?」

 広場など、あったかどうかさえ記憶にない。そもそも昨日は散策出来るような体力が残っていなかったから、街を見る事もしなかった。

 だが、広場に何があるかは予想がつく。当然ながら実際に見た事はないが、魔女狩りという残虐な風習の事は養母から聞いている。人々が何故そんな事をしたのかも、魔女として捕らえられた女達が、どんな扱いを受けたのかも。

 魔女狩りに遭って捕らえられた女達はむごい拷問にかけられた末、刑に処された挙げ句その遺体を晒された。今でも娯楽のない村では、刑死者を晒して見せ物にする場所があるという。これほど大きな町に娯楽施設がないとは到底考えられないから、益々タロットの存在が疑われる。

「見てない? 見ない方がいいよ、行こう」

 言いながら、シルヴィアは先導するように歩き出す。いささか強引なところも、ジゼラと似ていた。

 兜を小脇に抱えて歩くシルヴィアの金色の頭を見下ろし、ヴォルフは渋面を作る。彼もこの町の事は全く分からないから、一緒に捜してくれるのなら有難い。しかし彼女は警ら中ではなかったのだろうか。さすがに仕事の邪魔をするのは憚られる。

「……お前、仕事はいいのか」

 シルヴィアは少しだけ振り返り、小さく頷いた。

「困ってる人を助けるのも、私達の仕事だから」

 出会った頃、騎士になるのが夢なのだと、シルヴィアは瞳を輝かせて語っていた。夢は叶ったのだろうが、今の彼女の暗い表情を見る限り満足してはいないはずだ。

 悪しきは魔女か、噂に踊らされた町人か。はたまた、まだ見ぬタロットか。出来ればタロットであって欲しいと、ヴォルフは思う。魔女が本当にいるのだとしても、それが悪だとは彼には思えない。住人とて同じく、噂に踊らされた被害者だ。どちらも責めたくはない。

 とにかく捜そうと、振り向いたシルヴィアを追い越して歩き出す。彼女は慌てて着いてきた。歩調を合わせて少し早足気味に歩く健気さに、ジゼラの姿が重なる。

 彼女が横にいて袖を掴んでいるのが、当たり前になっていた。頼りない重さだったが、それが左腕に掛かっていない事が寂しくも思う。

「ここは、どうだ」

 短い言葉でも意図は分かったらしく、シルヴィアはまた少し俯く。彼女といたのは数ヶ月程度だったが、その短い間にヴォルフの人となりを理解していた。

「ついこの間までは、いい街だったよ。領主様も優しかったし、同僚もみんな良くしてくれたし……変わったのは、ここ一年の内なんだ」

 一年。タロットの支配が及ぶのにも、噂が広がり人の心が変わるのにも、充分な年月だ。

 歩きながら視線だけを左右に巡らせ、ヴォルフは連れを捜す。目立つ外套姿も白髪頭も、隻腕の女さえ見当たらなかった。それ以前に人の姿がほとんどない。民家は多いのに、出歩いているのは旅人ばかりだ。

 この街が異様である事は、もはや自明だろう。人々は無実の罪を着せられる事を恐れて外出しないのだろうが、その割に諍いのあった場には人だかりが出来ていた。あれを娯楽として見物していたのならば、確実に狂い始めていると見て間違いない。

「魔女が出たと聞いたが」

 街が狂っているなどとシルヴィアに言えるはずもなく、ヴォルフは当たり障りのない言葉をかけた。下を向いたまま早足でついてくる彼女は、浅い溜息を吐く。

「分からない。誰がそんな噂を流したのかも、よく分からないの」

「噂だけが独り歩きしているという事か」

 シルヴィアは首をすくめ、益々顔をしかめた。白い首はほっそりとしているが、その分筋肉の束がよく目立つ。彼女もここへ来て、かなり鍛えたのだろう。

 助けた人々はどうなっているだろうと、考える事はあった。だからこうしてたくましくなった彼女を見て、ヴォルフは少なからず安心している。その分、彼女の平和が脅かされている事が憎らしくもあった。

「今時魔女なんて、いるわけないと私は思う。でも皆が不安がる気持ちも分かるし……それで濡れ衣を着せられてしまうのは、よくない事だけど」

 近くに魔女がいると言われれば、それを悪としか認識していない者は不安にもなるだろう。だからヴォルフに彼女を咎める気はないが、魔女について誤解されている事は腹立たしく思う。彼女達が、一体何をしたというのだろう。

 この世に混乱をもたらしたのが魔術師だとは言え、彼らは本来、人々の生活基盤の向上に努めていた。現在の錬金術師と同じようなもので、決して人に仇なすものではない。何より魔女狩り以前、魔女や魔術師とは、森に住んでいる変わり者の便利屋程度の扱いであったのだ。

 元を辿れば悠久の昔、突然変異で産まれた魔力を持った人間達の事を魔術師と呼んだのだと、養母に聞いた。本来は奇跡を起こす者として崇められていたのだと言うが、真偽の程は定かではない。だが、ヴォルフはその話を信じている。

 冷えた風が、コートの裾を揺すって行く。乱れた襟を直そうと右手でその左側を掴んだところで、ヴォルフは動きを止めた。左手はいつもジゼラが掴んでいるから、何をするにも右手を使う癖がついている。

 慣れたものだ。考えながら、彼はコートの襟を立てる。いつも横にぴったりとくっついているものがないせいか、風が昨日より冷たく感じられた。

「また会えるなんて、思わなかった」

 肩越しに振り返ると、シルヴィアははにかんだように微笑んでいた。冷たい風のせいか、その白い顔は先ほど近付いて見た時より赤くなっている。

 返答に迷って、ヴォルフは視線を流す。移した視線の先、細い路地の奥に、低い声で口論する騎士と旅人がいた。

 口論と言うよりは、旅人が相手の方へ身を乗り出しているせいで、一方的に騎士を罵倒しているように見える。声は聞こえど会話の内容までは分からない。何があったものかと考えながら、彼は路地の横を通り過ぎる。

「妹さん、見つかった?」

 シルヴィアの声は、ジゼラより少し高かった。耳慣れない声に違和感を覚えつつ、ヴォルフは振り返らないまま首を横に振る。

「いや」

 見つかっていたら、わざわざこんな所まで来たりはしない。そうは思ったが、否定だけした。彼の背後で、シルヴィアが柳眉を下げる。

「そっか……連れの方、妹さんじゃないんだ」

 残念そうに呟きながら、シルヴィアは足下に視線を落とす。もし妹と再会していたとして、それがいなくなったらヴォルフはもっと動揺していただろう。

 大通りだというのにどこまで行っても人通りはまばらで、すれ違うのは寒そうに肩をすくめた旅人ばかりだった。道なりに進んで行くにつれ、その数が段々と増えてくる。妙に楽しそうに会話する二人連れもあれば、暗い表情で俯く者もいた。

 また通りの脇に建ち並ぶ民家も、レンガ造りの見事なものへと変わって行く。この並び方から見るに、街の中央に領主の屋敷があるのだろう。

 頭上で、烏が鳴いている。潰れた喉から無理矢理発したような声は、異形達の断末魔とよく似ていた。

「あ……ちょ、ちょっと待って!」

 大声に驚いて振り返ると、シルヴィアは必死の形相でコートの背を掴んでいた。怪訝に眉根を寄せたヴォルフを見上げ、彼女は行くなと言わんばかりに首を左右に振る。

「行っちゃダメだよ、そっちは広場なんだ。死体だらけの所なんか、見ない方がいいよ」

 見ない方がいいというよりは、見るなと言いたいのだろう。しかしジゼラが捕まっているという確証もない以上、隅々まで捜したかった。

 そんなヴォルフの考えぐらい、シルヴィアも分かっているのだろう。彼と大通りを交互に見てから、申し訳なさそうに肩を落とした。彼女も見たくないのだと、その仕草で気付く。人の惨殺死体など好きこのんで見物するものではないとヴォルフも思うが、隣の大陸では、未だ日常的にそれを見せ物にしていると聞く。

「旅人が多いのは、そのせいか」

 ヴォルフのコートを掴んだまま、シルヴィアは道の脇へ避けた。それから隣の通りへ続く路地を覗き、そちらへ入って行く。

「アルカナ退治する為に、ずっとここにいる人ばっかりだよ」

「お前達の仕事ではないのか」

 シルヴィアに続いて路地へ入り、ヴォルフは問い返す。疲れたような溜息を吐き、彼女は弱々しく首を横に振った。

「騎士団はみんな、魔女狩りに駆り出されてるの。広場に晒された刑死者がアルカナになったら、賞金稼ぎが倒すんだ。ショーみたいなものでさ」

「何故止めん」

 厳しい声に驚いて立ち止まったシルヴィアは、恐る恐るヴォルフを振り返った。見上げる彼女の表情は、怯えたように歪んでいる。

 それでも、ヴォルフは険しい表情を崩さなかった。正義感に燃えていたあの頃の彼女なら、何がなんでも止めただろう。変わってしまった事が悲しくも、腹立たしくもあった。またこの町の現状にも、苛立っている。

「だって私、一人じゃ……」

 普段なら、こうまで怒りはしなかっただろう。だが今日ばかりは、全てが彼の神経を逆撫でする。

 シルヴィアのせいではない。彼女を責めても、彼女一人が動いたとしても、この町が変わるはずがない。それでも後ろ向きな姿勢に、彼女が変わってしまった事に、無性に腹が立った。

「はなから出来んと言って諦めるのは、無関心と同義だ」

 はっとして目を見張り、シルヴィアは口をつぐんだ。そして黙り込んだままヴォルフから視線を逸らし、下唇を噛む。何かを堪えるような仕草だった。

 ヴォルフは暫く彼女を見下ろしていたが、握り締められた拳を見てゆっくりと視線を外した。自分でも分かっているのだ。腹を立てているのが、彼女に対してではない事に。これがただの八つ当たりに過ぎない事に。

 だからそれ以上何も言わず、慰めるようにシルヴィアの背中を軽く叩いた。おずおずとヴォルフを見上げた彼女は、その肩にこもっていた力を少しだけ抜く。

 路地を抜けて隣の通りへ出ると、警ら中の騎士達に出会した。ヴォルフは思わず身構えたが、騎士達は彼を見た途端、胸に拳を当てて敬礼する。何事かと一瞬動揺した矢先、シルヴィアが彼らに向かって頷いて見せたので納得する。

 女王が統治するこの島は、女性騎士を優先して昇格させる傾向にある。贔屓という訳ではなく、そうする事で、男所帯のだらしのなさを改善する為だ。元々男性ばかりだったせいか、今の所は効果が顕著に表れているようではある。

 また、失われつつある騎士道精神を取り戻す目的もある。弱きを助け悪を挫くというその精神は、この島では上に立つ者を守るという名目で受け継がれている。

「君達、向こうの通りで誰か連行されたの見なかった?」

 鋼の甲冑に身を包んだ二人の騎士は、ぎこちない動作で顔を見合わせた。鎧が重いせいか、彼らは往々にして動きが鈍い。

「あっちからは、五人ぐらいいたようでしたが……何かありましたか?」

「この人のお連れ様なんだ」

 一日にそんなに捕まっているのかと、ヴォルフは顔をしかめる。更にそれでも驚かないシルヴィアが、自分の知る娘と別人のように思えて悲しくもあった。

「ヴォルフ、どんな人?」

 見上げてくるシルヴィアを見て、彼はジゼラを想う。出会ってから片時も離れた事がなかったから、どことなく落ち着かない。

 今、どうしているのだろう。尋問されているだろうか。彼女が泣くはずはないから、怒っているだろうか。また自分が腹を空かしていないか、心配しているだろうか。心配されるまでもない。

「外套を頭から被った、白髪の娘だ。十八九だが」

「明らかに怪しいじゃない、外套なんか頭から被ってたら」

 呆れたようなシルヴィアの声に、ヴォルフは眉間に皺を寄せる。それもそうだ。砂漠の町では当たり前のあの格好も、こちらでは不審者にしか見えないだろう。動きづらいからと防寒具を揃えなかった事が悔やまれる。

 騎士の一人はふうんと怪訝に鼻を鳴らしたが、もう片方はああと呟いた。

「いましたねそんなの。白髪なのに若い顔してるから、明らかに魔女だって言って……!」

 一歩で騎士との距離を詰め、ヴォルフはその肩を掴んだ。力をこめすぎたせいか、鋼の甲冑が苦しげな音を立てて軋む。

「どこへ行った」

 無感動な低い声と獣めいた鋭い双眸に凄まれ、騎士は身を引こうとする。しかし左肩を掴まれているせいで、僅かに右肩を引くだけに留まった。

 急激に頭に血が上ったせいか、金属音のような耳鳴りが響く。この騎士を責めても意味がないと頭では分かっているのに、体がついて行かなかった。怒りを堪えようと掴んだ肩をさらに強く握りしめるも、当然大して効果はない。

「どこへ連れて行った」

「お、お前あんな白髪頭の女連れてたのか? 騙されてるんじゃ……」

 鋼の鎧が、また嫌な音を立てて軋んだ。犬面から覗く騎士の目が大きく見開かれる。人の力では曲がるはずのない鋼の甲冑が、僅かに歪んだ。

「あれは魔女ではない。あれは俺の……」

 自分の、何だ。

 そこでやっと、ヴォルフは我に返った。凍りついたように動かない騎士の肩から手を離し、逃げるようにコートを翻して背を向ける。水を打ったような静寂に、後悔の念が浮かんだ。

 騎士を責めても意味はない。それでも、そうせずにいられなかった。今まで胸の内に押し込めていたあらゆるものへの怒りが噴出したかのように、止められなかった。

 この怒りも、タロットの糧となっているのだろうか。そう考えると、自分を責めたくもなる。

「ヴォルフ、待って」

 立ち止まって振り向くと、シルヴィアは眉をつり上げて真っ直ぐに彼を見つめている。迷いのない、芯の通った目だ。

「一緒に行くよ。着替えてきたいんだけど、いい?」

 思わず片眉をひそめると、シルヴィアは笑う。ついさっきまで浮かんでいた不安げな色は、跡形もなくなっていた。

 何が彼女の心境に変化をもたらしたのか、ヴォルフには分からない。しかしたまには怒る事も必要なのだと、ぼんやりと考える。彼女は、迷っていたのだろう。

「何故着替える」

「騎士が上に楯突いちゃ、ダメでしょ」

「えっ……ちょ、ちょっと待って下さい隊長」

 声を上げたのは、黙り込んだまま成り行きを見守っていた方の騎士だった。彼は慌てた様子で兜を外し、一歩シルヴィアに近付く。栗毛で優しげな面立ちの好青年だが、今は険しい表情を浮かべている。

 シルヴィアは顔ごと彼を見上げ、眉を曇らせた。困ったような素振りの彼女に、青年は力強く首を横に振って見せる。

「駄目です。あなただって、どうなるか分かりませんよ」

 彼女がどこへ行くのか、青年は分かったのだろう。騎士団の仕事が魔女狩りならば、捕らえられた者がいるのは騎士団が管轄する収容所のはずだ。そこへ捕らえられた者を返せと言いに行くなら、反逆と取られてもおかしくはない。

 そこまでシルヴィアに手伝わせるつもりは、ヴォルフにはなかった。昔から強情なのも知っているから、青年がなんとか止めてくれないものかと心中祈る。

「何もしないよりはいいでしょ。君らには、迷惑かけないようにするから」

「なら、自分も……」

 身を乗り出して意気込んだ青年の胸に掌をかざし、シルヴィアは微かに笑った。青年騎士は悲哀と苛立ちが入り交じったような表情を浮かべ、口をつぐむ。

「悪くても、私は今すぐ結婚で済むから。君は駄目だよ」

 何がどう悪いのか、ヴォルフには分からなかった。しかし事情を知っているのだろう青年は悲痛に顔を歪め、拳を握る。鋼の手甲が、鉄を噛むような音を立てた。

「シルヴィアさん……」

 消え入りそうな声で呟く青年を振り切るように、シルヴィアはヴォルフの方へ大きく一歩踏み出す。目と目が合うと、彼女は微苦笑して見せた。無理に浮かべたようなその笑顔が痛々しく見えて、ヴォルフは顔をしかめる。

 栗毛の青年は、下を向いて唇を噛んでいた。先程ヴォルフが詰め寄った騎士が、震える青年の肩に手を乗せる。

 言葉は掛けられなかった。何も言えないまま、先導するように歩き出したシルヴィアに続いてその場を離れた。

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