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第二章 Lovers Port 八

 八


 その日は、朝から天気が良かった。澄み渡った青空には雲一つなく、太陽は優しい日差しを惜しみなく大地に注ぐ。左右に広がる森からは小鳥のさえずりが聞こえ、緩やかな風は心地良く頬を撫でて行く。

 鼻歌でも歌いだしそうな程、ジゼラは上機嫌だった。その足取りは弾むように軽やかで、微かに笑みさえ浮かべている。

 しかしヴォルフは、今にも人を食い殺しそうな顔をしていた。狭い眉間には深い皺が刻まれ、灰色の目は獰猛な獣のように行く手を睨んでいる。怒っているのではなく悩んでいるだけなのだが、時折正面から来る人は皆、彼の横を通る時だけ速足になった。

 ジゼラはすれ違った男性が逃げるように通り過ぎて行くのを見て首を傾げ、ヴォルフを見上げた。いつになく渋い顔をした彼に怯えるでもなく、掴んだ袖を引く。正面を睨んでいた目と目が合うと、彼女はふわりと微笑んだ。ヴォルフの眉間に寄った皺が、少しだけ薄くなる。

 彼が悩む理由は、港町に出たというタロットの事だ。タロットの中でも珍しい種類というのはあるもので、「恋人ラヴァーズ」や「運命の輪ホイールオブフォーチューン」がそれに当たる。目撃情報もあまり聞かず、ヴォルフ自身見た事がない。それが具体的にどんな災厄をもたらすのか、どんな姿をしているのか、彼も知らなかった。タロットの本体がカードだった時代にそれらを倒して回っていた両親からは、厄介なものだったと聞いている。

 ジゼラとは断じて恋人ではないにしろ、果たして無事でいられるだろうか。泉で会った旅人から噂程度の話は聞いたが、抽象的に過ぎてよく分からなかった。しかし、避けて通る事が出来ないのも確かだ。

 噂を聞いたから倒さなければならない、という強迫観念に囚われている訳ではない。今までも、無理だと判断したら避けてきた。無論出来る限り町を救いたいとは思うが、ヴォルフの方も、慈善事業でタロットと戦っている訳ではないのだ。

 ならば何故悩むのかと言えば、ラヴァーズがいる港町を避けると、近くには他に島へ行く客船が出る港がないからだ。仮に船があったとしても、それは貨物船であって人を運んではくれないだろう。流石に貨物船へ無理に乗せてもらう訳には行かない。

「困ったな」

 何を思ったか、ジゼラが唐突に呟いた。彼女が何に困ったのかヴォルフには分からなかったが、とりあえず頷いておく。ジゼラの発言は適当に流しておくに限るのだ。

「あなたの眉間から皺が消えないと、禿げてしまうかも知れぬ。困った」

 頷かなければ良かったと後悔した。そもそも意味が分からない。更に渋面を作るヴォルフを見上げ、ジゼラは臆面もなくその顔を覗き込む。

「だが大丈夫だ、例え見る影もないほど禿げても、私はあなたが好きだぞ」

「喧しい。禿げん」

 吐き捨てるように返したにも関わらず、ジゼラは満足そうに笑った。相手をしてもらえた事が嬉しいのだろうが、まるで子供だ。

 いつしか肩にこもっていた力を抜き、ヴォルフは改めて行く手に視線を移す。変わらず曲がりくねった道の先は、森に阻まれて見えなかった。

 不安を煽られもするが、街道を歩いていれば辿り着くのは必ず町か村だ。道標さえ見落とさなければ、何事もなく着くだろう。

「……なんだ?」

 下を向いて歩いていたジゼラが顔を上げ、訝しげに呟いた。ヴォルフも片眉を寄せ、怪訝な表情を浮かべる。

 遠くから、地響きが近付いて来る。何の音なのかは判断出来ない。だが確かに、こちらへと迫って来ているのは分かった。何か臭わないものかと、ジゼラを見る。意見を求めるようなヴォルフの視線を受け、彼女は首を傾げた。

「今日は追い風だから、何も匂わぬぞ。前から来ているのは分かるが」

 真顔で返す彼女から顔を逸らし、ヴォルフは奇妙な地響きに耳を澄ませた。音の正体は判じかねたが、どことなく不安を煽られる。聞いたことがあるような気もしていた。

「何の音だこれは……ん」

 地響きに混じって、金属同士がぶつかるような硬い音が微かに聞こえた。どこか聞き覚えのある不協和音に、ヴォルフは立ち止まる。そして暫く悩んだ後、ジゼラを引っ張って森へ入った。

 ジゼラは不思議そうに首を傾けながらも、黙ってヴォルフについて行く。彼は辛うじて街道が見える程度の距離まで離れて立ち止まり、注意深く辺りを見回した。

「何だ?」

「外套を被れ。騎士の行軍だ」

 一瞬苦い表情を見せたジゼラはその顔を隠すように下を向き、地面に荷物を下ろした。その場にしゃがみこんで麻袋の中から外套を引っ張り出し、頭から被る。

 昔の騎士と言えば、誉れ高いものだった。高価な甲冑を維持しなければならない為に高貴な家柄の者しか就く事が出来ず、弱者を守り悪を挫く騎士道精神があった。しかし大陸中がタロットに蝕まれ、戦争している場合ではなくなった今となっては、彼らは権力を振りかざす搾取者でしかない。

 騎士はよく、行軍途中で行き違った人に絡む。誰のお陰で安全に暮らしていられるのだと、そう言って絡み、動揺する人を見て笑うのだ。

 挙げ句に商人の姿があれば脅して金品を奪い、愛らしい町娘があれば攫って行く。彼らから昔の威厳は失われ、今ではタロットに次ぐ脅威とそしられるだけの存在と成り下がった。

 心中でいくら蔑もうと、ヴォルフ自身、彼らからは逃げるより他にない。所詮平民の出でしかない彼では、楯突いた所で捕らえられるだけだろう。騎士の行軍と出会したら、隠れて通り過ぎるのを待つしかないのだ。

 足音が、徐々に近付いてくる。ヴォルフは出来るだけ太い木の裏へ回り、背中にジゼラを隠した。

 それぞれ見事な甲冑に身を包み、立派な馬に跨がった騎士達の列が、街道を過ぎて行く。一人一人に三四人の歩兵が付き従い、一定の速度を保ったまま大仰な仕草で歩いている。鋼の鎧が太陽光を反射してひどく眩しく、ヴォルフは目を背けた。

 逸らした視線の先で、ジゼラが俯いている。フードを目深に被った彼女の表情は見えないが、バラの花弁のような唇が引き結ばれて白くなっているのは確認出来た。彼女はどうも、騎士という言葉に反応して暗い表情を見せるように思う。砂漠の少年の父親の話を聞いた時も、珍しく黙り込んでいた。

 ジゼラの剣は、騎士が使う儀式用の剣に似ている。最近は女性の騎士というのもたまに見掛けるが、放浪していたという彼女がそうだとは考えられない。

 だから没落した騎士の家の娘か何かだったのだろうと、ヴォルフは思っている。そうであれば、居丈高な口調である説明もつく。

 ふと見ると、ジゼラの手が袖をきつく握り締めていた。華奢な手に力がこもり、元々白い肌が更に白く変わっている。すがり付くような仕草だった。

「おい」

 驚いて顔を上げると、歩兵が二人、近付いてくるのが見えた。街道から森の中が見えるはずはないから、用を足しに来たのだろう。もっと奥まで入ってしまえば良かった。

 歩兵達はヴォルフとその背のメイスを見比べて、訝しげな表情を浮かべた。背中のものが目立つせいで、ヴォルフはよく絡まれるのだ。相手をするのも不愉快で、いつも適当にあしらってしまうが。

「旅の者か? そんな所で何してる」

「連れが催したのでな。あまり寄るな」

 歩兵は二人揃って嫌そうな顔をして、一歩下がった。ジゼラがしきりに袖を引いているが、ヴォルフは無視する。

「用足しはいいが、もっと奥へ行けよ」

「次からそうしよう」

 言いながら横をすれ違った男は、そのまま通り過ぎて行った。ヴォルフは胸を撫で下ろしかけたが、もう一人の男がジゼラのフードへ手を伸ばしたのを見て、凍り付く。

 男はフードを取ると同時、おいと呟いた。もう片方が振り返り、ジゼラを見て目を丸くする。彼女は珍しく、睨むように目じりをつり上げていた。

「女じゃねぇか。白髪とは気味悪いが……」

 見た目だけなら、ジゼラは美しい。しかし口を利けば、どんな男も裸足で逃げ出す。絡まれても逃げられるだろうとヴォルフは思っていたのだが、何故だか彼女は黙り込んだままだった。

 笑う兵士の横からもう一人が顔を出し、ジゼラの顔を覗き込む。彼は暫く値踏みするように視線を上下させていたが、ふと、眉をひそめた。

「待て、似てないか。この女」

「誰に……んん?」

 無遠慮に顔を近付けられ、ジゼラは身を引いた。男は暫く考えてからヴォルフを見て、同僚に視線を移す。

 誰に似ていると言うのだろう。身構えていたヴォルフはジゼラを見下ろして、怪訝に目を眇める。ジゼラは眉間に皺を寄せ、苦い表情を浮かべていた。

「まさか。他人のそら似だろ」

 肩を竦めて伸ばした男の手が、勢いよく跳ねのけられた。驚いて一瞬硬直した彼を、青みがかった灰色の双眸が睨み付ける。白い鼻の頭に、皺が寄っていた。

「私に触れるな!」

 語気を荒らげて怒鳴ったジゼラの瞳の奥に、何かが渦巻いているのが見えた。澄んだ目の奥に澱となって浮かぶのは、怒りではない。それより遥かに深い、憎悪だった。

 森中響き渡る程の大声に、兵士達だけではなくヴォルフまで驚いた。彼女がここまで激昂するのを見たのは初めてだ。

「マレスコッティを知らぬのか田舎者が。それ以上私に近付くな、斬るぞ」

 二人の兵士が驚愕に目を見張り、顔を見合わせた。そしてゆっくりと一歩下がり、緩く左右に首を振る。ヴォルフにはその反応が何なのかも、ジゼラの言葉の意味さえ理解出来ない。動揺する三人をよそにジゼラは少し落ち着いたようで、元の無表情に戻った。

「……ま、マレスコッティ家のおじょ」

「行け」

 顎で促す彼女が、ヴォルフには見知ったジゼラとは別人のように思えた。マレスコッティというのがどんな家なのか、彼は知らない。そもそもジゼラの素性は何も知らないのだ。

 二人の兵士は困惑したような表情のまま、足早に街道の方へ去って行く。ジゼラはその背が見えなくなってから屈んで外套を脱ぎ、膝の上で畳んで麻袋の中へしまった。それから何事もなかったかのように立ち上がり、ヴォルフを見上げる。普段となんら変わりない、真顔だった。

「行こう、ヴォルフ」

 聞こうと思っていた全てが、ヴォルフの頭から抜けた。聞かない方がいいのだろうとも思う。それで済むような問題ではないような気もしたが、ジゼラは何も話さないだろう。彼女の態度を見て、そう確信した。

 森を出て街道を歩き始めると、ジゼラはまた左袖を掴んだ。まだ置いて行かれると思っているのだろうか。もう、そんな気はないというのに。

 思えば長い道のりを、こうして歩いてきた。こんなに早くジゼラがいる事に慣れるとは思っていなかったが、慣れて当然だとも思う。それほど、彼女は喧しい。

 ゆるやかな坂を下ると、突然眼前に大きな町が広がった。湿気た風が頬を撫で、コートをはためかせる。磯の香りを孕んだ風に吹かれ、ジゼラの髪が後ろへ靡いた。それを押さえ込むように、彼女はヴォルフの腕へ首筋を押し付ける。

「しまった、髪が傷む。あなたに撫でてもらわねばならぬのに」

 ふざけたぼやきは無視した。磯の匂いを嗅ぐと貝が食べたくなるのは何故なのだろうと、ヴォルフはぼんやりと考える。夕飯はムール貝でも食べたい。町が無事であればの話だが。

 この辺りの町や村は殆どが森に囲まれていたが、ここは事情が違うらしい。街道の突き当たりが、いきなり町の大通りに続いていた。先の岐路で曲がった方向には、ここしか町がないのだろう。建物に阻まれて海はまだ見えないながら、やっと大陸の端に着いたのだと実感する。

「生臭い。海はいいが、この臭いは駄目だな」

 ジゼラは蛸というより、海産物が嫌いなのではないかとヴォルフは思う。香草焼きは好きそうだったが。

 石畳で舗装された大通りは人も多く、それなりに活気があった。漂う空気も和やかなこの町は、とてもタロットに汚染されているようには見えない。

 よもやラヴァーズがいるなど、根も葉もない噂だったのではあるまいか。安堵しつつ宿を取るより先に飯を食おうかと考えたところで、はっとした。

「……待て、なんだここは」

 ジゼラは不思議そうにヴォルフを見上げ、周囲を見回して、更に怪訝に首を傾げた。気付いたからそうしたのか分からないだけなのか定かではないが、彼にとってはどちらでもいい。

 町人達は皆、二人一組で歩いていた。ただ二人な訳ではない。老若を問わず、それぞれ全てが男女の二人連れなのだ。更にその全てが、見るからに仲睦まじい様子だった。腕を組んで微笑み合いながら、もつれ合うようにゆっくりと歩いている。

「恋人」の災厄とは、この事なのだろうか。確かに何かに汚染されているとしか思えないが、仲がいいのは悪い事ではない。独り身の精神衛生上は、あまり良くないが。

 きょとんとして行き交う恋人達を眺めていたジゼラは、唐突にヴォルフを見上げた。相変わらず真顔だ。

「暑苦しい町だな。見渡す限りべたべたべたべたと」

「お前が言うな」

「海の空気がべたついているからだろうか。海はすごいな。しかも大きい」

「違う」

 吐き捨てながらジゼラから視線を外すと、腕を組んで密着したまま歩く恋人達の姿が目に入った。うんざりして空を仰げば、カモメまでもが二羽ずつ並んで飛んでいる。

 ヴォルフはここに来た事を深く後悔した。真面目な彼は、この空気に耐えられない。

 しかし「恋人」とは、どんなタロットなのだろうか。ヴォルフは視線を足下に落としたまま歩きつつ、思い悩む。見ている方としては不快だが、悪い事ではないように思われる。

 邪心を糧とするタロットが、果たして人心を操ってこんな町にするものだろうか。疑問には思えど、自然にこうなったとはとてもではないが考えられない。

「励んでいるな」

 無感動な声に少し視線を上げてジゼラを見ると、彼女は路地を眺めていた。つられて顔を上げ、ヴォルフはげんなりする。

 狭い路地の奥では、一組の恋人達が睦びあっていた。仲が良いのはいい事だ、と言える次元ではない。タロットのせいだと知らなければ、ヴォルフは割って入って説教の一つでもしていただろう。だから生臭いのかも知れない。

 そしてヴォルフはふと、疑問に思う。彼女にはあの行為の意味が分かっているのだろうか。

「……お前、あれが何をしているか分かっているのか」

 真顔のまま目だけを丸くして、ジゼラは大きく瞬きをする。子供のような仕草だ。聞いたはいいが、ヴォルフは彼女の唇が動くのが怖かった。

「子作りだろう」

 彼女の中ではそれでしかないのだと納得した。つまり、娼婦という職業を知らないだけだったのだろう。今更そんな事はどうでもいいと考え直し、また思考する。

 果たして性愛は、邪念と呼ぶのだろうか。三大欲求というのがそもそも欲とつくから、或いはそこにカテゴライズされるのかも知れない。しかし、違和感もある。

 タロット達は皆、誰しもが悪と分かるような念を糧とする。人心を操るものは憤怒や嫉妬、物欲を湧き出させるものが主で、それ以外はなかった。表向き町が発展したように見せる点では、「節制テンパランス」と似ているだろうか。

「ヴォルフ」

 考え込んでいた彼はあからさまに嫌な顔をして、ジゼラを見下ろした。彼女はその表情を気にするふうもなく、頭をヴォルフの二の腕へ寄せる。

「こうなったら負けてはいられぬ。私達も腕を」

「組まん」

 どういう対抗意識なのだろうか。ジゼラも影響され始めているのではないかとも思ったが、彼女は元々こうだ。心配するまでもない。

 とにかく、町に着いたのだからまずは食事だ。気を取り直して飯屋へ入ろうとドアを開けた瞬間、中の甘い空気が流れ出してそのまま閉めた。とてもではないが、この中には入りたくない。

 ジゼラが立ちすくむヴォルフの脇から顔を出し、ドアについた窓から店内を覗く。中の様子を見て不満そうに唇を尖らせ、彼を見上げた。

「ヴォルフ、やっぱり私達も……」

「あのっ!」

 背後から声をかけられ、二人は同時に振り返った。そこには縋るような目をした女性が立っている。

 二の腕までのドルマンスリーブのワンピースを着た彼女は、二十歳前後だろうか。柔らかそうな栗毛は肩の位置まで伸ばされ、緩やかなウェーブを描いている。どことなく疲れているように見えるのは、気のせいだろうか。

 ジゼラが首を傾げると、女性はほっとしたように息を吐いた。輪郭が丸く愛らしい顔立ちな分、目の下の隈が痛々しく見えた。

「ああ……やっぱりあなた達無事なのね」

「無事? どういう事だ?」

 問い返したジゼラを見て困ったように眉尻を下げ、女性は一度周囲を見回した。それから一歩下がって二人から距離を取り、首をすくめる。

「あの、立ち話に付き合わせるのは申し訳ないから……どうかうちにいらして。ね」

 無事と言うなら、彼女も無事なのだろう。詳しく話を聞けるだろうと考えながら、ヴォルフは頷く。嬉しそうに表情を緩め、女性は二人に向かって手招きした。ジゼラは一度ヴォルフを見上げ、彼が歩き出してから黙ってついて行く。

 女性の家へ向かう途中、ヴォルフはやっと気付いた。「恋人」というタロットが、何を糧としているのかに。

「騒がしいな」

 女性に聞こえないようにジゼラが呟くと、ヴォルフは頷く。「節制」と似たようなタロットだと言えるような騒ぎではない。ひどい状態だ。

 住宅街は、喧騒に満ちていた。通りは怒鳴り声と罵声で溢れ返り、窓からは時折物が落ちてくる。それはフライパンだったりフォークだったりと様々だったが、本来投げる為のものではない事だけは共通していた。

「ラヴァーズというタロットには、結婚生活の破綻という意味がある。そのせいだろう」

 大通りの様子から考えると、ひどいものだ。あの恋人達の末路は、こうして喧嘩を繰り返す夫婦となる事でしかないのだろう。今でもある意味ひどいものだが。

 通りにいるのが恋人達ばかりで子供の姿を見かけないのは、このせいだったのだろうか。だとすると、ここは充分危険な状態にあると言える。

「こんなふうに……なるのか」

 ジゼラが呟く声は、誰かの怒鳴り声に掻き消された。

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