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陰陽師の名家のイケメンなのに霊力ゼロな俺。全部マネージャーの女が祓ってるけど、アイツ全然可愛くない  作者: かにえR
【第2章 見えない男の煩悶】

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第五話 生霊飛ばすと腹が減る


生霊飛ばし一日目。


見た感じ、あいつは元気だ。

本当に生霊なんて飛ばせるのか?

目に見えないから、いまいち信用ならない。


「おい、生霊飛ばしてんのか?」


「はい、飛ばしています」


「にしては、元気だな」


「はい、まだ一日目なので」


「ふーん」


◇ ◇ ◇


「……なるほど、夜になると和室からうめき声のようなものが聞こえると」


『グーッ』


「今のが!?」


「すみません。私のお腹が鳴った音です」


「は!? ……申し訳ありません。このマネージャーの腹の音だったようで。気を取り直して……和室からうめき声が?」


「そうなのよ。仏壇あたりからね。なんか、聞こえてきたのよ。もう怖くて怖くて。死んだ爺さんが化けて出てきたのかと思ったのよ。でも、なんか女の子みたいな声なのよ」


「なるほど。では、お仏壇のまわりを確認させてください」


『グーッ』


「すみません」


「あんた、朝ごはん食べてないの? さっきからお腹が鳴ってるけど。ちょっと待ってなさい。たしか、お土産に頂いたお菓子があったわ」


「いえ、お気になさらずに」


「なによ、いいのよ。婆さんの一人暮らしで、お土産にお菓子をもらっても食べきれないの。ちょっと待ってなさい」


「はい」


ドタバタと音を立てて、和室から出ていく依頼主。


「お前、そんなに腹減ってんのか? あ、生霊のせいか!?」


「はい、そうです」


「ウケる。まじで腹減んだ!!! はぁ、おもしれぇ」


「何が面白いのか、さっぱりわかりませんが」


「持ってきたわよ! お菓子! ほら、これ。ポケットに入れておきなさい。ほらほら、これもこれも」


「……ありがとうございます」


スーツのポケットがお菓子でパンパンになった菅原を見て、笑いをこらえる。


「ちょっとあんた、暗いわねぇ。こんなにカッコいいお兄さんと働けるんだから、もっと明るく元気にしなさいよ~。もう、私が代わりにお兄さんのマネージャーになっちゃおうかしら。あははは!」


笑う依頼者に、バシバシと肩を叩かれる菅原を見て、吹き出す俺。


ちょっと揶揄ってやろうと思って、菅原に耳打ちする。


「(よかったな。お菓子もらえて。ガキみてぇに……)」


「チッ」


「(おぉ、怒ってる怒ってる。マジでガキだな)」


「……」


「(無視してやんの。やっぱりガキだな)」


「(紫門さん)」


突然、菅原に名前を呼ばれて、ドキッとした。


「(な、なんだよ……)」


「(あの、ここ霊がいません)」


「(は? どういうことだよ)」


「(おそらく、霊ではなく別の原因があるかと)」


そう言って、少し考えるような顔をしたあと、依頼者に声をかける菅原。


「すみません、お仏壇、少し動かしてもよろしいでしょうか」


「え? いいけど、重いわよ~」


「紫門さん、手伝ってください」


また名前で呼びやがった……。


「紫門さん、そっちです。そっちを持って」


「は? あ? こっち? って、おも!!! 重すぎる……全っ然動かねぇ」


「あらやだ! お兄さん、あんた、この筋肉は飾りなの?」


笑いながら俺の肩をバシバシ叩く依頼者。


「いて、いててて。奥さん、ちょっと、あの、いててて」


菅原の顔を見ると、勝ち誇ったような顔で、肩を叩かれる俺を見ている。


あいつ……クソが……。


「……奥様、あの、何か長い棒とかはありますか?」


突然、依頼者に尋ねる菅原。

長い棒? 本当にこいつの考えてることはわからない。


「長い棒……? あ! あるわ! ちょっと待っててちょうだい!」


そう言って、ドタバタと和室を出ていく依頼者。


「長い棒って、お前何する気なんだよ。まさか霊を突くのか!?」


「はぁ……さっきも言いましたが、霊はいませんよ」


「わ、わかってんだよ! 仕方ねぇだろ! 見えねぇんだから! それで、棒で何すんだよ!」


「はぁ……仏壇の後ろにあるうめき声の原因を、棒で取ろうと思って。その、飾りの筋肉では仏壇が動かせなかったので」


「うめき声の原因……? やっぱり霊がいんのか!? いや、待て、お前今、俺のことバカにしたよな!? お前、俺のこの肉体美を!」


「霊はいませんよ。何度も言わせないでください。紫門さん、もう少し察する努力をしましょうか。きっと、これから役に立ちますよ」


「お前、いつから名前呼びになったんだよ!!!」


「すみません。御影さんに戻します」


「い、いや、別に紫門でいい。御影さんだと、俺を呼んでんのか、父親のことを呼んでんのかわかんねぇからな!!!」


何を言ってんだ俺は。


「わかりました。紫門さんと呼びます」


「おう……てか、察する努力ってなんだよ!!!」


「……はぁ」


「ため息ついてんじゃねぇよ!!! 俺をバカにしてんのか!?」


「……」


「また無視しやがっ」


『グーッ』


「失礼しました」


なんなんだ。なんなんだよ!!!

生霊飛ばして腹を減らして、俺を煽り散らすこの女は!!!


依頼主が息を切らして和室に入って来た。


「はい、長い棒。持ってきたわよ。お掃除のやつだけど。ほら、床とか拭くやつ」


「……ありがとうございます。では、さっそく」


仏壇の後ろに棒を突っ込み、ガサゴソと何かをする菅原を、依頼主と見つめる。

陰陽師というより、便利屋だ。


「……あ、ありました」


そう言って立ち上がり、手を差し出す菅原。

その手の中を覗き込む。


そこにあったのは、小さなおもちゃの時計。


「多分、時間になると音が鳴るやつですね。聞こえていたのは、その音だと思います」


「イヤだわぁ! 孫がやったのね。申し訳ないわぁ。死んだ爺さんのせいにしちゃって」


「イヤだわぁ!」と言いながら、菅原の肩をバシバシ叩く依頼主。


ニヤニヤと笑う俺を、睨みつける菅原。


◇ ◇ ◇


「は~、もはや便利屋だな」


「そうですね。ですが、依頼されたからには、やらなければなりません」


『グーッ』


「お前、そんなに腹減ってんのかよ。次の依頼でまた腹が鳴ってたら恥ずかしいから、飯食いに行くぞ」


「いえ、大丈夫です。手持ちがないので」


「親父にカード渡されてんだろ? 飯くらいあれで払えんだろ」


「あれは法人用なので、接待以外の食事には使えません」


「は~めんどくせぇ。じゃあ、奢ってやるよ」


「結構です。恩着せがましく言われるのが目に見えているので」


「は!? だから、お前のためじゃねぇんだよ。俺が恥ずかしいの。わかる? 依頼者の前でマネージャーの腹がグーグー鳴ってんのがさぁ」


「……わかりました」


「はぁ。そのへんのファミレスとかでいいだろ。時間もねぇしな」


「承知しました」


まったく。

何でこんなヤツと飯を食わないとなんねぇんだよ。

別に、いいけど。

いや、よくない。

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