第二話 お前、笑った?
「すがわら、お前何歳?」
「かんばらです。23の年になります」
「は? タメなの? まじか~。てっきり上かと思ってたわ」
「はい」
マジでこいつ、会話を続けようという気持ちがない。
なんなんだよ。
別に俺だってこんなやつに1ミリも興味なんてないが、仕事上は一応パートナーだ。辞められても困る。
……というか、そもそも陰陽師って何なんだよ。
せめて、俺にも霊が見えたらな~。いや、見えたらそれはそれで怖ぇだろ。
「お前、霊が見えてるわけじゃん?」
「はい。見えてますね。陰陽師的には怨霊、物の怪ですかね?」
「んなのはわかってんだよ。俺だってな、力はねぇけど歴史ある家に生まれてんだよ。そんなものは、生まれた時から耳が腐るほど教えられてきてんだよ」
「では、私に教えてください。陰陽師について」
「は……? はぁ……? 今、なんつった?」
「嫌なら結構です。失礼しました」
「は……?」
教えてほしいなんて、生まれて初めて言われた。
俺の周りに集まる人間は肩書には騒ぐが、陰陽師が何なのかを聞くことはしない。知ろうともしない。
俺だって別に、知りたくて知ったわけじゃないのに。
子守唄のように真言を聴かされ育ってきた。
力もないのに、呪いのようにそれらが身体にまとわりついている。
「チッ……何が知りてぇんだよ」
「大体のことは本で読みました。相地で都を選定する。占いで国政を助ける。天文密教など、天文の現象で占ったり……暦をつくったり。あとは方角……呪詛……祭祀……そして祓……」
「ふぅん。まぁ都の選定も占いも、暦も呪詛も飛鳥時代から平安、そして明治までの話だけどな。現代の陰陽師の仕事は、家の方角を見るとか、まぁ祭祀。そして祓。そんなもんだろ」
「はい、それは知っています。横で見てるので」
「クッソ。なんなんだよお前。お前が教えろって言ったから教えてやってんだろうが。何が知りてぇんだよ」
「何が知りたいのか、自分でもよくわからなくて」
「は!? 何を言ってんだよお前は。そんなの俺がわかるわけがねぇだろ。バカなのか? お前は。本当に意味がわからないやつだな。まったく。なんでこんなヤツに霊が見えて、俺には見えねぇんだよ」
「見えても、いいことなんてないですけど」
「は……? いいことしかねぇだろ。おい、わかってんのか。俺は千年続いた御影家の待望の跡継ぎだぞ? その俺に力がないって。親にはポンコツと呼ばれて、俺がどんな気持ちで生きてきたか、わかってのか。お前は」
「すみません」
「すみませんじゃねぇよ。金でその力を買えるなら買いてぇよ。いくらでも出してやる。金で買えねぇ力を持ってんだぞ? お前は。それなのに辛気臭ぇ顔しやがって。まったく。本当に。クソ。腹が立つ。何が陰陽師だよ。なんでこんな家に生まれちまったんだよ、俺は。クソ……」
……何を言ってんだ俺は。
「……」
「おい! お前! なに無視してんだよ!! 大変でしたねとか、可哀想とか言えよ!!!」
「……大変でしたね。可哀想ですね」
「お前、棒読みすぎるだろ。バカにしてんのか?」
「バカにしてると思われたなら、謝ります。申し訳ありません」
「……なんか、お前、AIみてぇだな。はは。じゃあ、俺の気分がよくなるように、ただ肯定だけしてろよ」
「それはできかねます。お父様に、あなたのことを頼まれているので」
「何を頼まれてんだよ」
「あなたを、真っ当な陰陽師にする、と」
「力もねぇのにか?」
「はい、力もないのに、です」
「舐めてんなぁ、お前」
「はい、舐めております。私」
「変な肯定してくんじゃねぇよ!!!」
「いえ、御影さんが先ほど肯定しろとおっしゃったので」
「なんだよ。御影さんって。紫門様と呼べ。かっこいいだろ。俺の名前。この、呪いみてぇな名前。呼べよ。紫門様と。ほら」
「かっこいい? 私には、少しキラキラネームのように感じます」
「お、お、お……お前……お……」
「どんな由来があるのでしょうか?」
「キラキラネーム……お前……クソ……陰キャ……ゆ、由来? 由来……紫は紫白九星……門は、家柄の継承……誇り……」
「紫白九星……たしか本で読みました」
「そうだ。九星図」
「九紫火星からとったんじゃないんですね」
「は? あぁ。それらの総称からな。なんで九紫火星からとったと思ったんだ?」
「え? いや、九紫火星の人間はプライドが高く、見栄っ張りと書かれていたので」
「はい、この女、完全に煽っています。確定です」
「容姿端麗、知的という意味もあるそうですよ」
「まぁ、それはな? それはあってるな」
「まぁ、我々の九星は六白金星ですけどね。2003年生まれなので」
「クソ!!! なんでお前と同じ九星なんだよ!!!」
「申し訳ありません。同じ年に生まれてしまって」
「クッソ!!!」
「六白金星は、短気と書いてありましたよ」
「クソが!!!」
「はは」
「……は? 笑った? お前、今笑わなかったか?」
「……」
「得意の無視かよ。まじでなんなんだよ……クソ……」
……なんでこんなにムキになってんだよ、俺。




