098 時間の潰し方
リーベは裏庭で汗まみれの冒険服を洗濯し、風の魔法で乾かした。それを今、自室で畳んでいる。
「ふんふーん♪」
(ダンクもそろそろ洗ってあげないとな~)
「ダンクも今度お風呂に入ろうね?」
「…………」
風呂好きなダンクはくりくりの目を煌めかせて喜んだ。
「ふふ。もっふもふにしちゃおうね?」
「…………」
そんなやりとりをしつつ、彼女は日が暮れるのを待っていた。時刻は昼下がりで、夕暮れまでまだ時間があった。その間何をして凄そうか考えた時、彼女の脳裏には2つの選択肢が浮かび上がった。
1つは昼寝。もう1つは魔物の生態についての勉強だ。
早朝に目を覚まし、その後過酷な試練を経てきた彼女にとって、前者は大変魅力的であった。しかし、リーベは冒険者だ。こうした僅かな時間をも今後の活動の糧と出来るよう、研鑽に努めなければならないのだ。
服を畳み終えた彼女はダンクと共に机に向かうと新品のノートを取り出した。まっさらな紙面に今まで見てきた魔物について、所感をまとめることにした。
「『――衝撃に対して非常に敏感で、ダイマのような魔法を打つけると全身を硬直させられる。この性質を利用し、固め、メガ・ファイアで焼き、剣士に切り落としてもらう。この手順を繰り返すことで安全に仕留めることができる……と、このように正面から戦う分には余裕を持てる相手だが、真に恐ろしいのは移動中、音を立てないことだ。テルドル近郊のような山が多い場所ではいつ奇襲を受けるか知れないため、十分に気をつけること』っと……ふう」
カナバミスライムについて記し終えると、リーベはホッと息を吐き出し、大きく伸びをした。「んーっ! ……はあ」
このまま勉強を続けたいところだったが、体力的に限界だった。勉強も一区切りついたのを良いことに彼女は昼寝をすることにした。
リーベはダンクを抱え、パジャマに着替えることなくベッドに横たわった。
するとは体からは疲れだけでなく、自分の全てが溶けてしまうような、そんな心地良さにに包まれた。それから程なくして、彼女は夢の世界へと旅立つのだった。
悠々と広がる草原にはシロツメクサやオオイヌノフグリなどの小さく可憐な花々が、人が集落を築くかのように群生していている。そんな植物の楽園をリーベとダンクは駆け回っていた。
『捕まえてごら~ん!』
『きゃんきゃーん!』
『あははは! あはは――』
「起きろ」
野太い声が響いたかと思うと、突如世界が揺らぎ始める。リーベはハッとダンクの方を見ると、怯えた彼に両手を差し伸べた。
『だ、ダンク! わたしに捕まって!』
『きゅうん……』
突然の大地震にすっかり縮こまってしまっている。その様子は労しいかぎりであるが、だからこそ、彼女は飼い主としてこの未曾有の危機に毅然と立ち向かわなければならないわけで――
「起きろっ!」
「おうおうおう……」
体を揺さぶられて夢の世界から転落してきたリーベは、重たい頭を起こし、幸せな一時を邪魔する不届き者を睨む。
「……なんだ、おじさんか。何でここに?」
「起こしに来たんだよ。たく、なかなか起きやしねえ」
ヴァールが呆れて頭を掻くと、ぴっちりと腕に張り付いた袖がギチギチと悲鳴を上げる。
「それよか、寝癖直したら下りてこい」
「寝癖……ああ!」
リーベは角のようにぴょこんと立った寝癖を隠すように押し潰した(ヴァール相手とはいえ、寝癖を見られるのは恥ずかしいのだ)。
「んじゃ、待ってるぞ」
ヴァールは巨体を屈めてドア枠をくぐり抜けていく。その様子を見送ることなく、リーベは慌ててポニーテールを解き、櫛で梳かすのだった




