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冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第2章 旅立ちの時

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097 嘘の多い一日

 ランドルフ先生の病院を後にした一行たちはテルドルの中央広場までやって来た。この広場をリーベは西へ。ヴァールたちは東へ向かう為、ここで一時解散することになった。


「んじゃ、また夕方にな」

「うん。お父さんをびっくりさせちゃおうね」

「気取られんなよ」

「大丈夫。お父さん結構鈍いから」


 そんなやりとりをしていると、フロイデさんが料理の名ををぶつぶつと、呪文のように唱えているのに気付く。それは2人も同じのようで、フェアさんはくすりと微笑んだ。


「ふふ。夕方が待ち遠しいようですね」


 そう言うと彼はこちらに目を向けた。


「夕方まで時間はありますから、ゆっくりと体を休めてくださいね」

「休むことは得意なんで、任せてください!」


 得々と言ってみせると、「誰だってそうだろ」とおじさんが苦笑した。


「駄弁ってても仕方ねえし、いい加減解散すっか」

「また後ほど、お会いしましょう」

「シュニッツェル……ローストポーク……」

「ふふ! はい、さようなら」


 こうして一行は解散した。






 入浴を終えたリーベはランチを凌いだ両親と共に遅めの昼食を取っていた。


 例によって献立は全てお昼の余り物であるが、これらは店で出してるものと同じ物であり、味は保証されていた。もっとも、リーベは母が作るのだから美味しいに決まってると思っているため、保証など必要ないのだが。


「ふふ、おいし♪」


 美味に頬を緩ませていると、父エルガーが興味津々と言った面持ちで娘に問う。


「ボリスから聞いたんだが、お前が1人でカナバミを倒したって、ほんとか?」

「ん? あー……」


 街の人々にはリーベが倒したと脚色をして伝えていた。だから父にも同じ様に伝えようかリーベは迷ったが、逡巡の末、正直に答えることにした。


「ううん、ちょっと違うの」

「違う? どういうことだ」

「わたしとフロイデさんと、2人で戦ったの。もちろん、おじさんたちにフォローしてもらいながらだけどね」

「じゃあどうしてそう言わないの? みんなそうだと信じちゃってるわよ?」


 正直であることを是とする母シェーンに厳しく追求され、彼女は腹のそこがじんと痛む。


「……ううん、おじさんがそうしたの」

「ヴァールさんが?」

「みんなに希望を持ってもらう為にって。もちろん、嘘は良くないとは思うよ? でも、だからこそ、それを嘘で終わらせないように頑張ろうって、そう決めたの」

「そうだったのね」


 短い返答からは険しさが取り払われていて、リーベはホッと胸を撫で下ろした。


「まあ、その気概は大事だな」


 エルガーは共感を示しながらも「だがな」と、心配そうな目を向けてくる。


「理想に囚われないことだ。いいな?」

「……うん。気をつけるよ」

「そうしてくれ」


 その言葉を最後に、食卓には気まずい沈黙が訪れた。一家はそれぞれ食べ物を口に運んだり、喉を潤わせたりして間を潰していたが、リーベはふと大事なことを思い出した。


「そうだ。あのね、今日は晩ご飯いらないから」

「え?」


 娘の言葉に両親は耳を疑った。


「どうしてだ?」

「今日はおじさんたちと外食するんだ」


 その言葉にエーアステの亭主であるシェーンはが切れ長の瞳に敵愾(てきがい)を宿して問うてくる。


「どのお店へ?」

「あー……」


 外食と言いつつも、客としてエーアステを訪れるつもりなのだが、まさかそれをバラす訳にもいくまい。だがその為の方便なんてものも用意しておらず、リーベは返答には数瞬を要した。


「ええと、おじさんのお気に入りのお店だって」


 すると2人は目を丸くし、小さく笑った。


「そうか、美味いもん食えると良いな」

「う、うん……」


(あれ? なんか、思った反応と違う)


 不思議に思っていると、シェーンが「でも冒険以外でリーベが外食するなんて、初めてじゃない?」と言う。


「あ、言われてみると確かに……うちがお店だもん。そんな機会ないよね」

「まあどこに行っても、結局うちが一番美味いんだからな」


 エルガーがそう言うと、シェーンは普段は見せない無邪気な笑みを浮かべ、夫の肩を叩いた。


「もお、お父さんったら!」

「なんだ? ほんとのことを言っただけだろ?」


 夫の言葉にシェーンが一層上機嫌になるのを見ていると、誇りを持って料理人をやっているのだなと思い知らされる。それだけの誇りを抱いているのなら、ヴァールが他にお気に入りの店を作ったことに少なからずショックを受けているかもしれない。どんな形であれ、やはり嘘は良くないものだとリーベは思わされた。


 しみじみ思っていると、お母さんと目が合った。


「そんなボーッとして、どうかしたの?」

「あ、ううん。ちょっと眠くなってきちゃって」

「今朝も早かったんだ。ヴァールらが来るまでゆっくりしてろ」

「うん、そうするね」 


(また嘘をついてしまった)


 だが、今のは両親を心配させないためのものであり、誰が傷ついたワケでもない。だがそれでも罪悪感が残る。


 ついても許される嘘と、許されない嘘。リーベがこの日ついた嘘の全ては、一体どちらに分類されるのやら。


(……いや、全部許されるように、頑張らないといけないんだ)


「よし……!」


 リーベは気持ちを引き締めると、残る半日をより良いものに出来るように頑張ると心に決めた。



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