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冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第2章 旅立ちの時

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096 偽りの功績と羨望

 受付を離れた2人はフェアとフロイデと合流した。


「よう、待たせたな」

「遅い……!」


 お腹をぐうぐう言わせながらフロイデが言う。


「ご、ごめんなさい……」

「ふふ、どんなお話をされていたんですか」

「ああ、明日カナバミの解体をやるから手伝えってな」

「ヴァールだけですか?」

「いや。体力作りのためにコイツも駆り出すことにしたよ」


 そう言ってリーベの頭に手を置いた。グローブをつけたまま。


「ああ⁉」


 彼女が頭に付いた砂を払っているとフェアはくすりと笑う。


「そういうことなら、私たちもお手伝いしなければなりませんね」

「お駄賃、出るの?」

「ああ」

「じゃあぼくも手伝う……!」


 ほくほく顔でそう言った。駄賃の使い道について、何かプランがあるのかもしれない。それがなんなのか、リーベはちょっぴり気になったが、問い掛ける前に話題は別のものへ移ってしまった。


「ほらよ」


 ヴァールは大金の入った袋をフェアさんに預けた。ここは人目があるからして、彼がその内容を確認することこそなかったものの、その重みに気付いたのか「おや」と短い声を上げた。


「どうした、の?」

「今晩はご馳走ですね」

「ご馳走……!」


 食いしん坊なフロイデさんはに目を輝かせると、おじさんが腰に手を当てながら提案する。


「んじゃ、晩飯はみんなで食うか」


その提案は大変愉快なものだった。


「いいね、どこで食べるの?」 


 するとリーベに視線が集まる。


「んなの、お前んちに決まってるだろ?」

「でも、今日は営業日だよ?」

「鈍いなあ」


 ヴァールが苦笑する傍ら、フェアがくすりと笑って言う。


「お客としてお邪魔するということですよ」


 自分の家であり、以前の職場でもあるエーアステに客として踏み込むなんて、リーベは考えもしなかった。それだけにこの提案は新鮮で魅力的であり、彼女の好奇心に火をつける種火となったのだった。


「いいね、面白そう!」

「んじゃ、決まりだな」

「フロイデさんには聞かなくていいの?」


 問い掛けると、「ほら」と顎で示される。


「トマト煮……クリームシチュー……チキンソテー……!」


 彼は今晩何を食べるか、今から思案しているようだった。


「ふふ、なら決まりだね――それで、これからどうするの?」

「解散と言いたいとこだが、その前にロイドたちの見舞いに行くぞ」

「そうだね。きっとカナバミのこと気にしてるもんね」

「そういうこった。んじゃ、いくぞ」


 ヴァールの後を追って歩き出すと、フロイデがぶつぶつ言って佇んでいるのに気付いた。リーベが言う前に、フェアが呼び掛ける。


「フロイデ、次にいきますよ」

「あ、うん……」


 そう答えて歩き出したものの、心ここにあらずといった具合だった。






「ほお、よく来たの。お見舞いかい?」


 ランドルフ先生は細長い顎を扱きながら目を細めた。


「はい。ロイドさんたちはまだいますよね?」

「ああ。退屈してっから顔を見せてあげなさい」

「はーい」


 そんなやりとりを経て、一行は病室に踏み込んだ。天井の低いこの部屋には病床(びょうしょう)が3つ並んで置かれていて、うち2台は強面の男性が利用していた。


 利用者の1人は海賊風の人物で、その手には『ゴミ拾いに生きる・下』という本がある。

 もう1人はスキンヘッドで、窓際に置かれた植木鉢に咲くパンジーをうっとりと鑑賞していた。


 その混沌さにフロイデが「変な夢みたい……」と困惑する中、リーベは2人に呼びかける。


「ロイドさん、バートさん。ただいまです」


 すると2人は振り向き、頬を綻ばせた。


「あ、リーベちゃん」

「おかえり。早かったね」

「すぐそこだったんで。それより、具合はどうですか?」

「ああ。治癒師の先生は明日には完治させられるって言ってたよ」

「そうなんですね」


 リーベがほっと胸をなで下ろしていると、ヴァールが笑いながらに言う。


「まったく、仲間が病室に寝そべってるってのに、ボリスは薄情だな」

「ああ。アイツのことだし、今頃一人で美味いもん食ってるんだろうな」


 バートがため息交じりに言うとフェアが苦笑する。


「先ほどエーアステでお会いしましたよ?」

「なにぃっ!」


 2人が目の色を変えて言うが、傷に(さわ)り、すぐに痛がり始めた。


「あたたた……」

「だ、大丈夫ですか?」

「暴れちゃ、ダメ」


 フロイデの言葉に2人は粛々と頷いた。


 ちょっとした事件があったものの、場はすぐに鎮まり、変わって神妙な空気が流れる。


 ロイドはごほんと咳払いをすると、「それで、アイツはどうなったんですか」とヴァールに問うた。彼の言う『アイツ』とはボリスのことではない。彼らに手傷を負わせた忌まわしきカナバミスライムのことである。


「リーベが倒したぞ」


 ヴァールが誇張して言うと2人はぎょっと目を見開き彼女を見た。


「……みんなにフォローしてもらって、ですよ」


 強い希望を持ってもらいたいからとは言え、嘘をつくのはやはり辛かった。それになにより、肩を並べて戦ったフロイデに対して申し訳が立たない。


 素直な性格であるからして、彼は賞賛を浴びたがっているはずだ。


 そう思って盗み見ると案の定、瞳に不服の意が見て取れた。


「…………」


 罪悪感に苛まれていると、ロイドが「凄いね」と素直な感想を寄せてきた。


「冒険者になったばかりなのにカナバミを倒しちゃうなんて。国中探してもそんなヤツいないよ。多分」

「俺たちも負けてられないな」


 ロイドとバートは笑って言うが、そこには悔しさが滲んでいた。


 その表情に居た堪れなくなるがしかし、リーベは毅然としていなければならないのだ。そうでなくては、見るものに希望を与えることなど出来ないからだ。


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