表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第2章 旅立ちの時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/140

092 ウネルハガネ その③

「メガ・ファイア!」


 この魔法は弾速が遅いという欠点があるが、ターゲットであるカナバミ動かない状態であれば、それも関係なかった。魔弾はカナバミの左半身に衝突し、甲高い音と共に熱波を解き放つ。


 肌に熱気を感じつつ、リーベはパートナーに呼びかける。


「フロイデさん!」

「にゃああっ!」


 彼が長剣を振るう傍ら、リーベは作戦決行のため、次なる魔法を練り上げる。


 スパンと見事に切り落とされた赤熱した金属片。それはカナバミの足下(スライムに足などないが)に墓石のように突き立っている。彼女はそれとカナバミの間に狙いを定め、魔法を放つ。


「ダイマ!」


 光の滴は両者の僅かな隙間に潜り込み、金属片の方に触れて炸裂した。


 破裂音が耳朶を叩くと同時に、一抱えほどの大きさの金属片がボールのように軽々と宙を舞う。だが最高点に達した途端、自重を思い出したかのようにズシンと落ちた。


 その振動を足の裏に感じながら敵を見ると、カナバミはダイマの衝撃にすっかり固まっていた。


「よし!」


 成功を喜びつつも、次の魔法の準備をしなければならない。


「うぬぬ……できた、メガ・ファイア!」


 再び魔法を放ち、先ほどフロイデが切り落とした場所を赤熱させる。それを彼が切り落として、破片を弾き飛ばしつつ硬化を維持する。それを数回繰り返した時だった。


「あ!」


 例によってフロイデがカナバミを斬ると、その白銀の断面にポツンと、象牙色の玉が現れた。それが核の一部であることは考えるまでもない。


「核だ!」


 リーベはメガ・ファイアで一気に仕留めようと思ったが、フロイデが待ったを掛ける。


「慎重にいこ……!」


 それはつまり、もう一巡、繰り返そうということだ。


 彼の指示は安全確実に獲物を仕留める冒険者らしい判断だったが、リーベは歯痒さを感じずにはいられなかった。


 それはそうと、この好機を逃すまいと、彼女は急いで魔法を拵える。


「ええい、ダイマ!」


 スタッフを掲げ、魔法を放つ。その瞬間、リーベは手元が狂ったのを直感した。


「あ――」


 短い声を発する一方、放たれた魔弾は狙いを外し……最悪なことに、破片の向こうに着弾しようとしていた。


 バゴオオンッッッッッ!


 破裂音と共に破片が弾かれ、リーベの顔面を目掛けて飛んできた。


 重厚な金属の塊が高速でこちらに飛んでくる……そんな悍ましい出来事にリーベは悲鳴を上げることさえできずにいた。


「リーベ!」


 ヴァールが横合いから刺突を繰り出し、高速で飛翔する物体に切っ先を打つけた。そんな神業によって弾道の逸れた金属片はわたしの顔のすぐ脇を「バギイッ!」と妙な音を立てながら横切っていった。


「あ、ああ……」


 そんな出来事に腰の抜けてしまったリーベ、敵の目前であり、目標を仕留めるチャンスであるにもかかわらずへたり込んだ。


 そんな彼女を余所にヴァールが相棒に指示を飛ばす。


「フェア!」

「はい! メガ・ファイア!」


呆然と見開かれた視界の中でカナバミの一部が赤熱し、そこに埋め込まれていた核もろともフロイデによって両断された。するとカナバミは僅かに溶けていた部分までをも硬化させ、完全な金属塊となり、静止した。


「……大丈夫か」


 ヴァールが手を差し伸べてくる。リーベがその手を取ると腕を引かれて立ち上がる。しかし足腰にうまく力が入らず、すぐに尻をついてしまった。


「ご、ごめん。腰が抜けちゃったみたい……」

「まあ、しゃあねえな。怪我はねえか?」

「う、うん……助けてくれてありがと」

「いいさ」


 ヴァールが短く言うと、フェアが安堵を浮かべて頷く。


「ご無事でなによりです」

「リーベちゃんの顔、ちゃんと付いてる」


 恐ろしい言葉とは裏腹に、彼は心底ほっとしているようだった。


「それよか、お前ら。結果はあんなだったが、よくやってたぞ」

「ほんと?」

「質の悪い冗談は言わねえよ」


 ヴァールの言葉にリーベとフロイデは目を合わせ、微笑みあった。


 それから彼女は彼に右手を伸ばす。


「……?」

「勝利のハイタッチですよ。……ハイじゃないけど」

「……う、うん…………」


 彼ははにかみつつも、これに応じてくれた。


 パン!


 そんなことをしている内、足腰に力が入るようになった。ヴァールの手を借りつつ立ち上がると、なんだか力が湧き上がってくるのを感じた。


「なんだか強くなった気がする」

「ぼくも……!」


 不思議に思っていると、カナバミの心臓を回収し、ついでに破片を収集していたフェアがほくほく顔で教えてくれる。


「カナバミスライムはその希少性と特異な性質から、『倒すと1年分の経験を得られる』と言われているんです」

「へー」

「そうなんだ……」


 弟子たちが感心していると、ヴァールは「まあ、迷信だがな」と苦笑した。


「うし。倒し終わったことだし、加工場の連中を呼ぶか」


 そう言うと大きな手をポーチに突っ込み、友呼びの笛を取り出した。


「あ、わたしが――」

「ぼくが――」


 声が重なり、わたしとフロイデさんは互いに譲るまいとにらみ合った。その時だった――


「おや!」


 突如フェアが大きな声を上げた。


 2人たちはもとより、ヴァールまでもがギョッと振り向く。


「どうかしました――ってあああっっ⁉」


 振り返った先ではなんと、リーベのスタッフが、燻し銀が、見るも無惨な姿で横たわっていた。珠は砕け、柄はへし折れ、もはやスタッフの体をなしていなかった。


「な、なんで――はっ!」


(そう言えばカナバミの破片が横切った時、いやな音がしていたような……) 


「そんな……わたしの燻し銀が」


 相棒を失った悲しみが、リーベのあらゆる喜びを貪っていった。 



ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると執筆の励みになりますのでよろしければ是非、お願い致します。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ