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冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第2章 旅立ちの時

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090 ウネルハガネ その①

歩き続けてどこまで行くの?


 風に尋ねられずとも疑問を抱き始めた時、リーベたちは異変を捉えた。


 西を目指して延びる街道。その脇にぽっかりと、直径1メートルほどの穴が現れたのだ。


「なにこれ?」


 リーベはヴァールの前に歩み出てその中をのぞき込もうとした。チラリと、それが底が見えないほどに深い大穴であると知れた時、襟首を引っ張られた。


「おげっ――げほげほっ! い、いきなり何するの!」


 ()せながらヴァールを睨むも、睨み返されてしまう。


「それはこっちの台詞だ! 何の用心もしないで魔物の掘った穴を覗くヤツがあるか!」


(……確かに、今の不用心だったな)


「……ご、ごめんなさい」

「たく、怪我してからじゃ遅いんだからな」

「はい……」


 項垂れているとフェアが「失敗は誰にでもありますよ」と励ましてくれた。その傍らでフロイデが首を傾げる。


「カナバミの巣?」

「ううむ。巣穴ではないな」


 ヴァールはチラリと、解説を求めるようにフェアを見る。すると彼はこほんと喉を鳴らし、大好きなスライムの生態を滔々(とうとう)と語り始めた。


「カナバミスライムは地中深くに生息し、金属を食しながら潜行していると考えられています。まあ、それは目撃例が山の麓など、高地との境に集中している事実からの推測でしかありませんがね」

「へえ……」


 リーベとフロイデの声が重なった。


「じゃあじゃあ、山を掘ってたらたまたま外に出ちゃったってことですか?」

「その可能性が高いでしょう」

「でも、また潜った。どうする、の?」

「そうですね……。――当座の危機は去りましたし、如何いたしましょうか」


 問われたヴァールは深く唸る。


「ぬう……ギルドに報告するのが妥当だろうな――」

「倒そうよ!」


 言葉を遮って進言すると「どうしてだ?」と視線を向けられる。


「ロイドさんたちを傷つけた魔物を放置するなんて、絶対にしたくない! それに、強い魔物が倒されずにいるなんて、サンチク村の人が知ったら怖がっちゃうよ!」


 するとヴァールは逡巡するように瞑目し、それから相棒と弟子に目配せする。


「倒そう……!」


 フロイデが賛同すると、フェアは「2人がこう言っていることですし」と言葉を添えてた。それを受けてヴァールは決心し、弟子たちに呼び掛ける。


「うし、やるぞ!」

「やった!」


 喜びを感じたのも一瞬、リーベは根本的な問題に思い至った。


「あ……でも、カナバミは潜っちゃったよ?」


 するとフロイデが短い声を上げ、ヴァールの方を見た。しかし答えたのはフェアだった。


「報告によると、カナバミが潜ったら、穴の中に氷を落とすと良いそうです」

「こおり?」


 年少者2人が揃って首を傾げると、フェアは楽しそうに続ける。


「硬くて冷たいものが体に触れると、それを金属だと勘違いするようで。だからその性質を利用するんです」

「なるほど……」

「つーことだから、ちょっと離れるぞ」


 ヴァールの指示に従って穴から20メートルほど離れると、フェアがロッドを構えながら言う。


「今からカナバミを誘い出します。準備はよろしいですか?」

「おう」

「うん」

「は、はい……!」


 3人の了解を得た彼は「では、参ります!」とロッドを掲げた。


 するとロッドの先端で珠が仄白(ほのじろ)くきらめき、その上空に一抱えほどの大きさの氷を生み出す。そして「アイス!」の掛け声と共に穴の中に放り込んだ。


 穴は相当に深いようで、氷が砕ける音はなかなか聞こえてこない。穴の途中で支えてたりしないだろうかと疑ってい始めたその時、フェアが第2陣を投入する。


「アイス!」


 …………………………………………パキン……


「あ、いま砕けた音が」

「穴が浅くなっている証拠ですね」

「つまり奴さんが上がってきてるってことだ」


 ヴァールの言葉に緊張が走る。リーベは鼓動が早まり、喉が渇くのを感じた。それをどうにかしようにも、余計に焦ってしまう。


「う、うう……」


 するとツンツンと、肩をつつかれた。振り返った先にはフロイデが頷く。


「ぼくたちも、一緒」

「フロイデさん……」

「そうだ。さっきも言ったとおり、これはお前1人の戦いじゃねえんだ。だからお前1人で緊張を背負うのは道理じゃねえ。……そうだろ?」


 ヴァールがいつになく優しい笑みを浮かべたその時、穴の中からギラリときらめく物体が頭を覗かせた。


「来ます!」


 フェアが警告した途端、それは吹きこぼれるように穴から這い出てきた。


 溶けかけたアイスクリームのような形状のそれは、小屋ほどの大きさがあり、全身を白銀に染めていた。比喩ではなく液状の金属であるがしかし、熱くはなく、むしろ光沢のせいで冷たい印象を受けた。


「これが、カナバミスライム……」


(この魔物がロイドさんたちを……許せない!)


 怒りを募らせていたリーベだが、カナバミがびくんと体を波打たせ、迫ってきた途端、気勢を削がれてしまった。しかしフロイデが「いくよ、リーベちゃん……!」と発破をかけてくれたおかげで気力を取り戻した。


(こんな魔物に負けてたまるか!) 


 リーベは腹の底に力を込め、声を張り上げる。


「はいっ!」 

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