表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険姫リーベ 〜とある少女が英雄になるまで〜  作者: 森丘どんぐり
第2章 旅立ちの時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/184

077 セロン村でのひととき

妻が早めの夕食を用意してくれている間、冒険者たちは――と言うよりもリーベは、20年前の事件について、村長の話を聞くことになった。


「当時最南の集落だったシュバ村にある冒険者が派遣されていたんだ。彼は魔物の様子がおかしいことをいち早く察して、あの笛を使ってギルドにそれを伝えたんだ。それからはすさまじくて、ソキウスが何体もやって来て、南の集落から人や物を乗せて避難してきたり、魔法使いがあの壁を作ったりな」


村長はリーベの顔を見つめながらも、落ちくぼんだ瞳は遙か遠い過去を見つめているように呆然としていた。


「壁が出来てからワシらもテルドルに避難したんだが、そこで初めてエルガーくんに会った。他の連中が報酬の話をしたり、怯えたりする中、彼らだけは違った。深刻な顔をして、ワシらを哀れみ、助けようという気概が見せていた。彼らが英雄となったのは単に強いからじゃない。人を思いやる清らかな心を持っていたからだとワシは思ってる」

「村長さん……」


 身内を誉めちぎられて抱いたのは羞恥ではなく憧れだった。


 テルドルの人々の希望になるべく冒険者という道を選んだリーベにとって、村長に希望を与えた父の在り方は、素直に見習うべきものなのであった。


 村長の言葉を心の辞書に書き留めるつもりで反芻(はんすう)していると、妻がやって来た。その手にはトレイがあり、そこに載せられた器からは温かな香りが立ち上っている。その芳香に今まで忘れていた食欲が呼び覚まされ、お腹が盛大になる。


「ふふ、沢山ありますからね」

「~~っ!」


 リーベは恥ずかしさの余り深く項垂れたがしかし、お腹はしばらく鳴り止んでくれなかった。







早めの夕食を終えると、冒険者一行は貸屋に案内された。


「こんな辺境の村だから普通は宿屋なんてものはないけど、うちには時々学者が来るんだ。だからこうして一軒、拵えさせたんだ」

「へえ。学者って、20年前のことを調べるためにですか?」


 リーベが問うと、村長は頷いた。


「事件の原因がなんだったのか。また起こったりはしないかを調べるためにな」


 その話を聞いたとき、リーベは以前、父に見せてもらった黄金色の鱗を思い出す。遙か南のグラ・ジオール山で発見されたそれが事件の根幹に関わっていることは明白であったため口走りそうになったが、厳重に口止めをされていたお陰で口を滑らせずに済んだ。


「…………」

「リーベちゃん?」

「あ、すみませんボーッとしちゃってました」


 すると村長はシワシワの唇を大きく開いて笑った。


「ははは! ハイベックスと戦ってきたばかりなんだし、それもそうだろうな。(あば)ら屋だが、今日はここで休んでいっておくれ」

「ありがとうございます」

「後のことは他のヤツから聞くといい。それじゃあの」


 ヴァールに鍵を預けると村長は自宅に引き返していった。


「んじゃ、寝るか」


 ガチャガチャと解錠すると身を屈めて室内に入っていった。それにリーベたちも続く。


 村長は(あば)ら屋だと言っていたが、それは謙遜だった。内装はシンプルでありながら手入れが行き届いており、なんなら村長宅よりも綺麗な印象を受けた。


 内装を観察するリーベを他所に、ヴァールは壁際に大剣を寝かせ、奥のドアへと向っていく。 ドアの向こうは広間になっており、ベッドが6台並んでおかれていた。


「今日は全員同じ部屋だぞ」

「わかったよ」

「あと、村の東に共同浴場があるから。この時間は誰も使ってねえだろうし、今のうち入ってきちまえ」


 ヴァールは荷物を置きながら紅一点であるリーベに言う。


(こんな辺境の集落にもお風呂があるなんて、なんて素敵なんだろう! 魔法ばんざい!)





入浴を終えたリーベはヴァールたちと交代する形で貸屋に戻って来た。

 ぽかぽかと温まった体は弛緩(しかん)し、眠気がしてくる。しかし、先輩であるみんなより先にベッドに入るわけにはいかない。そんな殊勝(しゅしょう)な心掛けの下、食堂で待機していたが、その誘惑には抗い切れなかった。


 寝室へ移動し、硬いベッドに身を横たえる。疲労のお陰か、質素な寝床でもまるで自宅のそれであるかのように心地よく感じられた。


 今は夕方であり、鎧戸の隙間からは赤らんだ陽光が斜めに差してくる。こんな時間にベッドで横になって良いなんて、なんて贅沢なんだろうと感動した。だがその分明日が早いんだと思い至り、気が重くなった。


 だがそんな感慨も全ては眠気が紛らしてくれて、リーベは気持ちよくなった。この分だと、ヴァールの手を借りずとも眠れるだろう。そんな推測を裏付けるように視界が霞み、全身を甘い痺れが包む。


 その感覚に身を委ねていると、ふとまぶたの裏に両親の顔が浮かんだ。その表情は娘を送り出した時から変わらず笑顔だった。だが、それが不安を押し隠した結果であるのは、娘である彼女にとっては一目瞭然であり、申し訳なく思わずにはいられなかった。


 しかし、無事に任務を果たした今となっては、その笑顔を本物に出来るという確信もあり、リーベは嬉しくなった。


(……待っててね、お父さん、お母さん。もうすぐ帰るから)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ