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冒険姫リーベ 〜とある少女が英雄になるまで〜  作者: 森丘どんぐり
第2章 旅立ちの時

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070 セロン村にて

 セロン村に着くや、何処からともなく杖を突いた老人がやって来た。線の細さに対し、瞳には覇気が宿っていて、リーベは見かけに対して若々しい印象を受けた。そんな老人はヴァール見るや、苦笑に口角を吊り上げる。


「またお前たちか」

「また俺たちだ」


 そんなフランクなやり取りが繰り広げられる中、フェアが眉尻を下げて言う。


「今回はハイベックスが出たと伺ってきたのですが――」

「ツイてない」


 フロイデがぼそりと言うと老人は深い溜め息をついた。


「ああ。踏んだり蹴ったりてのはこのことだ。まあ立ち話もなんだし、うちに――」


 言いかけたところでリーベと目が合い、落ちくぼんだ目が不思議そうに歪む。


「その格好……お嬢ちゃん、まさかお前も冒険者なのか?」

「はい。リーベ・エーアステと言います。よろしくお願いします」


 名前を告げると彼はあんぐりとして、ヴァールたちを見ていた。


「リーベってまさか、エルガーくんの……」

「そうだ」


 すると老人はまじまじと彼女を見つめて、それから付近にいた壮齢(そうれい)の男性に「エルガーくんの娘が来たぞ!」と呼び掛けた。


 それからがすさまじかった。


 まるで光が鏡の道を反射していくかのように情報が素速く伝達され、たちまち群衆が出来上がる。彼らの瞳は好奇心と、何より希望感に満ちており、それはリーベに増長とは違う健全な昂揚をもたらした。


「まさかあの人の娘が冒険者になるなんてな」

「ええ。新しい英雄の誕生ね」


……とは言え、実績なしで賞賛されるのはきまりが悪く、何より照れくさい。リーベは乾いた笑いを浮かべながら頬をポリポリと掻くより他になかった。



 建物へ向かう道中、老人は自分が村長だと明かした。


 老人改め、村長は冒険者たちを自宅に招くと、入ってすぐの卓に着くよう促した。それに従い着席すると、程なくして村長の妻がお茶を運んでくる。


「ありがとうございます」

「エルガーさんの娘さんが来たというのに、こんなものしかお出し出来なくてもうしわけありませんね」

「い、いえ、お構いなく……」

「ところで、エルガーさんはお元気ですか」


 着席しながら妻が問う。


「はい。元気過ぎて困っちゃうくらいに」

「ほほ、そうですか」


 妻が目元に皺を刻んで柔和な笑みを浮かべる傍ら、村長は言う。


「リーベちゃんにはいろいろ話したいことはあるが、ひとまずは仕事の話をしよう」


 机に両肘を突き、指を組み合わせて橋を架けた。


「20年前まではここより南に村がいくつかあったんだがな、今はそれもなくなっちまった。また魔物が襲ってくるかもしれん場所には住めないからだ。お陰で自然の一部になったそこはワシらの狩り場でもあるんだ」


 でもな、と溜め息をつく。


「1週間くらい前、ここから南東に向けて半日くらい歩いたところに山があってな、その麓にハイベックスの群れが(たむろ)しだしたんだ」


 それを耳にしたとき、リーベはほんの些細な、しかし無視しがたい疑問を抱いてしまい、思わず挙手してしまった。


「どうかしたかの?」

「あの、ここって狩りをしている村だって聞いたんですけれども、村の人たちでなんとかできなかったんですか?」


 この問い掛けを受け、老夫婦はきょとんとして、継いで笑った。その様子を不思議に思っていると、彼女のこめかみに鈍痛が走る。ヴァールがデコピンを食らわせたのだ。


「痛っ! おじさんったら、急に何すんの」

「ばーか! ここの連中でどうしようもねえから冒険者に頼ってんだよ」

「あ……確かに」

「あのな……」


 ヴァールが頭を抱える傍ら、フェアとフロイデはそれぞれ笑っていた。


「ははは!」


村長は唾を散らしながら笑うと、指で架けた橋を崩した。


「狩りとは戦うことではない。罠や弓で敵の不意を突き、確実に獲物を仕留めることだ。だから警戒心の高いヤツらに群れていられると手出しが出来ないんだ」


 その教えにフェアが続く。


「一方で私たち冒険者はより直接的な方法で害敵に対処します。この点が両者の違いになりますので、よく覚えておいてくださいね」

「なるほど……狩りと戦いって別物なんですね」

「牛乳とクリームくらい違う……!」


 フロイデの例えが的確なのかはさておき、確かに全く別物であるのはわかった。


「う……すみません」


 羞恥に駆られながら謝ると村長は鷹揚に笑った。


「素直でよいよい! 全く、エルガーくんが自慢したくなるのも当然だな」

「ホントですね」


 老夫婦の笑い声を耳にしながらも、リーベは思った。


(もしかしたらお父さん、他所様に自慢して回っていたんじゃ……)


 そう思った途端、彼女の羞恥は一層のものになるのだった。 


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