063 依頼達成!
冒険者ギルド・テルドル支部の屋内では男性の声が幾重にも重なり、音の塊になって響いている。そんな環境下では女性特有の高い声がよく通った。
「あ、リーベちゃん。お帰りなさい」
受付嬢のサリーは安堵に頬を緩め、手を振りながらリーベを出迎えてくれた。
「ただいまです」
「無事でよかった~。もお、リーベちゃんのことが心配であまり眠れなかったんだよ」
そう口にしながらサリーは両手を差し出す。それをリーベはそっと握り返し、手を取り合う形になった。すると手指の繊細な感触と共に温もりが、思いが、じんと伝わってくる。
「ごめんなさい。実は昨日帰ってきてたんですよ」
「そうなの?」
「はい。でも遅かったから、報告は明日でーってなっちゃって」
「そうだったんだ。まあ、無事でいてくれたのならそれでいいよ」
話が一段落ついたところで、隣で今まで口を噤んでいたヴァールが「もういいか?」と口を挟む。するとサリーさんは目を丸くして驚いた。
「あ、ヴァールさん。いらしてたんですね」
「気付いてなかったのかよ!」
「はは……リーベちゃんのことでいっぱいで……」
苦笑しつつ、彼女は仕事モードへと切り替えた。
「それより、依頼達成のご報告ですね?」
言いながら、サリーはとある用紙を取り出す。
「……ああそうだ」
「ではこちらに当時の状況や、懸念点について、ご記入ください」
「あいよ」
ヴァールはその手には小さすぎるペンを、切り絵でもするみたいに立てて持つと、カリカリと、角張った筆圧の濃い文字を紙面に刻んでいく。
『馬車で逃げる村民捕まえようとした結果、ミルク缶を誤飲。消化しきれず吐き戻す。その後、イノシシを捕食した形跡あり。他の魔物を刺激した形跡は認められず。よってライル村は安全であると考える。』
彼らしからぬ堅苦しい文言に驚かされるが、確かに、報告書ならこういう文体になるだろうとリーベは納得した。それでも違和感が胸に残る中、ヴァールは署名をして書類を提出した。
「確認します――ありがとうございます。それでは、報酬金のお支払いとなります」
サリーはカウンターの奥から金属製のトレイを持ってきた。その上には金貨と銀貨と銅貨――すなわちお金が積まれており、その魅惑的な煌めきにリーベの胸が高鳴る。
「こんなに沢山……!」
依頼書でその金額を確認していたものの、いざ目の前にするとやっぱり違った。感動していると、サリーがくすりと笑んで解説してくれる。
「ラソラナは危険な相手ですからね。相応の報酬を積まないと、色々と障りがあるんですよ」
「そういうこった。さ、とっとと数えちまおうぜ」
「う、うん……!」
2人で金額を検めると、ヴァールが領収書に署名をして、手続きは――今回の依頼は完全に終了となった。
「お疲れ様でした。皆さんのさらなるご活躍を期待しております」
サリーに見送られながら受付を後にし、依頼書を眺めていたフェアとフロイデの下へと向う。
「おや、終わりましたか」
「ああ」
ヴァールがジャラリと、報酬金の入った革袋を見せつけると、フェアに手渡した。
「フェアさんにも確認してもらうの?」
尋ねると、ヴァールに変わってフロイデが答える。
「お金はフェアが管理してる」
「そうなんですか」
(まあ確かに、この3人の中なら、フェアさんが1番だろうな)
納得していると、不満げな視線が2方から集まる。
「なんか失礼なこと考えてるだろ?」
「ルーズなのはヴァールだけ……!」
「お前も大概だろ!」
「認めちゃってるじゃん……」
苦笑していると、高みの見物をしていたフェアが笑う。
「ふふ。ケンカも程々にして、そろそろ解散しませんか?」
「あれ? 今日はもう終わりなんですか」
「ええ。皆、疲れが溜まっていますからね」
(休みなら食堂の手伝いをしようかな)
そう考えていると、透かさずヴァールが言う。
「……そうだな。リーベ。食堂を手伝ったりしねーで、部屋で大人しくしてろよ?」
「わ、わかったよ……」
「んじゃ、帰るか」
その言葉に従い、リーベたちはギルドを出た。
すると向こうから、厳めしい出で立ちをした3人の冒険者がやって来た。
先頭を歩くのは立派な口ひげと、もみの木のようなな長髪を湛えた、海賊の頭領みたいな男性だ。その背後には続くは前歯の欠けた偉丈夫と、スキンヘッドの男性がいる。彼らは揃って悪者らしい顔立ちをしていたが、リーベを見るや、相好を崩して親しげに手を上げた。
「やあリーベちゃん。おかえり」
海賊みたいな人――ロイドが男性らしい威厳ある声で言うと、ボリスとバートも続いた。
「ただいまです」
「今帰ってきたのかい?」
「いえ。昨日帰ってきて、今は報告を終えてきたところなんです」
「そうなんだ。初仕事はどうだった?」
「脚が痛くて痛くて、大変でした」
「ははは! 確かに、冒険者の仕事の9割は移動だからね!」
ロイドが笑う脇でボリスが言葉を継ぐ。
「でも無事でよかったぞ。エルガーさんほどじゃねえけど、俺たちも心配だったんだ」
「ああ。ボリスなんてリーベちゃんの顔見るまでは仕事に出ないってゴネてたからね」
バートが笑って言うと、彼は顔を赤くして反論する。
「お前もそうだったろ!」
2人が言い合う中、リーベの隣ではフロイデがあんぐりとしていた。
「……見かけに、よらない」
ぼそりと呟くと、ヴァールが笑う。
「まったく、物騒な面しておきながら、妙な連中だな」
「ふふ、皆さんはこれから依頼を受けるのですか?」
フェアが問うと、ロイドが答える。
「はい。いい加減、仕事しなきゃいけませんからね」
「そうですか。今見た限りだと、中々の依頼が揃ってましたので、お気を付けて」
「わかりました。それじゃ、俺たちはこれで」
去り際、ロイドは「お互い頑張ろうね」と拳を出した。他の2人も。
「はい、頑張りましょう!」
リーベは3人と拳をぶつけ合うと、ギルドに入っていくのを見送った。
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