048 両親への報告
「いただきます!」
言い終わるや、リーベはラタトゥイユに飛びつく。
トマトの酸味とナスのほくほくとした食感とが調和し、とても野菜料理とは思えない満足感があった。母の手料理なのだから当然と思う一方で、今晩は一段と美味しく感じる。
「はあ……おいし…………」
一瞬、訳を考えたが、干し肉とビスケット、そしてフェア手製の劇薬によって口内が蹂躙された結果、反動で美味しさが倍増しているのだと悟る。
同時に携行食への不満が膨らみ、気付けば愚痴っぽく父に問い掛けていた。
「ねえ、携行食って、もうちょっと、どうにかならないのかな?」
「俺が若い頃から味が変わらねえんだ。一生変わらねえだろうよ」
「そんな……」
がっくりと項垂れるとシェーンがくすりと笑う。
「ふふ。でもその分、お夕飯を美味しく頂けるのだから、それでいいんじゃないの?」
「むう……わたしはどっちも美味しく食べたいの!」
子供みたいに剥れて見せると両親は笑った。
「あらあら」
「はは! リーベは贅沢だな!」
その笑みが嬉しくて、彼女もまた笑った。
食堂の仕事を離れ、両親とは生活サイクルを異にしたリーベだが、それでも朝晩は一緒に食事をするべきだと思い、帰ってきてから今まで何も口にしないでいた。空腹を堪えるのは大変だったが、それでも我慢して良かったと思える。
(やっぱりご飯は家族みんなで食べないとね♪)
食器を片付け終わった時、入浴を終えた両親が帰ってきた。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい」
リーベが流しを掃除しながら呼び掛けると、シェーンが厨房を覗き込んでくる。入浴を終えたばかりの肌は血色が良く、潤っていた。
「ごめんなさいね。あなたは休まないといけないのに」
「いいのいいの。これくらいやらせてよ」
「訓練の疲れもあるだろうし、無理にやることはねえんだぞ?」
エルガーが心配する。
「ありがと。でもさっき仮眠とったから大丈夫だよ」
「そうか? なら良いんだが」
そう言い残して父が背を向けたとき、リーベは大事なことを思い出した。
「あ、そうだ。ねえ、聞いて」
その改まった物言いに両親は悟り、心配そうに歪んだ目を娘へ向ける。
「あのね、わたし明日、おじさんたちと依頼を受けに行くの」
「……依頼って…………リーベは冒険者になったばかりじゃない。大丈夫? 自分の身は守れるの?」
「大丈夫。攻撃魔法は覚えたし、フェアさんに太鼓判も捺してもらったんだから」
気丈に言って聞かせるも、両親の顔からは不安の色が拭えないでいた。
一方で両親の心配を受けるリーベは、その感情が如何に尊く素晴らしい物なのか痛感させられた。だがそれで両親が苦しむのは良くない。気休めでもいいから、今はどうにか両親を安心させてあげなければならない。
「それにね、おじさん言ってたよ。相手にするのはそこまで強い魔物じゃないって」
「……そう、なのね」
今にも消え入りそうな母の答えにリーベは胸が締め付けられる思いだった。
これ以上、どんな言葉を用いれば良いのかわからないでいると、エルガーが妻を慰めるように言葉を添えてくれる。
「大丈夫だ。ヴァールもフェアも、それにフロイデも。みんな優秀なヤツだ。そんな連中と一緒にいるんだから、億が一にもケガはしねえさ」
元冒険者のエルガーがこんな希望に満ちた言葉を使うわけはない。
それは無論、妻子も理解している。
だからこそ、シェーンは夫の気持ちに応えるように健気な笑みを浮かべて、娘に言う。
「ヴァールさんたちの言うことをよく聞いて、危ない真似は絶対しないこと。いいわね?」
「……うん…………!」




