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冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第1章 英雄の娘、冒険に出る

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044 指導者の務め

「うう……」


 劇薬に痙攣(けいれん)する腹を宥めながら坂を上っていく。昨日は体力的にきつかったが、今日はそれに加えて吐き気を伴っているのだ。苦行なんてものじゃない。


「大丈、夫……?」


 心配の言葉を掛けてくれたフロイデだが、彼は我が事のように青い顔をしていた。


「だ、だいじょう――うっぷ……」


(ダメだ。口を開いたら、胃の中のものが逆流してきそう……)


 吐き気を堪えているといつの間にかテルドルに帰り着き、東門の前の十字路までやって来ていた。

 このまま真っ直ぐ進めば食堂エーアステがあり、北側に折れればヴァールたちが宿泊している宿屋がある。


 つまりここでお別れだ。


 リーベの前を歩いていたヴァールは脚を止め、振り返る。


「んじゃ、今日はここで解散だな」

「あ、うん。わたしの訓練に付き合わせちゃってごめんなさい」

「それも含めて俺たちの仕事だ――なあ?」


 ヴァールは仲間2人に呼び掛ける。


「もちろんです」

「う、うん。ぼくも最初はそうだった、よ……?」

「そうなんですか?」


(フロイデさんはあんなに剣が上手なのに?)


 不思議に思っているとヴァールが教えてくれた。


「コイツは冒険者学校を出てるから基礎は出来てたんだ。だがそれでも実際、どのくらい動けるか知っとかねえとなんねえだろ? 前衛は特に」

「なるほど……」

「それよか、リーベの具合はどうなんだ?」


彼は相棒の魔法使いに問い掛ける。


「順調ですよ。メガ・ファイアも修得しましたし、この分だとあと1日あれば十分でしょう」 


 そう答えるとフェアはにっこりとリーベに笑んで見せた。


 誇らしいが、ちょっぴり気恥ずかしい。彼女は手をもみ合わせながら笑って誤魔化した。


「フェアがそこまで言うんなら問題ねえな。んじゃ、明日も頑張れよ」


 ヴァールはそう言うと、グローブをはめたままの手で頭を撫でた。


「ああ! グローブ付けたまま触らないでよ!」

「はは! 汗まみれなんだし、大して変わんねえだろ?」


(まったく、おじさんったら! ああ言えばこう言うんだから!)


「そんじゃ、今度こそ解散な」


 例え怒っていても、別れを切り出されれば寂しさが勝ってしまうもので、リーベはモヤモヤとした心持ちのまま、それに応じる。


「あ、うん……また明日」

「お疲れ様でした」

「バイバイ」


 口々に別れの言葉を述べると3人は十字路を北側へ折れ、宿へと帰って行った。その身長差の激しい背中を見送ると、リーベは自分の家のある西側へと歩き出す。


 夕焼けに染まる街並を見ていると、やはりというべきか、人通りが少ないのが気に掛かる。


 スーザンの1件から半月ほどが経っているのもあり、当時よりかは通行量が増えているのだが、ここテルドルで生まれ育った彼女の目にはやはり寂れて見えてしまう。


 ヴァールたちとの別れを寂しく思っていた事も合わさって、リーベはなんだか切ない思いでいっぱいになった。


 そんな彼女を励ますように、前方から談笑する声が聞こえて来た。


 見るとそこにはリーベたち家族が営む食堂エーアステがあり、開放された窓から美味しそうな匂いと共に賑やかな響きが届いていたのだ。


「あ……」


(そういえば、もうディナーの時間か)


「…………」


(お母さんはともかく、お父さんは一人でちゃんとホールを回せているのかな?)


 リーベは途端に心配になってきて、こっそりと窓から店内を覗き込んだ。


 店外に待機の列が出来ていなかったことからも察せられたが、僅かに空席があった。だがそんなことは、客たちが幸せそうに食事をしていることの前では些細な問題だろう。


 それはそうと、リーベは父の姿を探す――と、ちょうどカウンターから料理を運んでやってきた。


「へいお待ち!」


 快活な言葉と共に料理を提供すると、そのまま接客の基本に沿ったセリフを口にする。


「注文の品は揃ったか? ――ゆっくりしてってくれ」


 父エルガーは相変わらず敬語が苦手なようで……客たちが寛容にしてくれているからいいものの、やはり改善するべきだろう。

 そんな考えを巡らせていると、当人と目が合った。


「リーベ? 何で隠れてんだ?」

「あ、ううん。お父さんがちゃんと働けてるかなって」


 正直なところを言うと彼は口角を上げて笑った。


「はは! 娘に心配されるようじゃ、俺もまだまだだな!」


 そんな会話をしつつ店内に入ると父は「おかえり」と微笑んだ。それに続いて客たちからも「おかえり」の声が上がる。


 寂れてしまったように見えたこの街には、今も変わらぬ温もりがある。そのことを思い出すと、リーベは温かい気持ちになるのだった。


「……ただいま」

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