043 ゲテモノドリンク押しつけてくる系男子
それからリーベは何度も何度も魔法を撃ち込んだ。そのお陰でメガ・ファイアのコツを掴めた気がした。
何事もわかり掛けてきた時に熱が入るもので、彼女は一層訓練にのめり込んでいくが、待ったが掛かる。口惜しい思いで振り返ると、フェアは「昼食にしましょう」と言った。
「はーい……」
小屋まで歩こうとしたが、体が妙に気怠い。
(風邪でも引いたのかな?)
「魔力を消耗すると体が重くなるのです」
フェアはそう説明した。
「そ、そうなんですね……わたし、こんなに魔法を使ったの初めてで……ふう」
「日常の中で魔力を消耗する機会など、そう多くありませんからね」
そんなこんなで小屋に辿り着いた。
室内には汗だくのヴァールとフロイデがいて、彼らはフェアの顔を見るなり水筒を差し向けてくる。
「はいはい」
フェアさんは親指と人差し指の2カ所から水を出して給水する。その器用さに唖然としつつ、けだるさに溜め息をついた。
「これをどうぞ」
給水を終えたフェアから手渡されたのは手の平サイズのビンだった。茶色く染色されたもので、薬品っぽさにリーベは顔を顰めた。
「うげ……薬ですか?」
「ええ。それはマジカルリーフ成分をスライムゼリーの水割りで抽出したものです。この効能は魔力回復に留まらず――」
フェアは薬の効能を滔々と語り始めた。弁舌に熱が入っていく中、ヴァールが苦々しげに言う。
「フェアは薬作んのが趣味なんだよ……」
「……全部苦い…………」
フロイデが続くと2人は揃って青ざめた。
「そういえば……」
(昔、お父さんが『フェアの作る薬は拷問級だ』と言っていたっけ……)
小瓶に視線を戻すと、内部にはねっとりとしたおどろおどろしい液体が見えた。
「うへえ……」
「観念して飲め」
そう口にしたヴァールの隣では、フロイデが憐憫を滲ませて瞑目していた。
それを受けてリーベは観念し、なるべく薬を見ないようにしながらも栓を外す。「きゅぽ」という小気味好い音がやけに不気味に感じられた。
「うう……」
ほんのりと鼻腔を突く青い匂いに嘔吐きそうになる。こんなもの、とても飲めそうにないが、拒むことは許されないのだ。
「…………」
(ええい、ままよ!)
「ぐびぐび……」
どろりとした液体が舌を這い、喉を目指す。それはまるで、口内をスライムに蹂躙されているかのようで、背筋がぞわっとした。肝心の味はというと、これまた酷い。ただ苦いだけならまだ良かっただろうに、この薬は微妙に甘いのだ。たとえるならピーマンのペーストを少量の蜂蜜で伸ばしたような、そんな味だ。
これを飲み干すにはかなりの苦労を強いられた。
「うぐ……おえええ!」
口下を拭っていると、熱弁を終えたフェアが笑顔で言う。
「ビンの内側に残った分は水で溶かして飲むと良いでしょう」
リーベは今日、この瞬間ほど彼の笑みが恐ろしいと思った事はなかった。
「メガ・ファイア!」
人の頭ほどに育てた光の球を放つ。それはゆっくりと一直線に的を目指し、その右半分に衝突し破裂音を轟かせる。衝撃はまるで波紋のように空中を駆け、周囲の樹冠と、リーベのポニーテールを震わせる。
肝心の的はと言うと、命中した箇所が赤熱しており、魔法が成功したことを示していた。
「ふう……やった…………!」
命中率が上がったのもそうだが、何より確実に『メガ・ファイア』を放てるようになったことが嬉しい。これなら例え、今魔物が襲ってきても十分に対応できるだろう。
そんな自己分析に賛同するようにフェアが手を鳴らす。
「たった1日でメガ・ファイアを修得するとは。さすがです」
「ありがとうございます! あの、わたしの魔法は魔物に通用しますか!」
「ええ。相手によりますが、概ね通用するでしょう」
本職の人に太鼓判を捺してもらえて、自信がより確かなものになっていくのを実感した。
「じゃあ、これからはアイスフィストの特訓ですね!」
「はい――ですが、それは明日にしましょう」
その言葉を耳にした途端、視界が広がり、赤焼けの空が目に映った。
「あ、もうこんな時間……」
「時間もそうですし、魔力も限界でしょう」
言われてみれば確かに、例のけだるさが――
ぞわわ……っ!
悪寒が走った直後、フェアは笑顔で小瓶を取出した。
「ひいっ⁉」
「さあ、明日に備えてお飲みください」
「……………………はい」




