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冒険姫リーベ 〜とある少女が英雄になるまで〜  作者: 森丘どんぐり
第1章 英雄の娘、冒険に出る

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037 魔法の基礎

 10分ほどの休憩を終えると、リーベは早速指導が始まった。


「冒険者における魔法使いの役割とは、なんだと思いますか?」

「ええと……魔物を倒すことです」

「いいえ。違います」


 意外な言葉を耳にした途端、自然と疑問が口に上った。


「だって、おっきい炎を出したり、氷を打つけたり出来るんですから、その方が早いんじゃないんですか?」


 思うままに言うと彼は満足そうに笑んだ。


「そう思うでしょう。しかし実際は違うんです」


 例えば、と手で器を作った。


「ここにお金が山ほどあるとします。これはリーベさんの自由に使えるお金です。このお金をあなたはどうしますか?」

「ええと……服を買ったり、美味しい物を食べたり――じゃなくて! 貯金します!」

「それは何故です?」

「使ったらなくなっちゃうから……本当に必要な時に困るからです」

「では、お金を魔力だと思ってください」


 その言葉を聞いたとき、リーベは自身の魔力量『361』を思い浮かべた。


「魔力は魔法として、火を起こしたり、水を生み出したり、はたまた害敵を倒したりと、無限の使い道があります。さて、あなたはこれをどうしますか?」

「温存します」


 お金の例もあった為、自然とその言葉が口に上った。


「そうです。魔法はその多様さ故に、その有無が命に直結するんです」

「なるほど……魔物を楽に倒そうとして魔力を減らしちゃったら、本当に必要な時に困っちゃいますもんね?」

「そのとおり。リーベさんも段々と分かってきましたね?」

「えへへ……」


 フェアは微笑むと続ける。


「魔法使いにおいて最も重要なのは、効率良く戦うことです。そのために必要なのは、剣士との連携です」


 彼は練習場の隅へ顔を向ける。


 視線を追うと、そこには相変わらず木剣を打ち合わせる2人の姿があった。


「剣士は魔物と戦い、魔法使いを護る。そして魔法使いは剣士を支える。これが最も効率的な戦い方です。それを実現するために私たちが培うべき素養は3つ」


 向き直ると、彼は手を翳し、人差し指を立てた。


「1つ目は制御技術。これがなくては始まりません」


中指を。


「2つ目は判断力。どんな状況で、どんな支援が必要か。それを迅速に、適切に見分けなければなりません」


 薬指を。


「そして3つ目。絆です」

「……きずな?」


 唐突に出てきた抽象的な言葉にリーベは戸惑うも、フェアは至って真面目だった。


「剣士の性格や技量、癖といったものを深く理解すること。これができなくては魔法使いの役割は果たせません」


最後の一言が彼の矜持(きょうじ)に火を点けたのか、彼の弁舌は一層熱心なものとなっていく。


(ひるがえ)って、如何に技術に優れようとも、知性に溢れていようとも。仲間と絆を紡げなければ優れた魔法使いとは言えません」


 フェアらしからぬ力強い主張だった。それだけに彼の主張は真実みを帯び、真実を超えた真理としてリーベの胸に深く刻まれるのだった。


「……絆」


 呟くと、彼ははにかんで言う。


「話が脱線しましたね。先に挙げた内、今のリーベさんが身に着けるべきは制御技術です。シェーンさんから魔法を教わっていると聞きますが、冒険者に求められるのはより高度なものです」

「うう……難しそう」

「心配には及びません。料理に活用できているということは、基礎ができているということですから」

「だと良いんですけど……」


 彼女が不安がる一方、彼は空を見上げていた。目線を追った先では太陽が南中しようとしていた。


「時間はたっぷりあります。それに明日も明後日もあるのですから。焦らず、着実に修得していきましょう」


 優しい言葉にリーベは励まされ、不安はそのまま、やる気となった。


「はい!」



 魔法使いの役割と当座の目的を理解したところで本格的な指導が始まった。


「杖の選定の時に体験したように、スタッフは仕手の魔力に敏感です。なのでまずは魔力を抑える訓練をしなければなりません。スタッフを出してください」

「はい」


 リーベはスタッフの柄を握り絞めると武器屋で暴発しかけたのを思い出し、微かに恐怖した。それを見かねてフェアが微笑む。


「失敗してもカバーしますので、どうぞご安心ください」

「は、はい……」


 頼もしいが、それでもやはり怖いもので。リーベは柄を握る手に力を込めた。


「それでは早速、訓練に移りましょう。スタッフにゆっくりと、ほんの少しずつ魔力を籠めてください」

「は、はい……むむむ!」


 魔力をゆっくり籠めたつもりが、思いのほか珠が煌めいてしまい、慌てて引っ込める。


「ふう……難しいです……」

「反復あるのみです。さあ、もう一度」

「はい……!」


 それから何十回か繰り返して、ようやくゆっくりと魔力を籠める事に成功した。


「で、できた!」


 淡い輝きに目を灼かれつつ感動を零すと、フェアさんが次なる指示を飛ばす。


「今度は減らしていってください」

「やってみます!」


 魔力を籠めるのに成功していたからか、はたまた魔力を弱める方が簡単だったのかは彼女には分かり兼ねるが、何れにせよ、師匠の指示を無事にこなせたのだった。


「ふう……できました」


 額を拭いながらフェアの方を見ると、彼は「重畳(ちょうじょう)です」と微笑んだ。


「これをあと10回やったら一度、休憩を挟みましょう」


 先の1回でコツが掴めたようで、苦労しつつも成功を重ねられた。


 この調子で感覚を焼き付けたいところだったが、休憩を挟まねばならない。リーベはそれが口惜しく思いつつも休息を始め。すると彼女は自分が自分で思っている以上に疲労していたことに気付く。肩に重くのし掛かるそれに喘ぐ。


「うう……なんか気怠い気がします」

「魔法を使うと気力を消費してしまいますからね。体もそうですが、何より頭を休めるようにしてください」

「わかりました……はあ」


 頭を空っぽにしようとする仲、ヴァールたちの声が聞こえて来た。


 物を考えないように。目と耳を、受け入れるままにして振り向くと、そこには汗だくになった剣士2人の姿があった。


「よう、そっちは順調か?」

「ええ。元々魔法が扱えるお陰で呑み込みが早いです」

「そうかそうか! そんならまたすぐに冒険に出られるな!」


 満足げに言うと彼女を見ると、ヴァールはその小さな目を丸くする。


「どうした? フロイデみたいにむっつりしやがって」


 彼の隣では当人が不服そうな顔をしていた。


「頭を休めてるの……」

「意識してたら却って疲れるんじゃねえの?」

「……確かに」


リーベが納得するとヴァールは小さく笑い、相棒に呼び掛ける。


「それよか、水入れてくれ」

「……ぼくも」


 そう言って2人はフェアに水筒を、口を開けた状態で差し出す。


 それに対し彼はせっかくのロッドを使うことなく、指先から魔法を――水を生み出した。

 熟練者は杖を必要としないというのはリーベは知っていたが、いざ目の当たりにすると感嘆させられた。


「すごい……」

「リーベさんもいずれは出来るようになりますよ」


(スタッフの扱いにさえ苦戦してるのに、そんな凄いことが出来るようになるのかな?)


 未熟という切実な現状に気圧されるも、『できない』と悲観することはなかった。


 今は出来ずとも、いずれ出来るようになればいいのだ。


 幸いにして、リーベはそれが許される環境にあるのだから。



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