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冒険姫リーベ 〜とある少女が英雄になるまで〜  作者: 森丘どんぐり
第1章 英雄の娘、冒険に出る

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020 地獄の遣い 前編

 20年前のテルドル防衛戦において、前哨(ぜんしょう)基地となった村がある。


 セロンというその村は、テルドルから南へ2日ほど歩いた場所に位置しており、その歴史から、この国の最南端の集落となっている。村の南には当時築かれた防壁が未だに残っており、『平和の壁』と呼ばれ、名所と化していた。だが壁1枚で村が潤うはずもなく、セロン村の人々は狩りと林業を生業としていた。


そんなこの村にとって、北側の街道はテルドルに通じる唯一の道であり、産業の(かなめ)であった。これが魔物に封鎖されてしまったとあっては、村が様々な方面で痛手を負うのは当然であり、迅速な対応が求められた。


 この依頼に応じたのはヴァールがリーダーを務めるクランであり、彼らは街道上に居座る魔物を探しながら南進していた。


「…………いない」


 テルドルを出て2日目。野営地を撤収して数時間は歩いているが、(くだん)の魔物は未だ発見できないでいた。道程も7割方消化しており、このままでは接敵する前にセロン村に着いてしまうかに思われた。

 とは言え、『街道上に魔物がいる』と報告が上がっている以上、それはありえないのだが。


「なあに。そう焦る必要はねえさ」


 呑気な言葉とは裏腹に、ヴァールは険しい目で辺りを見回していた。


 目的の魔物は街道上にいると言われているが、それ以外にも警戒すべきことがある。他の魔物と、獣たちだ。特に前者は初春頃から、第三級危険種(人間に対し攻撃的な魔物)に分類される魔物が増えているという事情もあり、街道を歩くだけでも危険なのだ。


 フロイデもヴァールを見習い辺りを見回すが、フェアに指摘される。


「あまり気を張っていると疲れるでしょう。フロイデはターゲットにだけ集中してください」

「大丈夫だ、よ?」


 冒険者学校を卒業して、冒険者になってから1年が経つ。それなりの経験も積んだし、体力も十分ついた。その自信が彼に反骨心を抱かせていた。


 フェアの言葉を無視し、キョロキョロと辺りを見回していると、ヴァールの大きな手がフロイデの華奢な肩を掴み、その場に固定した。


「っと……なに?」

「フェアの言うとおりだ。見ろ」


 鈍角的な顎で前方を指示す。


 フロイデが振り向くと、20メートルほど前方に大きな穴があった。内部はすり鉢状になっていて、小石の1つが転がっていくと、砂の粒子が砂時計のようにさらさらと流れていった。


「……気付かなかった」


 あのままでは穴に踏み込んでいただろう。そう実感すると、フロイデは恥ずかしくなって俯いた。そんな彼に、フェアが諭すように言う。


「周囲を警戒することも大切ですが、それで足下がお留守になってはいけません。器用さとは即ち余裕です。それは活動していく中で自然と身に付くモノなのですから、焦ってはなりませんよ?」

「…………ごめん」

「わかりゃ、いいんだ」


 ヴァールは打ち切るように言うと、フェアに指示を飛ばす。


(やっこ)さんがいるか、確かめてくれ」

「了解しました――アイス!」


 フェアはロッド(金属製で、棹状の魔法杖)を頭上に掲げると、直径1メートルほどの大きな氷塊を作った。それを穴に放り込んだ次の瞬間、地面からグワッと、1対の鋏角(きょうかく)がせり出してきた。それは太陽を(たた)えるかのように広がり――


 ガギンッ!


 甲高い音を響かせて氷塊を破砕する。そして氷の破片は周囲に飛散し、溶けて地面に吸い込まれていった。


「うわ……」


 フロイデが魔物の絶大な力に驚いていると、フェアが警告する。


「今回の相手は強力な鋏角と毒を持っています。ですので絶対に正面に立たないようにしてください」

「了解だ」


 ヴァールが即答すると、フェアはフロイデを見る。


「フロイデ。危険を感じたら無理せず、後退してください。いいですね?」

「……わかった」


 彼らは重荷となるリュックを捨て、身軽になる。それが開戦の合図となった。


「それでは――ガイア!」


 フェアはロッドの穂先を地面に突き立てた。直後、穴の中心から土の柱が飛び出す。その先端には大きなアリジゴクがいて、巣穴から放り出されたそれは、空中で1回転してビタンと叩き付けられるように着地した。


「…………」


 砂色の魔物を前に、フロイデは覚悟を迫られた。


 昆虫特有の大きな腹は、まだら模様で、紐で縛ったハムみたいにデコボコしている。それにトゲのような体毛を生やしていて、まるでサボテンだ。腹との間に小さな胸と頭を挟んで鋏角が伸びている。その長さは2メートルにも及び、先端の尖りとは別に3対のトゲがある。捕らえた獲物にここから毒を注入するのだ。


「これが……」

「ええ。これがミラージュフライの幼体……ヘルゲートです」

「ヘルゲート……」


 その名を呟くと狭い額に汗が滲み、喉が渇く。彼が唾をひねり出している中、ヴァールが低く、最後の確認をする。


「予定通りやるぞ。いいな?」

「はい」

「うん……!」

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