182 お魚天国
一同が会する食卓。そこには何時にも増して豪勢な食事が並んでいた。
主菜にコイのクリーム煮とフナのフライ。副菜にグリルコイのほぐし身サラダ。と、今晩は魚づくしだ。これに1番よろこんだのはもちろん、魚好きのフロイデで、彼はナイフとフォークを手に目を輝かせている。
「沢山ありますから、遠慮しないでどんどん食べてくださいね?」
「うん!」
無邪気に返事するなりフライに飛びついた。
一方、ヴァールは『言質を取った!』とばかりに不敵に笑むと、舌なめずりをした。
「おじさんは少しくらい遠慮してよね!」
「がはは! なあに、こんだけありゃ、お前らが食う分も少しは残るだろうよ!」
言うが早いか丸パンを頬張り、クリーム煮を掻き込んでいく。
「もお、少しは味わってよね?」
溜め息をつくとフェアが言う。
「しかし、この豊富なレパートリーはさすが、食堂の娘ですね」
「ふふ、ありがとうございます。沢山釣れたので、頑張っちゃいました! ああでも、お母さんならあと5品は出せたと――」
「おかわりっ!」「おかわり……!」
大小2人がスープ皿を手に、席を蹴って立ち上がる。
先に鍋の前に立ったのはヴァールで、零れそうな程にクリーム煮をよそっていく。
「よそりすぎ……!」
フロイデが抗議するも、ニヤリと笑って聞き入れない。
「へへ、俺はデカいんだから食わねえとな」
挑戦的な言葉に対し、フロイデは不満を滲ませる。
「ぼくだって、これから大きくなるんだから」
「ほんとうかあ~?」
「むう……!」
2人がにらみ合う様を眺めているとリーベの腹が鳴った。
「あ、わたしたちも早く食べないと!」
恥ずかしくって声が上擦る。
ヴァールに聞かれなくて良かったと安堵していると、その隣でフェアが笑った。
「ふふ。せっかくのお料理が冷めてしまってはいけませんし、いただきましょうか」
「そ、そうですね――じゃあ、いただきます」
我ながら会心の出来だ、とリーベは思った。
冒険者になって一月半。
料理が下手になっていないかと不安だったが、杞憂だった。
「ふう……ごちそうさまでしたっと」
リーベは満腹で、さすがに作り過ぎちゃったかなと思いながら周囲を見回す。
フェアは優雅に口下を拭っていて、ヴァールはシーシーいいながら楊子で歯を掃除している。
そしてフロイデはというと、名残惜しそうにスープ皿にパンを擦りつけていた。
どうやらこの量でちょうどと言った具合らしい。
(さすが冒険者……いや、わたしもか)
「さてと、片付けちゃうんで食器重ねといてください」
腰を浮かせるとフェアに制される。
「片付けくらい私がやりますので、リーベさんはどうぞ休んでいてください」
「いいんですか?」
ラッキーと思いつつ、やはり自分がやらねばという気持ちがあった。
親戚の集まりみたいなこのクランだが、序列で言えば彼女が最下位にいるのだから。
だがフェアの申し出を無下に断るのも、それはそれで失礼というものだろう。
逡巡の末、任せることにした。
「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「もちろん」
彼は席を立ち、食器を集め始めた。
その傍ら、リーベはふと疑問に思ったことをヴァールに問い掛ける。
「そうだ。ねえおじさん。魚の魔物っていないの?」
「さかな……!」
フロイデと一緒になってヴァールを見やる。すると彼は楊枝を咥えながら返答する。
「いるにはいるが、海にしかいないな」
「え、そうなの?」
「ああ。川や沼なんて魔物には狭すぎるだろ?」
「確かに……」
「そう、かも?」
フロイデ共々納得させられる中、ヴァールは思い出して言う。
「そうだ。魚はいねえがカニとかならいるぞ?」
「ほんとう?」
「ああ」
そうだ、と手を打ち鳴らす。
「次はカニかなんかを倒しに行こうぜ」
なあ、と相方であるフェアに呼び掛ける。
「……確かに、そろそろ甲殻類を相手にしてもいいかもしれませんね」
フェアの言葉にリーベは若干の不安を抱く。
「その言い方……甲殻類って強いんですか?」
「ええ。固い甲殻で守られていますからね」
「へえ……大丈夫かな?」
不安を零すとフロイデがリーベの肩を叩く。
「その分、遅いから大丈夫……!」
「そ、そうなんですね」
弱点があると知った途端、なんとかなるだろうという気にさせられた。
(……わたしって単純なのかな?)
ともあれ、次なる依頼に対し、今のうちから気を引き締めていこう。
そう胸に言い聞かせるとリーベは次なる任務に想いを馳せた。




