179 ぬいぐるみとの遊び方
クランハウスへ帰り着いた一行は各々の休日を過ごすことになった。そんな中、リーベは両親に手紙を認めた後、フロイデと共に互いの愛しきペットに愛情を注ぐこととなった。
「ふふ。ダンクもボニーも、2人とも今日は一段ともふもふしてるね~」
モフりながら呼び掛けると、2人は嬉しそうに身を震わせた。
「なに? 『新しい友達ができたから?』そっか~嬉しくなるともふもふになっちゃうんだね~」
「…………」
「…………」
愛犬たちが嬉しそうに語りかけてきて、賑やかになる一方、対面の島では随分と静かだった。
「じー……」
フロイデは膝に乗せた愛猫カティアをジッと見つめているばかりで、話しかけるそぶりもなかった。それはぬいぐるみを愛玩するリーベにとっては些かなりとも見過ごし難いことであった。
「フロイデさんはおしゃべりしないんですか?」
「う、うん……恥ずかしいから」
「恥ずかしいですか……気持ちはわからないではないですけど、でもぬいぐるみにだって心はあるんですから。話し掛けてあげないと、カティアも寂しがっちゃいますよ?」
「で、でも……」
恥じらいを抑えられないでいる彼の隣へ、リーベは愛犬たちと共に移った。
「り、リーベちゃん……⁉」
「今からお手本を見せますから、よく見ていてくださいね?」
そう言うと彼女はダンクとボニーとを目の高さまで持ち上げ、2人のつぶらな瞳を見据えた。そうして呼吸を整え、想像する。
「ここは草原です。果てなく続く草の絨毯を温かな風がさざめかせています」
「う、うん……」
「穏やかな日差しを受けて煌めく緑の海を、ダンクとボニーが、互いの尻尾を目指して駆け回っています。そしたらほら、聞こえてくるでしょう?」
「聞こえるって、なにが?」
「ダンクとボニーが燥ぐ声ですよ。ああほら!」
『きゃん!』
『きゃんきゃん!』
「ふふ! 2人とも、今日も元気いっぱいだね?」
『きゃん!』
2つの声が重なると、2人はおかしそうに顔を見合わせ、再び駆け回り始めた。愛犬たちの元気な声に、そして姿に。リーベはとっても癒やされた。
(さて、フロイデさんは!)
「……何も聞こえない」
「まだまだ修業が足りませんね。じゃあもっと難易度を下げてみましょう」
そう提案するとリーベは目を瞑り、愛犬たち元気に駆け回っている草原を、再度思い浮かべる。
「舞台は同じ草原です。カティアは、燥ぎ回るダンクとボニーを遠目に、優雅にひなたぼっこをしています」
「うん」
「しかし、ここでフロイデさんがそこら辺に生えていた猫じゃらしをもってやって来ます。するとカティアは目の色を変え、猫じゃらしへと飛びつきます」
リーベはうっとりとため息をつくと続ける。
「そしてカティアが猫じゃらしを捕まえた時、周囲の視線に気が付きます。先ほどまで子供のように遊んでいたダンクとボニーから、まるで子供を見るような温かな視線を向けているんです。気高いカティアはカッとなってフロイデさんの背後に隠れてしまいます」
「くぷぷ……!」
彼は楽しげに瞳を煌めかせると、続きを促すようにリーベを見る。
だが、ここからが本題だ。
「この後はフロイデさんが想像してみてください」
「え、ぼくが?」
「そうです。ペットの可愛い姿を思い描くことも飼い主の務めですよ?」
「そう、なの?」
彼は首を傾げつつもはにかんだ。そうして数秒が経過すると、彼は観念したかのように小さな口を割った。
「じ、じゃあ……しばらくしてカティアは、なにもなかったみたいに、出てくる――こんな感じ?」
「そうです! その調子!」
応援すると彼は気を良くして、幾分か軽い調子で語り始める。
「くぷぷ……カティアはぼくとリーベちゃんとダンクとボニーと、みんなに目を向けられてるのに気付くと、またぼくの後ろに飛び込んでくる」
彼はだんだん楽しくなってきて、語る言葉も流暢なものになっていく。
「でも、カティアはちらちら周りを見ながらまた出てくると、何もなかったみたいに毛繕いをするの」
「ふふ! なかったことにするんですね?」
「うん……! それからカティアはいつも通りにツンとするんだけれど、ダンクとボニーがカティアに吠えてからかうの……!」
「はは! そうです! それこそペットとの遊び方です!」
「これでいいんだ……! くぷぷ……! ちょっと楽しい、かも……!」
「ちょっとじゃありません! こんなに素敵で楽しい遊び、他にありませんよ!」
同好の士を得たリーベは大変喜ばしい思いで彼に微笑みかけていた。
そんな時、コンコンとドアが鳴る。
「あ、どうぞ~」
ノックの仕方からして察していたが、やって来たのはフェアだった。
彼は2人が同じベッドに腰掛けているのを見ると目を丸くしたが、その手にペットがいるのを見るとおおよそを察して安堵の息をつく。
「……ああ、ペットと戯れていたのですね」
「? どうかしたんですか?」
「いえ。何でもありませんのでお気になさらず」
リーベもフロイデも彼が何を言っているのか理解できず首を傾げていた。
そんな中、彼は要件を告げた。
「それはそうと、リーベさん。もう夕刻ですが――」
「えっ⁉」
ハッと窓の方を見やると、西日が赤く、向かいの隔壁を照らしていた。
「リーベさんもお疲れでしょうし、今晩は私が作りましょうか?」
「い、いえ! ちょっと忘れてただけで、疲れてなんていませんから!」
彼に料理を任せてはならない。それは法律以上の拘束力を以て彼女を突き動かした。
リーベは立ち上がるとフロイデの方を見た。
「あの、すみません。わたし、晩ご飯を作らないとなので」
「う、うん……お願い」
彼は額に浮いた汗を拭うとホッとため息をついた。
視線を腕の中にいる愛犬たちに戻すと、リーベは「また後でね?」と声を掛ける。すると2人は不服そうに鳴くが、主人の邪魔をするようなことはしなかった。




