177 午後の予定
それから和やかな一時を過ごしていると、昼が近くなってきた。もうすぐヴァールも帰ってくるだろうということでリーベは昼食の用意に取り掛かることにした。
今日の昼食はポークジンジャーだ。肉を漬け込んでいる間に、付け合わせのマッシュポテトを作ろう。
そう決めた彼女ジャガイモを茹で、熱さに苦労しながらも皮を向き、マッシュしてバターと牛乳とを混ぜ、練り合わせる。そうしてマッシュポテトを仕上げた時、ヴァールが帰ってきた。
「ただいま。飯は?」
「今からお肉焼くから、手を洗って待っててね?」
「うーい」
ヴァールが洗い場に向かうのを見送りつつ、リーベは他二人にも呼び掛ける。
「もうご飯できるので、机の上を片付けてください」
するとフロイデはカティアを抱いて二階に上がり、フェアは縫い物を中止した。
そんな様子を見届けるとリーベは調理に集中する。
じゅうじゅうとフライパンが奏でる音色と共に、肉の焼ける匂いとショウガの香りとが部屋中に広がる。それはこの家の食いしん坊たちをの胃を唸らせる魔力を持っていた。
「お腹、空いた~……」
「リーベ。まだなのか~」
フロイデとヴァールが空腹を訴えてくるが、だからと言って火力を上げるわけにはいかない。故に彼らにはもうしばらく辛抱して貰う必要があった。
「もうすぐ出来るから待っててください――と、出来た!」
リーベは4人分を手早く盛り付けると、フェアの手を借りて配膳を済ませた。そうして食事の準備が整うと、4人は声を揃えて言った。
「いただきます!」
真っ先に食らいついたのはヴァールだった。その分厚い唇を割り開いて、ポークジンジャーを口内に突っ込む。
「あぐ……うぐ……くうううっ! やっぱ人間、肉を食わねえとな!」
「ふふ。気に入ってくれて良かった――フロイデさんも、美味しいですか?」
「もっもっもっ……!」
幸せそうに頬張ってる様子からして、満足してもらえたのは確かだった。
「ふふ。そんなに急ぐと喉に詰まらせちゃいますよ」
そう注意するも、2人が食べる手を緩めることはなかった。
「この分だと、皿まで食べ始めるかもしれませんね」
「ほんとに!」
フェアとリーベが笑い合っていると、ヴァールが「そうだ」とにわかに言葉を発する。
「帰りがけにちょっとギルドを覗いてこうとしたらカルムが来たんだよ」
「お兄さんが?」
「ああ。なんでも、今日はギルドマスターがいるから、リーベに顔を見せに来て欲しいって」
「ギルドマスターが⁉ なんでそんな人がわたしなんかに……」
(わたし、何か悪いことでもしちゃったかな?)
心配していると、フェアがくすりと笑って言う。
「ふふ。マスターとエルガーさんは大変仲が良かったんです。それこそ、『親友』と言っても良いくらいに」
「そ、そういえば、お父さんもそんなこと言ってたっけ……」
「ええ。ですのでそう肩肘張らないでも良いでしょう」
「で、でも緊張しちゃいますよ……」
「大丈夫です。マスターはカルムくん同様に温厚な方ですから」
「なら、良いんですけど……」
納得したがしかし不安は拭えず、リーベがジメッとした気分でいると、肩に手が置かれる。
振り返ると、そこでは頬をソースで汚したフロイデが親指を立てていた。
「あのおじちゃん、飴、くれた……!」
どうやらフロイデ基準では良い人のようで、それなら心配いらないだろうとリーベは警戒を解いた。
「それじゃあ、午後はギルドに行くの?」
「ああ。別に用事とかねえだろ?」
ヴァールの問い掛けに頷くと話は決まった。
「んじゃ、飯食って少ししたらギルドに行くか」
「うん! ふふ! ギルドマスターさんか……どんな人だろう」
「お前も会ったことがあるはずだぞ?」
「え?」
ヴァールに視線が集まった。
「確かお前が4つの時か。テルドル支部を訪問するついでにエーアステに寄って行ったんだよ」
「え、そうなの?」
「ああ。お前は『わたしが持ってくの~』なんて言って茶を運んでったんだが、ずっこけて、マスターの服を汚して大泣きしたんだよ」
「ええ⁉」
恥ずかしさよりも、ギルドマスターという組織のトップの服を汚してしまった事実にリーベは慄いた。
(まさか、そのことを恨んでいて呼び出したんじゃ……)
リーベが震える中、フェアが苦笑しながら宥める。
「子供のしたことに目くじらを立てるような方ではありませんから。どうぞご安心ください」
「だと良いんですけど……」
「大丈夫、怖くない」
フェアとフロイデにそれぞれ言われると、幾分か恐れも和らいだが、依然として胸を圧するものがある。こればかりは自分で会ってみないことにはどうにもならないだろう。
そう悟ると、リーベは覚悟を決めたのだった。




