171 交わる刃! 剣と大鎌
彼女らはギガマンティスがなぎ倒した木々を避けつつ、その背中を追いかけた。そうして十数秒が経過すると視界が開ける。
50メートル程先に湖があって、それを取り囲む湖畔に木々は生えていない。湖の北側には街道がのびている――森の入り口から進んだ先と繋がったのだ。
そしてギガマンティスはというと、砂漠を彷徨うかのような千鳥足で湖へと直進していて、このまま放っておいたらは湖に落ちてしまいそうだ。
仮に転落された場合、ギガマンティス討伐の証明が出来なくなってしまう。そうなっては無論、報酬金も出ず、ここまでの道程が完全な無駄と化してしまう。リーベはこれまでの苦労を無駄にしないために――そして今回の冒険を今後の糧とするためにギガマンティスの脚を止めなければならない。
この戦いの意義を再確認したところでブリッツの指示が飛ぶ。
「いきなさい!」
「はい!」
ソードロッドを引き抜きながら駆け付けると、リーベは右前肢の、最も胴体に近い関節を斬り付けた。すると淡緑色の血液が噴き出し、ギガマンティスの巨体がビクリと跳ね上がる。
「フシュルルアアアアア!」
悍ましい叫びと共に上体が右回転。恐ろしい左鎌が彼女を狙う。
「ふっ……!」
冷静に後ろに飛び退いて躱すと両者は対峙することとなった。
「フシュウ……」
ギガマンティスは喘ぐように鳴くと、両の鎌を逆三角形の顔を脇に掲げ、翅を広げた。カマキリは比較的身近な昆虫であるため、リーベはこれが威嚇のポーズであると理解できた。
「…………」
どうしたものか一瞬考えたが、先ほど傷つけた右前肢を狙い戦力を削ぐべきだろう。
(……よし!)
リーベは左前方に駆け、魔物の右側に迫る。すると当然、ギガマンティスは右の鎌を振るう姿勢に入る。その見え透いた攻撃の射程に一瞬踏み込み、すぐに飛び退く。直後、大鎌が横薙ぎに振るわれた。
「今だああああ!」
無防備になった関節を斬り付けると、剣が貫通し、右前肢を切断することに成功した。
「フシュルルウウウッッッッッッッ!」
絶叫を耳にして作戦の成功を悟ると彼女はこのまま攻め落としたい気持ちに駆られるが、優勢の時こそ冷静に立ち回らねばならないことをこれまでの経験に学んでいた。
リーベはギガマンティスから距離を取ると、再び睨み合う形になった。次も今と同じように攻めれば勝てるだろう。そう考えた時だった。
ギガマンティスはそこに敵がいないにも関わらず鎌を振り上げている。しかも弓を引き絞るように、限界まで振り上げていた。
「なんだろ?」
不思議に思って呟いた時、ブリッツが叫ぶ。
「避けなさい!」
その一言に何が起こるかリーベは悟った。しかし、避けようとはしなかった。むしろソードロッドの柄頭に取り付けられた珠に魔力を籠めて、あの魔法を練り上げていた。
「何やってんの! 早く――」
「フシャアアッッッ!」
ギガマンティスが鎌を振るうと同時にリーベは手前の地面めがけて魔法を放つ。
「ダイマっ!」
パアンッ!
甲高い音が響くと同時に土草が飛び散る。ギガマンティスが飛ばした斬撃はそれらによって相殺され、効果を発揮することはなかった。一方リーベは、大量の土を浴びながらも目を閉じ、剣を構えていた。
顔に土が掛からなくなったのを機に開眼し、左前肢の間接に狙いを定める。
「やあああああああああっっっっ!」
剣を振るうと斬撃が飛び、無防備に晒されていた関節を傷つけ、淡緑色の血液を噴出させる。
「フシュウウウウウッッ!」
絶叫を耳にしながらも駆け付ける。
するとギガマンティスは恨めしげにリーベを睨み、左の鎌を持ち上げていた。
「フシャアッッッッ!」
「――ッ!」
彼女は咄嗟に屈んで斬撃を躱すと、先ほどと同じ箇所を攻撃し、切断した。
「フシュルルアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッッッッッ⁉」
両腕を失った痛みに絶叫が轟く中、リーベは哀れなギガマンティスの首を刺突を食らわせる。 すると絶叫は喘鳴に変わり、やがて沈黙した。
首からソードロッドを抜くと、その巨体がずしんと、へたり込むように崩れ落ちる。
「ふう……終わった」
ソードロッドを振るい剣身に付着していた血液を払う。
(あとは手拭いで拭き取って――)
くちゃ……くちゃくちゃ……
咀嚼音のような深いな異音を耳が捕らえた。音の出所は今倒したばかりのギガマンティスであり――
「下がって!」
ブリッツの声が響いた瞬間、ギガマンティスの頭部が千切れ飛んだ。いや、違う。黒くて細長い何者かによって咥えられ、持ち上げられているのだ。
ガリ……ゴリ…………ブチュ…………!
一抱えほどの大きさがあるギガマンティスの頭部を、それは瞬く間に呑み込んでしまった。 そしてそれは瞳が無いにも関わらずリーベを正面に捕らえる。
直径3センチほどの丸い顔には横にまっすぐと裂け目があり、それがくぱぁと嫌らしく不快な音を立てて開く。するとトラバサミのようなギザギザとした歯が――牙が露わになる。
その奇怪な姿を前にリーベ本能的な恐怖を抱かないではいられなかった。
「なに、これ……」
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