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冒険姫リーベ 〜食堂の看板娘だけど、みんなの希望に応えて冒険者になることにしました〜  作者: 森丘どんぐり
第4章 新たな出会いとさらなる冒険

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170 追跡

 農家の朝は早い。空が未だ朝焼けに彩られているというのにもう活動を始めている自分たちも負けていられない、そう思ったリーベだが――


「ふぁ……眠い」


 1日馬車で移動しただけなのに、彼女は途方もなく疲れていた。そして眠かった。その要因は――


「さあ、今日も張り切っていくわよ! えいえいおーっ!」


 威勢の良く言ったブリッツである。


 昨夜、リーベは自分が眠っている時にブリッツが何かしてくるのではないかと、気が気でなかったのだ。お陰で魔物との戦いが控えているにもかかわらず、満足に睡眠を取れないでいた。


 結局何もされなかったが、それに安堵していると『期待してた?』とブリッツはイタズラっぽく言った。その一言にリーベが強い憤りを覚えたことは言うまでもない。 


 早くヴァールの元に戻りたいと思ったがしかし、今は冒険中。リーベは否が応でもにもブリッツの庇護下にいなければならないのだ。だから彼女に対し、冒険者として最低限の信頼だけは寄せていた。


「ほら、リーベちゃん! えいえいおーっ!」

「……おー…………」


 けだるい思いで拳を掲げると一行は歩き出した。


 そして薄暗い街道を北進すること2時間。辺りは明るくなり、草原は朝露を朝日に煌めかせていて、まるでエメラルドをまき散らしたような幻想的な光景となった――が、一行は視点を右に動かし、北東を向く。その先には鬱蒼たる森林があって、リーベはどんよりとさせられた。


「はあ……」

「少し休む?」


 隣を歩いていたフランメが心配する。


「……す、少しだけ」


そして道ばたに座り込むと水筒の水を呷る。


(疲れてる時の水って何でこんなに美味しいんだろう)


 そんな他愛もないことを考えているとラヴィーネがワンドの珠を差し向けてくる。


「おかわりはいかが?」

「あ、お願いします……ととと」


 給水を受けている傍らでブリッツがわざとらしく言う。


「全く、このくらいでへばってちゃ後が大変よ?」


(イラッ……!)


「誰のせいですか! 全く……」

「ふふ、ごめんなさいね?」

「心の籠もってない謝罪なんていりません!」


 憤然と言い捨てるとラヴィーネが姉を(いさ)める。


「お姉様はもっと、女性らしい慎みを持つべきですわ」

「私もそう思う」

「そんなのアタシじゃないわ。でもまあ昨日はちょっとやり過ぎたわ。ごめんなさいね?」


 彼女の琥珀色の瞳には、誠意と言えるほど立派では無いが、それでも僅かな反省の意思が見て取れた。そう感じた上で彼女を拒めるほどリーベは怒っている訳ではない。


 だからこの辺りで手打ちとした。


「……もう良いですよ。でももうあんなことしないでくださいね?」

「そうね。もっと段階を踏まないといけなかったわね」

「…………」


(もしかしたらわたしの目が濁っていたのかもしれない)







 ギガマンティスの目撃された地点までやって来ると、そこには異常な光景が広がっていた。


 彼女らは現在、森の西部の入り口に立っており、ここから北東方向へと街道が拓かれている。


 本来なら道はそれだけであるがしかし、ここから東へまっすぐ、木がなぎ倒されて道が出来ていたのだ。


「なに……これ……………」


 いくつもの木々が腰ほどの高さから斜めに切断され、横たわっている。その断面は見事なまでに平らであり、およそ人の手で再現できるものではない。


「こりゃまた派手にやってるわね」


 リーベが唖然とする隣でブリッツが言った。


「なんでこんなことを?」

「東には湖があるから、そこを目指してるんでしょうね」

「湖?」

「その辺は後でラヴィが教えるわ。それより、今はギガマンティスを追いましょう」

「わ、わかりました……」


 それから一行は街道を外れ、ギガマンティスの切り拓いた魔物道を進んでいく。


 そうして1時間ほどが経過したときのことだった。


 ガザザ……ドスン…………


 魔物道の向こうから微かに異音が響いてくる。それを聞きつけたリーベはハッとしてリーダーであるブリッツに問う。


「もしかしてギガマンティスが?」

「ええ。どうやらすぐそこまで来ているようね。気を引き締めていきましょう」

「はい!」


 3つの声が重なると彼女らは歩みを再開した。


 道中、断続的に聞こえてきた異音が徐々に大きくなってくる。


 それはつまり、魔物が近くまで迫っているという訳で、リーベの緊張は徐々に痛みを伴うようになっていった。


 そんな緊張の中、先頭を行くブリッツが低く、警告するような声を発する。


「いたわ」


 前を歩いていた2人の横合いから前方を覗きこくと、視界の奥に大きなカマキリの姿を捕らえた。

 その体は鬱蒼とした森林に紛れるような暗緑色をしていて、体高は2メートルほどある。だが、大きいのは体高だけではない。


 今、彼女らに向けられてる腹部が、その体高を鑑みても異様に大きく膨らんでいた。おおよそ成人女性が二人収まるくらいの大きさである。


「なんか、お腹膨らんでいますね。子供でも入ってるんでしょうか?」

「カマキリもギガマンティスも卵生ですわ」

「あ……虫ですもんね……はは」


 ラヴィーネさんの指摘を受け、気恥ずかしく思っているとフランメが意味深なことを述べる。


「入っているのは合ってるよ」

「合ってるんだ……じゃあなにが――」

「それはすぐにわかるわ」


 ブリッツが口を挟む。


「もうそろそろ湖に出るわ。そうなったらもう長くないから、あなたの手で楽にしてあげなさい」

「わ、わかりました」


 その言葉にどんな真意があるのかは知れないが、どうせ殺すなら楽に死なせて上げるのが人道的と言うものだろう。そう思い立ったリーベはソードロッドの柄を握り込む。


 そうして先頭に躍り出た時、ギガマンティスが鎌を振るうのを止めた。最後の木を切り倒し、森の外へ――湖の畔へ出たのだ。


「追うわよ!」

「は、はい!」

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