168 変な三姉妹
そして迎えた翌日。リーベは冒険の支度を終えると朝食の準備に取り掛かる。
これから冒険が控えているにもかかわらず料理をしているのは、彼女が料理をしなければフェアが代わりにやってしまうからだ。それはリーベとしては楽ができる分助かるのだが、彼の料理は劇物だ。それでは仲間の胃が持たない。そんな切実な事情の元、彼女は『せめて朝食だけでも』と料理をしていたのだ。
手早くスープとムニエルを仕上げると、仲間を起こしに行くべく階段に足を掛けた。するとその時、上階からヴァールが下りてくる。
「おお、なんだ。朝飯を作ってくれたんか?」
「うん。それより、今朝は早いんだね」
(いつも2番目はフェアさんなのに)
「たまたまさ。それよか、今朝はなんだ?」
「野菜スープとムニエルだよ」
「魚か。フロイデが喜ぶな」
口ではそう言うが、当人はお肉を所望していることを、リーベは知っている。
「ふふ、そうだね」
そんなやり取りをしていると、フェアとフロイデも下りてくる。
「おや。これから冒険に出るというのに料理まで。いつもありがとうございます」
フェアが目を細める背後でフロイデさんが「魚……!」と目を輝かせる。
予想通りの反応を得るとリーベとヴァールは目を合わせ、笑った。
朝食を終えたちょうどその時、表に通じるドアがコンコンと音を立てた。
「迎えが来たみてえだな」
ヴァールは席を立つと来客を迎えるためにドアへ向かった。リーベは武器と荷物を持ってから向かおうとした時ドアが開き、ブリッツが姿を見せる。
「迎えに来たわよ~」
彼女は室内を見回すと戸棚の陰に隠れていたフロイデに目を留める。
「あ、黒猫ちゃん発見♪」
「フシャーッ!」
その様子に苦笑しつつ、リーベは挨拶をする。
「あはは……おはようございます」
「ええ、おはよ。今朝の具合はどう?」
「はい、元気です」
「なら良いわ――それじゃ、この子ちょっと借りてくわよ?」
「ああ、それはいいが――」
ヴァールはリーベの目を見て言う。
「怪我だけはするんじゃねえぞ」
「もちろん! ちゃんと元気に帰ってくるよ!」
「ふふ、この様子なら大丈夫そうですね」
フェアが言うとヴァールは微笑み、頷いた。
「そうだな。んじゃブリッツ、リーベを頼むな」
「任せて頂戴。ほら、行くわよ」
「はい! みんな、行ってきます!」
仲間たちに出立を告げてクランハウスの外に出ると、そこにはフランメとラヴィーネがいて、2人は親しげに彼女を出迎える。
「おはよう」
「ごきげんよう」
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願い致しますわ」
3人が挨拶を交わしたところでブリッツが促す。
「さ、挨拶も済んだことだし、早く馬車に乗りましょ」
その言葉を受け一行は馬車乗り場へ向かう。朝食がまだだという3人は出店でサンドウィッチを購入し、車内で食べていた。
「冒険に出るってのに朝食作るなんて凄いわね」
ブリッツが感心する中、リーベは切実な事情を口にする。
「わたしが作らないと、フェアさんが料理をしちゃうので……」
すると3人は身に覚えがあるようで、それぞれ青ざめるのだった。
「なるべく早く帰らないといけないわね……」
「はい……」
そうして漂い始めた負の空気を払拭するべく、対面の席に掛けていたフランメに問い掛ける。
「あの、前から気になってたんですけど、なんで仮面を着けてるんですか?」
「ファッションだよ」
そう淡然と返す一方、彼女の隣にいたラヴィーネがイタズラっ気笑みを起こして仮面に手を伸ばす。
そして――
「えい!」
そうして仮面を取り上げられると、その下からはあどけない瞳が露わになる。
「わっ⁉」
フランメは慌てて手で覆い隠すも、見られてしまった事実に変わりはない。むしろその動揺によってリーベの目に一層印象強く焼きついてしまう。
「ら、ラヴィちゃん! 仮面! 私の仮面かえして!」
必死なその様に、リーベは見てはいけないものを見てしまったと罪悪感を募らせる。
「あ、あの……そろそろ返して上げてください」
するとラヴィーネは「仕方ないですわね」と嗜虐的な笑みを浮かべながらも仮面を返却する。
フランメが慌てて仮面を装着する中、ブリッツが苦笑しつつも解説してくれた。
「フランは背が高いのに童顔なのがコンプレックスなのよ。だから人前で仮面を外されると動揺して、ああなっちゃうの」
「へ、へえ……」
「全く。フランはもう少し自分に自信を持ったらどうですの」
「仮面があれば、それでいいの」
先ほどの動揺ぷりが嘘のようなくらい淡々とした物言いだった。
「…………」
(この人たち、変わってる……)




