167 裂かれた依頼書
冒険者としては珍しい女性4人組のクランがギルドに入ると視線を集めた。
その中にはリーベの親友であるフィーリアのものも含まれていた。
「あ、リーベちゃ~ん!」
いつも通り朗らかな彼女であったが、ブリッツの姿を認めると途端に表情を険しくし、頭頂の跳ね毛を逆立つ猫の尻尾のような形状に変化させる。
「またお兄ちゃんをゆーわくしに来たんですね!」
「ははは! 違う違う。今日はこの子と冒険をするために来たのよ」
「え、リーベちゃんと? ヴァールさんたちはどうしたんですか?」
彼女は不思議そうにリーベを見る。
「『他の連中と組むのも学びになるから~』って」
「へ~、そうなんですね~」
フィーリアは哀れむような目を親友に向ける。
それに受けてリーベは苦笑するより他になかった。
そんなやり取りを経て掲示板へ向かうと、そこではすでにフランメとラヴィーネが依頼の選定に取り掛かっていた。
「フラン、ラヴィ。何か良さげな依頼はあったかしら?」
すると2人はとある依頼書にバッと手を伸ばす。
「ラヴィちゃん。今回も私が先だったよ?」
「いいえ! わたくしの方がコンマ一秒早かったですわ!」
そんな小競り合いを遠巻きに見せつけられたリーベはは呆れてブリッツに問う。
「あの、2人は何をしてるんですか?」
「あの子たちはいつも小さなことで争ってるのよ」
「へ、へえ……」
どう反応したものかあぐねていると、ビリリッと紙の破ける音がした。振り向くとフランメとラヴィーネが睨み合っていた。
「ラヴィちゃんが離さないから」
「いいえ。フランが強情だったからですわ」
些細なことでケンカを繰り広げる2人にリーベが『子供みたい』という感想を抱いてしまったのは致し方ないことだろう。
2人の言い争いはそれから数分に渡って続いたが、いい加減待ちくたびれたブリッツによって収拾される。彼女は2つに破けた依頼書を受け取ると、勘合符の如く付き合わせる。
「ふうん。『ギガマンティスの討伐』ねえ。リーベちゃん。あなた、ギガマンティスと戦ったことは?」
「ありません」
図鑑のキックホッパーの項にその名が記載されていた以上のことは何も知らなかった。
「そう。この魔物は腕に付いた鎌を剣みたいに振るってくるわ。あなたならどうにか対処できるでしょうけども、それなりに危険な相手よ? どう、行けそう?」
今まで豪放に振る舞ってきた彼女にしては意外な言葉だった。その為リーベは動揺させられたが、勇気を持って頷いた。
「そう。じゃあこの依頼にしましょうか」
「あ、待ってください!」
リーベは依頼書の特記事項を指し示す。
「『外敵がいないにもかかわらず暴れるという症状が確認されている』ってありますけど、これはどういうことですか?」
「ああ、それね。ギガマンティスもカマキリだから、そういう相手がいるのよ。まあ、そっちはアタシたちで対応するから気にしないで」
彼女の大らかな言葉にはヴァール同様に安心して頷けるだけの器量が感じられた。
「……わ、わかりました」
そうして依頼を選定した一行は受付に立つフィーリアの元へ向かう。
「今度こそお兄ちゃんをゆーわくしに来たんですね!」
彼女は再び臨戦態勢を取るが、生憎と違った。
「ふふ。依頼の受注をしに来たのよ。はい、お願いね」
「むう……承ります」
それからフィーリアは定められた通りの手続きをした。最後に友寄の笛を預けると彼女は冒険者を送り出す口上を述べる。
「手続きは以上となります。皆さんの無事の帰還をお待ちしております」
口上とはいえその言葉には真心が感じられ、リーベの胸が温かくなるのだった。
冒険者ギルドを出た一行少々の買い物を経てながら、リーベをクランハウスまで送り届けた。
「それじゃ、明日の朝迎えに行くから、寝坊しないでよね?」
「はい。明日はよろしくお願いします」
そうして別れると彼女は武器や荷物を片付け、整理した後に夕食の支度に取り掛かる。
そしてそれが完成したころ、彼女の本来の仲間たちが帰ってきた。
「ようリーベ。明日は何を倒しに行くんだ?」
ヴァールが開口一番に問う。
「ギガマンティスだって」
「ギガマンティスだ? おいおい、それはちと早いんじゃねえか?」
「ヴァール。ブリッツが大丈夫と判断したのですから」
フェアの言葉に彼は言葉を呑み込む。
「むう……」
ヴァールはとにかくリーベが心配なのだ。
彼が口先を尖らせる様子に愛情を感じていると、フロイデが心配して問い掛ける。
「リーベちゃんは大丈夫?」
「わたしは……そうですね。ちょっと不安ですけど、それでも、ブリッツさんの期待に応えたいです」
「……そうか」
ヴァールの声が食堂に虚しく響き渡った。
「……リーベ。ちゃんと帰ってくるんだぞ?」
その問い掛けにリーベは精一杯の勇気を籠めて頷いた。
そして夕食と入浴を終え、就寝時間を迎えた。
リーベはベッドに腰掛け、愛犬であるダンクとボニーに事情を告げていた。
「明日からわたし、冒険に出なきゃ行けないんだ。2人だけで良い子に出来る?」
「…………」
「…………」
(2人は出来るって言っているけど、どうだろう。ダンクはつい最近まで、わたしのいないときに外出していたからな~)
「いい、ダンク? お外はとっても危ないんだから、わたしと一緒じゃない時は出ちゃダメだよ?」
「…………」
彼は多少の不服を表しながらも、頷く。
「いい子いい子。わたしが帰ってきたら一緒にお散歩しようね」
すると彼はご機嫌に尻尾を震わせた。
「ふふ。わたしは明日早いから、今日はお休みなさい」
「…………」
「…………」
そうして彼女は英気を養うべく、眠りに就くのだった。




