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冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第4章 新たな出会いとさらなる冒険

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164 出禁の人

 今日の空模様は生憎の曇天(どんてん)で、リーベは些か陰鬱な心持ちであった。それは詩人気質のフェアの共感は得られたものの、他2人は『雨が振ってないなら晴れ』と妙な理屈を展開していた。


 それはともあれ、食休みを終えた一行は二手に分かれ、いつも通り剣術の鍛錬を始めた。


 リーベは今日からは木剣を打ち合わせる『組み打ち』の稽古を行っており、今も彼女は木剣を手に、同じく木剣を構えるヴァールと向き会っている。


「お前のタイミングで来い」

「うん。いくよ!」


 リーベはヴァールに駆け寄り、右脚の踏み込みと共に縦切りを繰り出す。


「てやあ!」


 彼女の渾身の一撃はしかし容易く受け止められてしまう。

 そのことに歯噛みしていると、ヴァールはすぐさま反撃してくる。それは同じく縦切りであり、リーベは木剣の切っ先を左に倒しながら頭上に掲げ、これを受け止める。するとハンマーで叩かれたような重厚な衝撃が肩に伝わってくるが、彼はこれでも手加減してくれているのだ。その事実が彼女に畏怖の念を植え付ける。


「ぐっ……やあ!」


 彼女は1歩下がりながらヴァールの剣を払うと、右側面から叩くような斬撃――はたき斬りを放つ。剣速はなかなかであったが、ヴァールには見切られており、半歩下がることで容易く躱される。


「まだまだ!」


 振り抜いた姿勢から、切っ先を彼の胸に向け、今度は刺突を仕掛ける。


 斬撃と比較すると、刺突は振りかぶる動作がない分、素早く繰り出せるのだが、それさえも見切られていた。


 ヴァールは彼女の剣先を自らの得物の根元で捕らえ、攻撃を外側に払った。


 敵の攻撃を崩し、隙を作るこの技は『パリィ』と言い、先のキックホッパー戦においてリーベも無意識に用いた技だ。


 対人戦においてパリィが決まった場合、その時点で勝敗が決すると言っても良いだろう。

 この組み打ちにおいても同様であり、ヴァールはリーベの喉元に切っ先を向け、これから刺突を繰り出そうというところで動きを止めていた。


「……ふう。初日にしちゃあ、上出来だな」

「ほ、ほんと?」


 汗を拭いながらリーベが尋ねると「たちの悪い冗談は言わねえよ」と笑って返される。


(おじさんほどの剣士にそう言ってもらえるなんて……!)


 リーベが自身を募らせる中、彼は小さく笑う。


「くく、まあ今の課題としちゃ、相手を見ることだな」

「相手を? わたし、ちゃんと見てたと思うけれども……」

「いいや。お前は自分が次にどんな動きをするかに気を取られてる。だからパリィを決められちまうんだ」

「なるほど……言われてみると確かに、そんな気がしてきたよ」

「戦いっていうのは剣術だろうがボードゲームだろうが、決まって3つの事柄が重要なんだ」

「3つ?」

「ああ。1つは『観察』、次に『思考』、そんで最後に『実行』だ。今のお前はこの内、『観察』が欠けてるんだ」

「へえ……」

「まあ観察ってのは数をこなす内に出来るようになるもんだから、今は焦らねえで、知識程度に覚えておけ」

「う、うん。わかったよ」

「そんじゃ、一息ついたらもう1回だ」







 それからの数時間、リーベは訓練に熱中していた為、彼女の中に流れる数分にまで圧縮されてしまった。


 訓練を終えた彼女は額と、そして全身から滲み出る汗に今日の運動が過酷な物であったと知らされるが、不思議と清々しい心地だった。


 今まで街でランニングをしてる人を見かけては、どうしてあんなことするのかと疑問に思っていたが、その解を今日、得られた気がした。


「ふう……いい汗掻いた」

「いい汗を掻いたら、今度は飯だな」


 ヴァールが期待を満面に浮かせて言う。


「リーベ、今日こそは肉だよな?」


 その言葉に近くで汗を拭っていたフロイデがむっと反応する。


「魚……!」

「いいや、今日こそは肉だ!」


 2人は判決を求めるかのように彼女を見る。


「う~ん。確かに最近、魚が続いてたしね。うん。今日はお肉にしよう」

「よっしゃ!」


 ヴァールがガッツポーズを取る一方、フロイデはずーんと沈んだ。


「ぼくの魚……」

「それはまた今度にしましょうね?」

「ところで、今晩は何を作って頂けるのでしょう?」


 フェアがフロイデを宥めながらに問う。


「今日はローストポークにしようと思います」


 するとフロイデは途端に元気になる。


「ロースト……!」

「ふふ、リンゴとタマネギの甘いソースを掛けて食べるんですよ。だから期待していてくださいね?」

「うん……!」


 そんなやり取りをしながら練習場から出ようとしたその時、リーベとフロイデはヴァールに肩を掴まれ、その場に固定された。


「わっと!」


 なに、と言い掛けたその時、東方から王都に帰ってきた馬車が視界の隅に映る。


「悪いね~」


 御者が会釈し、馬車が通り過ぎていく。

 そして荷車の中身が覗けるくらい距離が離れたその時、おもむろに馬車が停まる。


「ん? なにかあったのか――」

「黒猫ちゃーん!」


 その声は若干低く、(しゃが)れていたが、女性特有の響きを持っていた。


 それを耳にした瞬間、フロイデはギョッと肩を跳ね上げ、リーベの背後に回って息を潜める。しかし、隠れられていない。

 一方、声の主は馬車を飛び降りて駆け寄ってくる。そうして一行の正面にやって来ると彼女はクマのように両手を持ち上げ、怪しい手つきで指を動かしている。


「んもう! そんな逃げないでも良いじゃない?」

「フシャーッ!」


 そんな2人に挟まれたリーベは前方に視界が固定されていた為、嫌でも彼女の姿が目に入る。


 背丈はかなり高く、180センチ弱はある。髪は赤銅色(しゃくどういろ)のベリーショートで、男性的な精悍さがあった。しかし、着衣に締め付けられてなお突出する胸部から、彼女が紛うことなき女性であることが証明されていた。


 その特徴にリーベは幼き日の記憶を想起させられる。


「……あ、ああ⁉ 出禁の人!」

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