162 賑やかな昼食
先の尋問により、ダンクが飼い主のいない間に外出していたことが明らかになった。
そして彼は今回、ボニーをデートに誘っていたのだ。
外には危険が多く、飼い主と同行しなければならないのだが、彼はそれを承知の上で外出していたのである。故にリーベは制裁として、彼を『もふもふタイムの刑』に処すこととなった。
そうして刑は執行され、最後に注意をする。
『いい? お外はダンクが思っている以上に危険がいっぱいなんだから。わたしと一緒じゃなきゃだめだよ?』
『きゅうん……』
彼は大きな頭を項垂れる――楽しみが禁じられて残念に思っているのだ。
その仕草には反省の意思が表れており、リーベはむしろ、自分が彼をいじめている様な気がしてきて堪らなくなった。
『ぐ、うう……と、とにかく! 勝手に外出しちゃダメだからね?』
『きゃうん……』
「――ベちゃん……!」
『ん? 今何か聞こえたような……』
「リーベちゃん……! 起きて……!」
切羽詰まったその声にいつの間にか眠ってしまっていたリーベが目を覚ますと、そこには青い顔をしたフロイデがいた。
「あ、フロイデさん。どうしたんですか? 顔が真っ青ですよ?」
目を擦りながら尋ねると彼は嘔吐きながら答える。
「お昼、リーベちゃん、寝てるから、フェアが料理、したの……それで、夕飯もフェアが作る、て……」
「うへえ……それはちょっと…………」
「『ウジ虫入りチーズのカルボナーラ』を作るって……」
「うひゃあ! そんなの、堪りませんよ!」
彼女は飛び起きると一階に駆け下りる。
「フェアさん!」
厨房にはフェアさんがいて、まさにこの時、恐るべきゲテモノが生成されようとしていたのだ。
「おや、お目覚めですか?」
彼の微笑はとても恐ろしいものに思えた。
「は、はい! あの、夕食はわたしが作りますので……」
「いえ。リーベさんもお疲れなのですから、私が作るべきかと」
「か、勘が鈍っちゃうので! わ、わたしが作らせていただきます!」
必死に訴えると彼は渋々と言った様子で調理場を退いた。そのことにフロイデ共々ほっとため息をついた。
「ふう……ところで、おじさんは?」
「裏庭で空気、吸ってる」
「そう、ですか……」
リーベは寝過ごしてしまったことを申し訳なく思いつつ、夕食の支度に取り掛かる。
フェアが具材を用意していた為、今日はこのまま、カルボナーラを作ることにした。
無論、チーズは普通の物を使ってだ。
(平打ち麺にソースを絡めて完成っと)
「出来ましたよ~!」
上階に呼び掛けるとヴァールとフロイデがそれぞれ飛び出してくる。一方、食卓で縫い物をしていたフェアさんは道具を付近の棚へ避け、ふきんでテーブルを拭き始める。
「ふふ。今日のは自信作なんだ」
配膳しながら言うとフロイデが満面の笑みを浮かべて言う。
「カルボナーラ……!」
卵とチーズ、そして牛乳をベースに据えたこのメニューは彼の琴線に触れたようで、着席した彼はフォークを両手に、指定席に腰を据える。
「ふふ、はい。どうぞ」
配膳するや否や、「いただきます……!」とパスタに食らいつく。そんな様子を微笑ましく思いつつ、リーベは自分の分の配膳を終え、食事を始める。
「いただきます」
そうして一口頬張る。
カルボナーラといえば、卵とチーズと牛乳とが織りなす濃厚な風味が最大の武器であり、その特徴を損なうことなく取り入れた本品は非情に美味だった。
「ふふ、美味し♪」
自分の料理に満足しながら面々の様子を盗み見ると、当初調理しようとしていたフェアを含め、皆が頬を綻ばせていた。
(口に合って良かった)
食堂の娘として、皆にに料理を楽しんでもらえるのは幸福なものだった。




