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冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第3章 新天地へ

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156 諸悪の根源

フロイデとハイタッチを交わしたところで師匠2人がやって来る。


「よう。仲良くやってんじゃねえか」

「……ヴァール」


 フロイデは彼がやって来るのを見ると粛々(しゅくしゅく)と項垂れた。そんな様子を見かねて彼は弟子の頭に手を置いて「次からは相手を間違わないことだ」と訓戒するだけに留めた。


「……ごめんなさい」

「もういい。それよか、加工所のヤツを呼ばないとな」


 そう言うとおじさんはポーチから友呼びの笛――ではなく、友寄(ともよせ)せの笛を取り出した。するとフロイデがピクリと肩を上げる。


「ぼくが吹く……!」


 彼がいつも通りアピールする一方、リーベは微笑ましい思いでその様子を見ていた。


「おや、リーベさんは吹きたくないのですか?」


 フェアが不思議そうに尋ねる。


「はい。わたし、犬派なので」

「ふふ、そうですか」


 彼は愉快そうにくすりと笑った。


「しゃあねえな。んじゃ、フロイデに吹かせてやるよ」

「やった……!」


 彼は嬉しそうに笛を受け取ると、小さな口に咥え、「プイーっ!」と鳴らした。


「んじゃ、アイツらが来る前に調査を終わらせっか」


 そう言うとヴァールは洞窟の方を見やる。


 洞窟は縦横が10メートル、奥行きが20メートルほどある大きな横穴で、地面は全体に渡って引き擦った跡がある。


 その様子に誰もがここにミストクラーケンは巣くっていたのだと気付く。


「うわあ……大きいね…………」


 リーベ感嘆としていると、フロイデが短い声を上げる。


「これ、なに?」


 そう言いながら彼が拾い上げた物は、長さ6メートル程はある大きな羽根だった。特徴的なのは全体が銀色であり、スプーンを連ねたような形をしていることだ。


 リーベも彼と同様に首を傾げると、ヴァールとフェアさんは得心した様子を見せた。


「やっぱコイツか」

「コイツって、何の魔物かわかるの?」


 するとフェアが答える。


「ガストロオワゾーという魔物です。魔物界随一の美食家で、生涯に2度、同じ物を口にしないと言われています」

「まあ、それは多少、誇張が入ってるだろうがな」


 ヴァールが結ぶと弟子たちは「へえ~」と声を揃えて感心した。


「じゃあ、この魔物がミストクラーケンをここまで運んできたんですか?」

「その可能性が高いでしょう」

「ガストロオワゾー、どこ?」


 フロイデさんが尋ねるとフェアは「あちらをご覧ください」と洞窟の奥を指し示す。


 フェアに促されて弟子たちが振り向くと、そこには全身がズタズタに引き裂かれ、周囲に羽根が散乱させた鳥の亡骸があった。


「ひいいいっ……!」


 リーベが思わず顔を背けるとフロイデと目が合った。彼もまた、直視に耐えかねたのだ。


「俺も初めて見た時は驚いたものさ……ミストクラーケンに捕まったヤツはみんなこうなっちまうんだ」

「ガストロオワゾーは魔物を生きた状態――正確には半死の状態で運搬する習性があります。なので希にこう言った事件が起こるんですよ」

「でも海からここまで、何百キロもありますよね? あんな大きなイカを運んでこられるんですか?」

「彼らは飛行能力が高いのです。現にミストクラーケンがいるわけですから」

「なるほど……ちなみにですが、今回みたいな場合、退治し損ねたらどうなるんですか?」

「大抵は新しい環境に適応できず死滅します。……ですがミストクラーケンは陸生で、入り江を住み処としています。そこでアルボルメデューサの近縁種と共生に近い関係を結んでいる訳ですから、あるいは生存し、繁殖していたかもしれませんね」

「繁殖って……メスなんですか?」

「はい。藤色の個体がメスで、群青色の個体がオスです」

「へえ……」


 豆知識に感心しているとフロイデさんが零す。


「……危なかった」


 その言葉に誰もが深く、安堵の溜め息をつく。


「もしもここで繁殖されてたら、生態系が壊れちゃいますもんね」


 リーベが言うと、ヴァールは「生態系なんて言葉、よく知ってるな」と感心した。


「冒険者ならこのくらい知ってて当然だよ!」


 胸を張ると彼のみならず皆が笑った。


 それから一行は洞窟の奥へ進んでいく。

 一歩踏み込むごとに最奥に残置された物体の全容が明らかになっていく。それはズタズタに引き裂かれた肉塊で、周囲に入り口に落ちていたものと同じ羽根が散乱していることから、かろうじて鳥だと判別できるくらい酷い物だった。


「うへえ……これがガストロオワゾーか……」

「初めて見た」


 フロイデが言うと、ヴァールは「コイツはトラブルメーカーだからな。お前らはこれから嫌というほど遭うだろうよ」と脅しとも警告とも着かない事柄を言って見せた。


 その言葉を恐ろしく思っていると、リーベの目は新たな異物を捕らえる。


「ん? アレは何ですか?」


 彼女の示す先では大きな芋虫のような異物が洞窟の壁面に張り付いていた。


 リーベが口角を弛ませながら「うへえ」と間抜けな声を漏らす中、ヴァールとフェアは驚嘆の声を上げた。


「こりゃ、ミストクラーケンの卵だ!」

「卵? これが?」

「ええ。どうやら彼女は本格的にここを住まいとしていたのでしょう。もしあと数日遅ければ、この地の生態系が崩れていたに違いありません」

「……ギリギリセーフ」


 フロイデの言葉に誰もが頷く。


(もしもこの地でミストクラーケンが繁殖したら……)


 先ほど語り合っていた事柄が、途端に現実味を増してきて、リーベはぶるりと震え上がった。


「うう……! そ、それより早く潰しちゃいましょう!」

「そうだな。んじゃ、お前がやれ」


 ヴァールの言葉にリーベは間抜けな声を漏らした。


「え、わたし?」

「そうだ。魔法でいいからとっとと潰しちまえ」

「う、うん……わかった――メガ・ファイア!」


 薄闇の中、煌々と輝く魔弾が飛翔し、卵に触れる。直後、「パアン!」と甲高い音が洞窟内に木霊する。ベチャッと卵の残骸が散らばるが、そのいずれもが焼かれており、その内に宿っていた命が潰えたのは明白だった。


「ふう……これで一件落着かな」


 湿度と魔法の熱気でリーベの額に汗が滲む。それをそっとハンカチで拭っていると、ヴァールが伸びをしながら言う。


「んじゃ、加工場のヤツが来る前に切り飛ばした触腕とイカゲソを集めるぞ」

「イカゲソ……!」


 内陸では食べられない海産物(ミストクラーケンは陸生だが)にフロイデの口角にはヨダレが浮かぶ。しかし「アレはギルドに見せるもんだからダメだ」とヴァールに言われるととがっくりと肩を落とした。


「ふふ、いずれオズソルトに出向することもあるでしょうから、魚介はその時までお預けですね」

「ぼくのイカゲソ……」


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