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冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第3章 新天地へ

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149 天賦の才

 剣の握り方をおさらいすると、今度は素振りに入る。

 顔の脇に構えた剣を、右脚の踏み込みに合わせて振り下ろす。一見すると単純な動作であるがしかし、重心の移動や、上体の振り方などを総合し、持ちうる限り最大限の力を斬撃に乗せなければならないのだ。故に難しく、師匠に指摘を受けることも一度ではなかった。


そうして4、50回ほど振るったところで休憩を言い渡され、彼女は崩れ落ちる。


「あー……はあ…………」


 目に入りそうになった汗を拭っていると、ヴァールが水筒を差し出してくる。


「最後の何回か。アレはよく出来てたぞ」

「ごく、ごく……ぷはっ! ふう、ありがと」

「休憩終わったら的打ち……と行きたいとこだが、その前に確認しなきゃなんねえことがある」


 彼の言わんとすることが何か、リーベはすぐわかった。


「キックホッパーの時の?」

「そうだ。アレがまぐれなのかどうか。再現できるかどうか。その辺りを知っとかねえとな」

「……うん。そうだね」


 答えながら彼女は遠くで必死に木剣を振るっているフロイデを見る。


 力強い踏み込みからの縦斬り。斬り返し。からの叩き斬り。それらの動作は剣術を習い始めた今にあっては、とても輝いて見えた。


 彼女を感動させたそれらは、彼が今まで積み上げてきた努力の成果なのだ。それを思えば、例えまぐれでも斬撃を飛ばしてしまったことが罪深く思えてくる。


「……おじさん」

「なんだ?」

「わたしがキックホッパーの脚を切ったとき、おじさんはどう思った?」

「俺か? 俺はわくわくしたぞ」

「わくわく……?」


 不意に出たその言葉に驚かされるも、彼は至って真剣だった。


「ああ。尊敬する師匠の娘が、その才能を引き継いでいた。1番弟子の俺としちゃあ、胸が熱くならねえ訳がねえだろ?」

「おじさん……」

「ほら、休憩は終わり!」


 師匠に続いて立ち上がると、リーベは木剣と交換する形でソードロッドを手に取る。

 右手で柄を、左手で鞘を保持するとそっと引き抜く。すると白銀色の剣身が露わになる。


「…………」


 これはカナバミスライムという最上の素材を、ダルという名匠が鍛えて作り出したものだ。あのとき斬撃を飛ばせたのは、もしかしたら武器が良かったからなのではないかと、今更ながらにそう思った。


「どうかしたか?」


 ヴァールの問い掛けにリーベは剣を納め、鞘を背中に掛けながら思うところを告げる。


 すると彼は腕を組んで唸った。


「ううむ……それも否定できないが、とりあえずやってみろ」


 そう言いながら彼は練習場の隅の方にある茂みを指す。


「ここからアレを斬って見ろ」

「うん、わかった」


 ソードロッドを引き抜き、ゆっくりと、正しく柄を握り絞める。右脚を引き、剣を顔の横に構える。そして茂みを見据える。


「すう……ふう…………」


 呼吸を整え、今――


「やあああ!」


 すると一瞬の間を空け、スパンッと、茂みを形作る背の高い草花が斜めに切り裂かれた。


「……できた」

「まぐれじゃなかったみたいだな」

「う、うん……! でもやっぱり、武器がいいだけなんじゃ?」

「そいつも確かめようぜ」


 言うとヴァールは遠くで木剣を打ち合わせていたフロイデに呼び掛ける。


「フロイデ! ちょっといいか!」


 すると彼と、相手を務めるフェアがピタリと動きを止め、振り返る。それから駆け足でやって来る。


「……なに?」


 問い掛けながらも、彼の瞳は今しがたリーベが切断した茂みへと向けられていた。


「…………」

「悪いがお前の剣をリーベに貸してやって欲しいんだ」

「良いけど、なんで?」

「リーベに飛ばし斬りが出来たのは武器のお陰じゃないか、確かめたいんだ」


 ヴァールがそう口にする中、リーベはこの頼みは彼の武器が彼女のそれより品質的に劣っていると言っているようなものだと気づき、恐る恐る彼を見る。


 案の定、フロイデは眉を僅かに(しか)めていた。


「……ん」


 フロイデは感情を飲んで、剣を貸し出す。

 リーベはソードロッドをヴァールに預けると、それを丁重な手つきで受け取る。


「ありがとうございます。それじゃ」


 リーベが茂みへ視線を戻すと、3人は距離を取る。


「すう……ふう…………」


 先ほど同様、ゆっくりと剣を構え、今――


スパンッ!


「あ……」


(切れちゃった……)


 恐る恐る振り返ると、怒りと悲しみと嫉妬と……複雑な感情を宿した瞳と視線が重なる)


「あ、あの……剣、ありがとう、ございました」

「…………」


 フロイデは剣の返却されると、無表情で鞘に収める。それから憮然と彼女に背を向け、歩き出した。


 この静寂の中、彼の靴底が砂を噛む音だけが大きく響いていた。


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