148 魔法と剣術
練習場にやって来ると冒険者たちは2組に分かれた。
リーベは午前中、フェアと組んで魔法を教わるのだ。
「さて、昨日お話ししたとおり、今日は風魔法であるウィンディを修得していただきます」
「よろしくおねがいします!」
「こちらこそ。それで、まずはどんな魔法かをご覧頂きましょう」
そう言うとフェアは笑みを取り払い、20メートルほど先に立てられた金属製の的を見据え、右腰のホルダーからロッドを引き抜く。するとすぐさま珠が仄白く煌めき、その上部に半透明の球体が現れる。
それは空気の塊であり、周囲から空気を取り込む風の流れを生じさせる。
「いきます――ウィンディ!」
すると半透明の魔弾が的を目掛けて飛翔していくが、リーベはすぐに見失った。
直後、ブワッと音が響き、強風が彼女の顔を叩いた。
「うわっ――とと! ふう、凄い魔法ですね。これって何に使うんですか?」
「主に小型の魔物を吹き飛ばして牽制したり、群れを分断したりするのに使われますね。あとはこんな使い方もあります。少し離れてもらって良いですか?」
「あ、はい」
言われたとおりに距離を離すと、彼は「いきますよ!」と声を張り上げる。リーベはようく目をこらして見つめていると、彼はおもむろに飛び上がり、ロッドの珠を地面に向ける。
「ウィンディ!」
ボフッと強風が吹いたかと思えば、彼の姿が消える
「あれ?」
「――ここですよ!」
上方から降り注ぐ声に振り仰ぐと、青空にフェアの姿があった。無論、足場なんてものはない。にもかかわらず彼は空中にいるのだ。
リーベは彼が魔法で空に跳んだのだと理解するまで数瞬を要した。
「ええ……」
困惑していると、彼はもう一度ウィンディを使い、落下の速度を相殺しながら着地した。
「――と、このように空へ跳ぶことにも使えます」
「凄いですけど、それって何に使うんですか?」
「高所へ移動したり、周囲の様子を観察したりするのに使いますね。……まあ、そのような機会は稀ですが。なのでこんなことも出来るのだと、頭の片隅にでも入れておいてください」
「わかりました」
答えながらリーベは左手のグローブを外した。
「今回もヴァイザー法でやるんですよね」
「ええ。その方が簡単ですから」
彼は両手のグローブを外すと彼女に的の方を向くよう促し、その後ろに立つ。リーベ左手の平を上に向けると「失敬」の一言と共に彼の左手が被さる。それから彼の右手が彼女の首筋を掴む。
「では、的を狙ってください」
「はい」
ソードロッドの柄頭に据え付けられた珠を的に向けるも、その重量は重く、片手で的を狙うのは大変なことだった。ぷるぷると震える腕を宥めながら、どうにか狙いを据えたところで彼の声がすぐ背後から響く。
「いきますよ――ウィンディ!」
リーベを媒体として魔法が発現する。その中で感じる魔力の流れをリーベは体に焼き付けつつ、魔弾が放たれるのを見守る。
それからも同様に魔法を打ち込み、10を数えたところで2人は構えを解く。
「それでは、今度は先の感覚を頼りにご自分で魔法を放ってください」
「はい――むむむ!」
リーベは先ほどの感覚を呼び起こし、珠に意識を集中する。すると微風が起こり、周囲の空気が集まってくる。
彼女が普段使っている風の魔法は、珠から外側へと魔力を吐き出すイメージだったが、ウィンディはその逆。珠の側の一点に魔力が籠もっていくようにしなければならないのだ。
「むむむ……出来た!」
フェアの手本と同じ半透明の魔弾だ。
「ウィンディ!」
渦巻く風から成る不可視の魔弾を放つと、一瞬の間を得てボフンッと、強風に布がはためくような音と共に突風が起こる。成功だ。
「やった!」
「その調子で反復してください」
「はい!」
それからリーベは太陽が天頂に至るまで、たっぷり時間を掛けて魔法の修練に励んだ。
その結果、無事に合格をもらえたのであった。
彼女はその事実に満足しつつも、午後から始まる剣術訓練に備えて気持ちを切り替える。
「よし!」
食事を済ませると活力が体にたぎる。
(さあ、ばっちこい!)
「やる気だな、リーベ?」
「もちろんだよ!」
「はは! そうかい。だったらたっぷり扱いてやっから覚悟しとけよ?」
そう言うと彼は兄弟子の方を見る。
「フロイデ。お前はフェアと組め」
「……うん、わかった」
不服そうな声を発した彼はフェアに連れられ、離れていった。
「んじゃ、俺らもやっか」
「う、うん……」
「日があいてるからな。剣の握り方をからおさらいだ」
木剣を差し出してくる。
「訓練は基本、木剣でやるからな。だからソードロッドは邪魔だから、そこの草の上にでも置いとけ」
言われるままに従うと訓練が始まった。




