147 ジョブチェンジ!
マトー宅を後にしたリーベ来るときに感動を受けたあの光景を逆方向から見ることとなった。
つまり、非日常から日常へ戻るということで、彼女は一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。
そんな中、フェアは彼女に問う。
「参考になればと思ってお連れしたのですが、如何でしょう」
「何というか……『適性』って言葉の重みが増したような気がします」
「そうでしょう。特に私たち冒険者は命を賭けて仕事に臨んでいるのです。なので個人の能力を十全に活かそうとすることは、他のどの職業よりも重要なことなんですよ」
そこまで言うと彼は脚を止め、リーベの目を見据える。
「ヴァールは無理強いはしないと行っていましたが、魔法使いでなければならないという確固たる意思がないのであれば、あなたは剣士にならなければなりません」
「それは……」
彼女にはフェアの言う『確固たる意志』がなかった。
だが彼女は魔法が好きだった。
火を出したり水を出したり……そんな奇跡とも言える不思議な事象を起こせることを素敵に感じていた。だから、それがもうできないと思うと寂しかった。
「わたしは剣士になった方がいいんでしょうけれども、魔法もやっぱり学びたいです……」
「それなら心配はいりませんよ」
「……え?」
「剣士になった上で、あなたは魔法を学ばなければならないのですから」
「どういうことですか?」
「あなたの武器は剣でありながらロッドでもあります。その能力を最大限活かすのであれば、魔法を扱えなければなりませんからね」
「ん。え、でも剣士になるんですよね?」
リーベが混乱していると、彼はくすりと笑んで言う。
「はい。戦場においては剣士として戦っていただくことになりますが、時折魔法が必要となることがあるでしょう。そういった場合に備え、魔法を学んでいただくと、そういうことです」
「なるほど……じゃあ、これからも魔法が使えるんですね!」
「そうです。あなたは謂わば『魔法剣士』になるのです」
「魔法剣士……それってなんだか素敵かも! ふふ! そう言うことならわたし、もっともっと頑張っちゃいますから!」
「おじさん! わたし、魔法剣士になるよ!」
晩の食卓でリーベが宣言するとヴァールは首を傾げた。
「魔法剣士だ?」
「うん。魔法を使える剣士だよ」
すると彼はは天井を見上げながら唸る。
「んまあ……確かに。そう言うことになるな」
「でしょでしょ!」
ヴァール相手に燥いでると、隣から棒のように太い視線を感じる。
「じー……」
振り返ると、メラメラと聞こえてきそうなほどに激しい敵愾心を燃やすフロイデと目が合う。その圧に押されながらも、リーベは視線を返す。すると彼はぷいっと顔を背け、パンを口元へ運ぶ。
「……ぼくの方が、つよい――もっもっ……」
彼のプライドがそう言わせたのは承知しているが、リーベの胸には少々冷たく響いた。
「まあ何であれ、そうと決めたのなら明日からは本格的に仕込んでやっからな。覚悟しとけよ?」
その言葉に振り返ると彼女は力強く頷く。
「うん。わたし、本気で頑張るから……!」
「その意気だ――それで、魔法の方はどうすんだよ?」
ヴァールは隣席に掛ける相棒に目を向ける。グラスを持ち上げかけたフェアは手を止め、整然と答える。
「そうですね。最低でもあと『ウィンディ』を修得していただきたいですね――リーベさんは風を出す魔法は使えますか?」
「はい。洗濯物を乾かしたりするのに使うんで」
「そうですか。それならばヴァイザー法も合わせればすぐに修得できるでしょう」
彼は微笑むと相棒に視線を戻す。
「そういうわけなので、明日の始めは私に預けてもらっても?」
「ああ。構わねえよ――リーベ、明日から忙しくなるからな。ちゃんと飯食って早く寝るんだぞ」
「うん! 寝るのは大得意だからまかせて!」
「そりゃ頼もしいな」
ヴァールは穏やかに笑うと食事を再開した。リーベも明日に向けてエネルギーを充填すべく、スプーンをせわしく動かし、できるだけ大量に詰めし込んだ。




