136 師匠の懸念
翌日、リーベは昨日の訓練のおさらいをすると、今度は練習場にポツンと生えた木の下へやって来た。この木の枝には丸太が吊るされており、リーベがこれが何かと気にしていると、師匠であるヴァールが腰に手を当てて言う。
「んじゃ、今からは的打ちの訓練に入る」
「はい!」
「なんだ?」
「的打ちってなんですか!」
「それを今から説明するんだ」
「oh……」
今まで父の稽古を見学してきたリーベ『的打ち』を知らないのは、彼らがテルドルで稽古をする際、これを省いていたからだ。
「てわけで、的打ちに入る。的打ちっていうのは名前の通り、的を打つことだ。素振りだけだった今までよりも、より実践的な体験が出来るから、心して挑め」
「わかりました」
こうして稽古が始まった。
リーベは的の正面に立つと左足をそちらに向け、肩幅ほどに足を開き、顔の横に剣を構える。
こうして構えを完了すると数度の深呼吸を経て一振り目を繰り出す。
「……やあ!」
木剣を打ち込むと的はカコーンと小気味よい音を響かせ、向こう側へ弧を描きながら飛んで行った。縄で吊られたそれが戻ってこない内に構え直し、タイミングを見計らって――
「えい!」
カコーン!
良い音を立てて的が弾かれていく。
(……これ、結構楽しいかも)
そう思ったリーベは楽しみながら的打ちを続けた。そして14回目。的は快音を響かせ、上方向へ弧を描いて飛んで行く。そのまま枝を一周するかと思い横に退くと、的はつい先ほどまで彼女のいた場所を通過し、ぶらりと揺れた。
「わあ……凄い飛んだね」
「今のは良かったな。ほら、感覚が抜けねえうちに反復しとけ」
「はーい」
「具合は如何でしょう」
青空の下、黙々と干し肉を囓っていたフェアが、虚しい顔でビスケットを咥えていたヴァールに問い掛ける。
「ん? ああ、師匠の娘なだけあって良い具合だな」
「魔物も、倒せる?」
フロイデが対抗心を宿した瞳をリーベに向けながら問うと、ヴァールは頷いた。
「そうだな。この分なら相手を選べば行けるだろうな」
その言葉にリーベの心が揺れる。
「じゃ、じゃあ冒険に出るの?」
「そう逸んな。お前は筋は良いがいいが、だからと言ってすぐに冒険に出すわけには――」
「でもわたし、今の自分がどこまでやれるか、試してみたいの!」
するとヴァールは黙考し出す。その傍らでフェアは淡然と言う。
「時期尚早だと思います。私はリーベさんの才能を目にしたわけではありませんが、付け焼き刃の状態で魔物に挑むことは命取りでしょう」
フェアの厳しくも現実的な言葉に彼女の気概は宥められる。
彼女自身、彼の主張をもっともだと感じていたがしかし、この衝動は抑えがたいものだった。だが、いったいどう主張するべきか。考えあぐねていると、フロイデが口を開く。
「じゃあ、いつなら出られる、の?」
その言葉に師匠2人はハッとした。
リーベの慣熟を待ってから冒険に出るとなるといつになるかわからない。例え不完全な状態で冒険に臨んで危機に陥ったとしても、その時は自分たちが庇えば良いのだ。そのための師弟関係を結んでいるのだから。
「……たしかに、そうだな」
「じゃ、じゃあ!」
「そうだな。明日にでも依頼を見に行くか」
「やったあ!」
「だが、弱いやつを相手にするからな」
その言葉に頷いて見せると、ヴァールは声高々に言う。
「んじゃ、その為にも午後の訓練をするか」
「うん、わたし、頑張るよ!」
2人は立ち上がると、先ほどの木の下を目指して歩いて行った。




