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冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第3章 新天地へ

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131 2日目の朝、ダンクは濡れる

「うう……」


 どうにか完食したリーベの腹の底からは、青く、つんと鼻を指す薬品臭が漂ってくる。それを僅かにも誤魔化そうとすれば、牛乳は必須であり、被害者3人は今朝配達されたそれを一息で飲み干してしまった。


「ふう……やっと楽になった……」

「生き返るな……」

「そう、だね……」


 3人は憔悴気味だった。


「ところで、皆さん今日はどのように過ごしますか?」


 リーベの耳にはカチャカチャと食器を洗う音に混じってフェアの声が聞こえた。清澄な響きを持つ美しい声だが、このときばかりは恨めしく思えた。

 それは他の被害者たちも同様で、ヴァールは机に突いた拳に額を当てながら、フロイデは机に伸びながら、地の底から這い出るようなうめき声を上げていた。


 数瞬の沈黙を埋めるべく、リーベは頑張って声を出した。


「わ、わたしはダンクをお風呂に入れて上げて、それから散策しに行きたいです」

「んじゃ、俺はリーベのお守りを――」

「ぼくが行く……!」


 フロイデがヴァールの言葉を遮って言う。


「行くって、どこにですか?」

「リーベちゃんの、案内。テルドルの時、してくれたから、お返し」

「あー、そういえばそうでしたね」


 言うと彼は「ふんふん……!」と頷いた。


「じゃあ、お願いしても良いですか?」

「うん……!」


 彼が頷くと、静観していたヴァールが言う。


「んじゃ、俺はのんびり筋トレでもするかな。フェア、お前はどうする?」

「私は薬の調合を」


 その瞬間、場は一気に凍り付いた。


「おや、どうかしました?」

「い、いや……それよかリーベ、お前に一つ言っておくことがある」


 ヴァールが真剣な目をしているためリーベは身構えた。


「なに?」

「ここらは女1人で出歩く場所じゃねえからな。外出するときは俺らの内、誰かといっしょに出てくんだ。良いな?」


(それはちょっと窮屈だけど……おじさんがそう言うなら)


「う、うん……わかったよ」


 するとヴァールはしばし彼女を見つめていたが、やがて安心すると小さく息を吐いて微笑んだ。

「そうしてくれ」





 

 そんなこんなで4人の休日が始まる。

 リーベは裏庭にタライと石鹸を用意してからダンクを連れてきた。


 周囲を建物と柵に囲まれた空間だが、2人の間では(うら)らかな高原なのだ。

 

「ダンク、お風呂の時間だよ?」

「…………」


 風呂好きな彼は爛々と目を輝かせて喜んでいた。


 その様子を微笑ましく思いつつも、彼を浴槽に座らせる。


「ふふ、今夜はスーパーもふもふタイムだからね?」

「………」


 飼い主の言葉にダンクは絶句した。


 スーパーもふもふタイムとは、ダンクを風呂に入れて上げた日にのみ発動されるもので、もふもふタイム以上に苛烈なもふもふが彼を襲うのだ。


(可愛そうだが、もふられるのも飼い犬の勤めだからね?)


 ともあれ、シャンプーを始めようとワンドを取り出した時だった。


 背後で勝手口が開き、そこからフロイデが現れる。


「あれ、フロイデさん? どうかしましたか?」

「ぬいぐるみ洗うの、見たい……!」


 彼は好奇心に目を輝かせた。


「それは良いですけど、でも、違いますよ?」

「違う?」

「はい。ぬいぐるみじゃなくて、ワンちゃんです。あと、洗うんじゃなくて、お風呂に入れて上げるんです。良いですね?」

「う、うん。わかった……!」


 フロイデが素直に頷くのを見ると、リーベはワンドを握り直し、洗体に掛かる。


 水の魔法は火の魔法に近づけることで温度を調節できる。彼女は生み出した水を左手に当てながら、ダンクが最も気持ちよくなれる温度を探す。


「よし、このくらいかな――いくよ、ダンク。それ!」


 頭からお湯を掛けて上げると彼は心地よさそうに鼻先を上げた。


 そうして全身にお湯を掛けたところで石鹸を取り出す。それを十分に泡立てたところで、ダンクの全身を掻き回す。


「ふふ、かゆいところはないですか?」

「…………」


 彼は無言でその極楽ぷりを表していた。だからリーベはその調子で続けた。そして今度は泡を流しに掛かる。タライの水を替えながら全身をマッサージ。そうしていく内、ダンクの体から石鹸のぬめりが取れ、濡れた体毛が指に絡みつくようになる。


「これで良しっと。今拭いて上げるからね?」


 リーベはダンクの全身をマッサージして脱水した。それから手ぬぐいをあてがいながらマッサージ。そうして水気を吸い取って上げたところで、今回の入浴は終わりだった。


「ふう……気持ちよかった?」

「…………」


 体毛が濡れ、一回り小さくなってしまった彼はご機嫌そうに体を風に晒していた。


「ふふ、よかった」


 と、そこでリーベはギャラリーの存在を思い出した。


「あ、フロイデさん。こんな感じですけど、見てて楽しかったですか?」

「うん」 


 彼は素直に頷いた。


「こうやって、お風呂に入れて上げるん、だね」


 どうやら彼の知識欲を満たせたようだとリーベは安心した。


「それは良かった。後は風通しの良いところで涼んでもらうだけなので」

「うん、外で待ってる」


 そう言い残して彼は勝手口から屋内に入っていった。


 1人残されたリーベはダンクをスツールに座らせ、道具の後片付けをし、それから荷物をもって表に出る。

 そこにはフロイデが待っていて、一瞬リーベの顔を見る。しかし彼は頬を染めてすぐにぷいっと顔を背けた。


(待たせすぎちゃったかな?)


「すみません、お待たせしました」

「ううん。じゃ、行こ?」

「はい。今日はよろしくお願いしますね」

「……うん」


こうして2人は王都散策へ繰り出すのだった。



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