127 うなじに3つのホクロを持つ男
諸々の手続きを終えた一行は、フィーリアの仕事の邪魔にならないために、早々に立ち去ることにした。
「フィーリアちゃん。お仕事頑張ってね」
「はーい!」
リーベが残念に思いながら言うと、フィーリアは跳ね毛を犬の尻尾のように振り乱しながら元気に答えた。
それから2人は親しく手を振り合うと、リーベは彼女に背を向けたその時、不意に呼び止められる。
「リーベちゃん」
「ん? なに?」
「わたしのことは『リア』って呼んでください」
「え、いいの?」
「お友達ですもの」
「お友達……ふふ、そうだね! バイバイ、リアちゃん」
「はい、さようなら。リーベちゃん」
再度手を振り合って別れると、リーベは外で待っていた仲間の下へ向かう。
「ふふ、早速ご友人が出来たようで」
「ほんと、まさかリアちゃんに会えるなんて思いませんでしたよ。あ! おじさんが前に『会いたがってるヤツが大勢いる』って言ってたのはリアちゃんのことなの?」
「よく覚えてんな。まあそうだが」
「やっぱり! ねえねえ、他の人たちはどこにいるの?」
「ここで活動してりゃ自然と顔を合わせることになっから、そう逸んな。それよか、先にクランハウスの掃除をしねえと、今夜はホコリまみれで眠るハメになるぜ」
(確かに、ホコリとか凄かったからな……)
「むう……」
「んじゃ帰るぞ」
ヴァールが言ったその時、リーベはフロイデがいないことに気付いた。
「あれ、フロイデさんは?」
「フロイデならあそこにいますよ」
フェアさんが指し示したのは路地裏へと続く曲がり角だった。
路地裏を覗き込むと、そこでは4匹の猫が集まって集会を開いていて、フロイデはそれに混ざって座り込み、他の猫と同様にただジーッとしていた。
「フロイデさん、帰りますよ?」
リーベの声が路地裏に響くと、5対の瞳が一斉にこちらを見る。
「……帰るの?」
「はい。帰って掃除をするんです」
「掃除……」
大儀そうに呟くと彼は立ち上がり、猫たちに別れを告げ、路地裏を出た。
クランハウスまで帰ってきた。
屋内は相変わらず薄暗かった。もしも日差しがさしこんでいたら、ホコリが待っているのがチラチラと見えたことだろう。
「めんどくさい……」
フロイデさんが零すと「まったくだ」とヴァールが同意する。
「まあそう言わずに。4人で掛かればすぐに終わりますから」
「はあ、それもそうだな」
ヴァールは伸びをしながら指示を出す。
「俺は1階、チビどもは2階――」
「チビじゃない……!」
「フェアはいつも通り洗濯だな。じゃ、掃除開始だ」
開始手を鳴らすと弟子2人は2階に上がり、洗濯物を服を回収すると裏庭で洗濯の用意をしていたフェアに預ける。
「お願いします」
「はい。そこのタライに入れておいてください」
「はーい」
言われたとおりにして屋内に戻ろうとするとリーベは呼び止められる。
「リーベさん、いつもの流れでこの分担になりましたけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫って?」
「異性に服の洗濯を任せることについてです」
「あー、フェアさんですし、別に気にしませんよ」
彼はリーベにとって親戚同然であるし、何より中性的な顔をしているから気にならなかった。
「そうですか。引き留めてしまってすみません。どうぞ、持ち場へお戻りください」
「はーい」
掃除用具を取り出しながら2階へ上がると、そこにはフロイデが待ち構えていた。
いつも首に巻いている赤いスカーフを三角におり、頭に巻いている。彼の首元がすっきりしているのを珍しく思いつつ、リーベは尋ねる。
「フロイデさん? どうかしたんですか?」
「ぼくはヴァールたちの部屋をやるから、リーベちゃんはそっちをお願い」
「わかりました」
了解すると、彼はリーベに背を向けた。その時彼のうなじが見えたが、そこには珍しいことにホクロが3つ縦に並んでいた。
「あ、凄い」
「……なにが?」
「フロイデさん、首の後ろにホクロが3つ並んでるんですね」
「くぷぷ……いいでしょ……!」
彼は自慢げに鼻を膨らませた。
「とっても珍しいですね」
「むふーっ!」
褒めると彼は満足して去って行った。その小さな背中を見送ると、リーベは掃除に集中するべく、気合いを入れる意味を籠めてポニーテールを縛り直した。
「よし! 掃除掃除っと」




