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冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第3章 新天地へ

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122 旅は続く

セルランは宿場町であるからして、飲食店が何店もあり、まさに激戦区といった様相を呈していた。各店舗からは芳香が漂ってきており、この匂いだけでも食事が出来てしまいそうだとリーベは思った。


「むう……どこからも美味しそうな匂いがする」


 リーベは食堂の娘として、敵情視察するつもりで目を光らせていた。


 一方、フロイデは短い手足をちょこちょこ動かし、大きなどんぐり眼で辺りをきょろきょろと見回している。その様子から今晩の喜びの選定に気概を燃やしているのが在り在りと伝わってきて3人の仲間たちは各々笑った。


「ふふ、そう急がずとも、夕食は逃げたりしませんよ?」


 フェアが微笑ましげに問うと、彼は鼻息荒く答える。


「美味しいものが、ぼくを、呼んでる……!」


 フロイデがそう口にした途端、その言葉を肯定するかのように魚の焼ける香りが漂ってきた。


「さかな……!」


 魚好きとしては抗えないものがあったのだろう。彼は匂いのする方に鼻を向けると、まるで釣り餌に食らいつく魚のように直進していった。


「はは……よほど魚が好きなんだね」


 リーベが言うと、ヴァールが苦笑して答える。


「ああ。だけど、テルドルに行くときもあの店に行ったんだよな」

「あ、そうなんだ」


 リーベはフロイデの向かった店を見やる。


 規模の小さな店舗で、食堂であることを示すシンボルの描かれた看板を吊るしていた。入り口の脇には鎧戸があって、その隙間から白い煙が一筋、天に昇っていた。


 彼は店の入り口までやって来ると、仲間たちを急かすようにこちらを見つめた。


「おやおや」


 フェアが笑うとおじさんは「しゃあね」とため息をつく。


「アイツがぐずらねえ内に行くか」

「うん」






 銀魚亭(ぎんぎょてい)というこの食堂では魚料理のみを扱っており、魚好きなフロイデにとってはまさに楽園だろう。だが、よりどりみどりと言うのも困りもののようで、かれこれ十分はメニュー表と睨めっこしていた。


「うぬぬ……」

「おいおい、いい加減決めてくんねえと俺たちも食えないんだぞ?」


悩ましげに唸るフロイデさんにおじさんが言う。


「でも、全部食べたい……!」

「全部なんて食える分けねえだろ。そうだ、お前が決めらんねえなら俺が決めてやるよ」


 そう言う給仕の女性に呼び掛ける。


「おおい」

「あ、はい! ただいま!」


 返事をすると、トコトコやって来る。


「ご注文を承ります」

「ああ、これがシオマスの塩焼きが2つと、マッシブサーモンの香草焼きが2つだ」

「塩焼きが2つと、香草焼きが2つですね?」

「あ」


 フロイデが短い声を上げると「他に何か?」と女性が振り返る。しかし照れ屋な彼は女性の視線に耐えかねて「な、なんでもない……」とスカーフと前髪を掴んで項垂れる。 


「そうですか。じゃ、少々お待ちください」


 そう言い残して店員さんが去ると、フロイデさんは恨めしげにおじさんを見た。


「なんだ? 塩焼き嫌いか?」

「嫌いじゃない……!」

「なら良いじゃねえか」


 ヴァールの言葉に言い伏せられたフロイデは「むう……」と頬を膨らましていた。そんな不機嫌そうな彼だが、いざ料理がくると目を爛々とさせることを皆は知っている。だから何の心配もなく話題を変えた。 


「ねえ、王都にはいつ着くの?」


 今回の旅路は大変新鮮で、愉快なものであったがしかし、リーベは疲れが出始めているためそろそろ王都に着いてほしいと彼女は思い始めていた。


「明後日には着くだろうな」


 そう答えるとヴァール「なあ、とフェア」と相方に尋ねる。するとに彼は頷いた。


「ええ。何事もなければ明後日には到着するでしょう」

「明後日か……ふう」

「なんだ、疲れたのか?」


 ヴァールが心配する。


「うん、ちょっとだけ……」

「馬車に乗ってるだけでも結構疲れるもんだからな。今日は寝る前に軽く体操でもしておけ」

「うん、わかったよ。でも何日も掛けてあちこち行かなきゃならないのは結構大変だね」

「冒険者の仕事の9割は移動と言われてますからね」


 以前ロイドにも言われたことではあるが、長旅の途上であるリーベはより強い共感を抱いた。


 そんな折、料理が運ばれてきた。


「お待たせしました。お先に香草焼きです」


 パンもセットで付いてきた。


「ありがとうございま――」

「じー……」


 フロイデが凄い眼差しで彼女の分を見つめている。


(き、気まずい……)


「お待たせしました、塩焼きです」

「来た……!」


 案の定、彼は目を輝かせて料理を迎えたのだった。給仕が微笑ましげに去って行くのを見送るとヴァールが言う。


「あと2日をやり過ごす為にも、ちゃんと食えよ」

「うん――いただきます」


 リーベは香草焼きに(かぶ)り付く。


 真っ先に感じたのは鼻を抜けるスパイスの香りで、次にやや尖った塩味、そして魚の旨味だった。


「ん、美味しい」


 エーアステでも香草焼きは提供しているけれども、味も香りもあちらのものとは違っていた。 

 

 リーベは家が食堂であるから今まで外食をしてこなかったが、これからはこうして新たな美味に出会えることを彼女は喜ばしく思った。


「美味し♪」

「ふふ、旅を楽しめているようですね」


 フェアの言葉にリーベは間を開けずに頷いた。

 


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