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冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第3章 新天地へ

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119 途上にて

早朝に宿を引き払った一行はそのまま馬車に乗り込み、王都を目指して北上し始めた。 


 移動を開始して数時間は草原を走っていたが、ほんの数十分ほどまえから森に差し掛かった。ガラガラゴロゴロと車輪の転がる音に耳を澄まし、流れていく景色を眺めていたリーベだが、代わり映えしない景色に飽きて、途中からダンクとじゃれ合っていた。


「暇だねえ」

「…………」


 ダンクも退屈そうに鼻を尖らせている。


「おじさんたちはいつも、どんな風に暇つぶししてるの?」


数瞬の間を開けて返事がくる。


「俺は魔物が来ねえか見てるな」

「フェアさんは?」

「私は瞑想ですね」

「フロイデさんは?」

「美味しいもののこと、考えてる……!」


 目を爛々と輝かせてそう言った。


「なるほど……」


(確かに、そう言う暇つぶしもあるのか……)


 そんなことを考えつつも、リーベは魔法使いとして、自らも瞑想にふけるべきだろうと考え始めたその時、馬車が急停止した。


「きゃ! ど、どうかしたんですか⁉」


 御者に呼びかけると、青ざめた顔を冒険者たちに向けた。


「ま、前にウサギが……!」

「ウサギ?」


 なぜウサギを怖がるのかリーベが不思議に思っていると、御者は絡みがちに伝える。


「で、でかいウサギが――」

「なんだとっ!」


 腰を上げたのはヴァールだけではない。フェアもフロイデも、まるで盗賊が襲撃してきたかのような即応ぶりを見せた。とりあえずリーベも後を追う。


 背中に帯びたソードロッドの柄を握りしめながら続くと、御者さんの言うとおり、一回り大きな、頭に瘤のあるウサギがいた。1羽だけではない。見える限りで7羽はいる。


「これも魔物なの!」


 誰にともなく呼びかけると、フェアが答えてくれる。


「アルミラージという魔物です!」

「アルミラージ⁉ これが……」


(たしか『森の死神』の異名を持つ魔物だ。となると、これはかなり危険な状況なのかも……いや、実際そうなんだ!)


「リーベ! お前は見てろ!」

「う、うん!」


 師匠の呼びかけに答えると柄を握る手に力を込めた。

 しかし扱い慣れていないせいで引き抜くのに手間取ってしまう。


「ああ、もう!」


 焦っていると魔物が短く鳴いた。


「ガルル……!」


 オオカミのような唸りに続いて、ウサギたちの頭頂部の瘤からメリメリと嫌らしい音が響いた。見ると、そこにある小さな穴から角が生えてきていた。それは見る間に伸びていき、最終的には30センチに達した。先端はとても鋭利で、陽光をギラリと閃かせる様は槍のようだ。 そんな物騒な角を突きつけ、威嚇してくる。そこに恐怖を感じないではいられなかった。


「ひっ!」


 ようやく引き抜けたソードロッドを両手で握りしめ、リーベは事の成り行きを見守った。


「やるぞフロイデ!」

「うん……!」


 2人が声を上げた途端、魔物たちは2人の剣士目掛けて跳躍した。


 角を生やしたウサギが7羽が同時に飛び掛かってくる。そんな恐ろしい光景を前にしても2二人はひるまなかった。


「やっ!」


 フロイデはまるで踊るかのように剣を操り、3体の魔物の攻撃をいなしていく。その際、ハイベックス戦で見せたように、切っ先で敵の体表を撫でることで手傷を負わせていた。


 彼は冒険者らしい堅実な戦いぶりを見せており、安定感があった。リーベも今後剣術を学ぶ身として、彼の模範的な戦い方はとても参考になった。


 一方で、小回りの利かない大剣を得物とするヴァールはというと――


「オラァッ!」


 なんと、先行で飛び掛かってきた2体の角を掴み、棍棒のように振り回していた。


「ゴキュ――」


 鈍い音を立てて魔物たちの体が打つかると、後続の2体は放物線を描いて飛んで行った。直後、ヴァールは両手の魔物を転がった2体の方へ放り投げると大剣を抜き放つ。


「ダアアアアアッ!」


 裂帛の叫びと共に縦切りを繰り出す。すると空気がゴオウと唸り、空気の刃が放たれる。一カ所にまとまっていた魔物はその一撃で首や腹を切られ、赤い飛沫を上げた。


 その豪快な戦い方に唖然としていると、フロイデが残党を切り伏せ、ため息をついた。


「ふう……終わった?」

「アルミラージは群れで活動する魔物ですから。どこかに残党が潜んでいるかも知れま――」 


 フェアが言い掛けた時、リーベの近くの茂みがガサガサと揺れた。


「ん?」


 振り返ると、そこにはアルミラージの姿があった。その残忍な瞳はまっすぐリーベに向けられていて――飛び掛かってきた!


「きゃあっ!」


 咄嗟にソードロッドを振るうと、刃がちょうど魔物横顔に当り、切りつける形になった。


 それと同時に屠殺を体験したときに味わったあの悍ましい感覚が手に蘇る。だがそれに怖気付く間もなく、リーベは弾き飛ばされ、尻餅をついた。


「うっ……! ま、魔物は!」


 慌てて視線を向けると、そこには顔に深い裂傷を負ったアルミラージの姿があった。


 右目は潰され、残された左目は怒りに血走っていて、今にも飛び掛かってきそうだ。


「ひっ――」

「メガ・ファイア!」


横合いからオレンジ色の光球が飛んできて、アルミラージの横腹に炸裂する。


 パアンッ!


熱波を感じた頃には魔物は宙に舞っており、着地すると喘鳴を上げて痙攣しだす。


「お、終わった……?」

「ご無事ですか?」


 フェアが膝を突いて容態を問うてくる。


「…………お陰様で……あ、ありがとうございました」

「いえ。側にいながら気づけなかったとは……不覚でした」


 彼が悔しげに言うと、ヴァールが辺りを見回しながら言う。


「それは俺たちも同じだ」

「そうだよ……」


 フロイデが口惜しげに続く。


「フェアだけの責任じゃ、ない」

「……そう、ですね」


 その言葉を最後に数瞬の沈黙が訪れた。

 それはなんとも気まずい物であったが、ヴァールの一言で温かいものになった。


「それよか、よく反応できたな。リーベ」

「う、うん。自分でも不思議なくらいだよ。はは……」


 乾いた笑いを上げると、後方から声がする。御者のものだ。


「もう大丈夫なんですか?」


 するとおじさんが答える。


「ああ。だが、こいつらの角が欲しいから、もうちょっと待っててくれないか」

「かまいませんが、お早めにお願いしますね」

「わるいな――うし、じゃあ角だけもらってくか」

「う、うん……」


 答えながらリーベは剣を鞘に収めようとしたが、待ったが掛かる。


「剣をしまう前に乾いた布で拭っておけ」


 そう教えながらヴァールは腰から短剣を引き抜き、自分で倒した個体の下へ向かった。


「フロイデ、お前は周りを警戒しておけ」

「わかった」


 そんなやりとりをする彼らを横目に、フェアは促す。


「では、我々も解体にかかりましょうか」

「そ、そうですね」


 師匠に言われたとおり剣を拭ってから鞘に収めると、リーベはフェアと共に解体作業に取り掛かる。


 アルミラージの角を回収するには、角を突き出させている筋肉を切断する必要があるという。リーベはフェアさんの見本を真似て、左手で角を固定し、根元に刃を入れた。この魔物は丈夫な筋肉を持っており、切り落とすにはそれなりの力を要したが、非力な彼女にも十分こなせる範疇(はんちゅう)だった。


「取れた!」

「よく出来ました」

「あの、この角って何に使うんですか?」


するとフェアは待ってましたとばかりに目を輝かせると早口で解説してくれた。


「アルミラージの角は粉末にして飲むことで止血作用があると言われています。そのほかにも骨を丈夫にするとされていて、古来より様々な薬に活用されてきました」


(……調薬が趣味のフェアさんにとってはお宝なんだろうな)


「へ、へえ、そうなんですね」

「ええ! まだまだ他にも効能があると考えられていて、最近の研究では――」

「フェア。講義はその辺にして、死骸を焼いてくれ」


 おじさんに言われてフェアさんはハッとした。


「私としたことが、いけませんね。薬には目がなくて」

「はは……」


 苦笑してる間にも、おじさんたちはアルミラージの死骸を街道の外へ集めていた。


「あの、何で死体を燃やすんですか?」

「それはこの死骸が肉食の魔物を引き寄せるかもしれないからです。特にアルミラージはこういう死骸を狙ってハイエナのようにやって来るんですよ」

「アルミラージって肉食なんですよね?」


(わたしたちを襲ってきたのだからそうなんだろうけど、にわかに信じがたい。だってウサギなんだから)


「ええ。こちらをご覧ください」


 そう言いながら彼はアルミラージの口を開けた。そこにはなんと、オオカミのそれと見紛うほどに鋭い牙が並んで、口腔から死臭が漂ってきた。


「う、ウサギなのになんで……」

「それを説明すると長くなりますので、車内でお話しましょう。さて、魔法を使うので離れてください」


 言われるとおりにすると彼はアルミラージの死骸に火をつけた。よほど高火力でやっていたのか、ものの数秒で死骸は灰となってしまった。


「ふう、お待たせしました」


 彼は御者に言うとリーベを連れて車内に戻った。そこにはヴァールとフロイデがいて、水筒を傾けていた。その様子に喉の渇きを思い出したリーベは同様に水筒を取り出し、喉を潤した。


「ふう……生き返る」

「それじゃ、動きますね」


 御者が告げ、ヴァールが「ああ」と答えると馬車は発進した。


砂を噛む音が小さく響き、体が横に引っ張られる。慣性に負けて倒れないようにと、リーベは手を突いて踏ん張っていると、フェアが口を開く。


「さて。アルミラージがなぜ肉食なのか、お話ししましょう」

「お、お願いします」

「諸説ありますが、彼らの祖先は犬型の動物だったとされています」

「い、犬⁉」

「ええ。歯並びが類似している点から、そう考えられているそうです」

「で、でもなんでわざわざウサギの姿に?」

「リーベさんはドラゴスパロウという魔物をご存じですか」


その魔物については昔、ヴァールに聞かされていた。


 そのため彼は、リーベがちゃんと覚えているか、彼女をじーっと見ている。


「はい。ドラゴンみたいに体が大きくて、首の長いスズメですよね?」


 ヴァールは満足そう腕を組んだ。そんな様子を横目に、フェアは頷く。


「あの魔物は捕食者に襲われないために、ドラゴンという強者の姿を模したとされています。一方、アルミラージは弱者に扮することで捕食者を呼び寄せ、逆に捕食するという手段を用います」

「へえ……まあ、獲物の方から寄ってきてくれるなら、その方が楽ですもんね」

「そう言うことです。冒険を続ける中でウサギを目にすることはままあるでしょうが、安易に近寄らず、真っ先にアルミラージでないか疑ってみてください」


 可愛いと思って近づいたら魔物だった……なんて状況は容易く想像できた。


「うう……! 気をつけます」

「そうしてください。さて、こうした独自の進化は魔物ではよく見られることですので、頭の片隅にでも入れておいてください」

「はい。ありがとうございました」


 魔物の進化について教えてもらうと世界が少し広がったように感じた。


(わたしが今まで戦った魔物も、そんなふうに進化してきたのかな?)


 不思議に思っていると、対面でフロイデが船を漕いでいた。


「たく、コイツも少しは勉強熱心なら良かったんだがな」


 ヴァールと苦笑した。


そしてまさにその時、フロイデは寝息を立て始めたのだった。


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