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冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第2章 旅立ちの時

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111 別れの挨拶 その①

 食堂の朝は早い。


 それは寝坊助のリーベにとって過酷な事情であった。


「うう……あと5分…………」


 起きたいのだが体が起床を拒んでいる。それは人として堪らないものであり――


「起きろ!」

「おうおうおうおう……」


 例によって体を揺さぶられることで夢の世界から落ちてきたリーベは、体の中に溜まった眠気を大きなあくびで吐き出す。すると彼女を起こした父が苦笑する。


「たく、野営した時もそんな大口開けてんじゃねえだろうな?」

「ああ……どうだろう。自信ないや」

「あのなあ……」


 エルガーは頭を掻き回すと「まあいいか」と呟いた。


「それより、朝の飯出来てからさっさと下りてこい」

「はあい……ふぁあ」







 眠い目を擦りながら身支度を終え、ホールに下りると、そこには温かく湯気を立ち上らせる朝食と、それを囲む両親の姿があった。2人はまるで赤子を見るかのような温かい目を娘に向けている。


「おはよ、夕べはよく眠れたようね」


 シェーンはいつになく溌剌(はつらつ)とした声で言う。


「ご飯できてるから、早く食べましょ?」


 その言葉に誘われてリーベは食卓についた。


「それじゃ、みんな揃ったことですし、いただきましょうか」

「そうだな――いただきます」

「いただきます」


 一家は食事に取り掛かる。


 今朝の献立は鶏と野菜シチューで、ありランチの波乱を乗り切るだけの活力を得ることが出来そうだ。そう思いながらシチューを掬うと、奇妙な色をしたキノコが現れた。


「あれ? シチューにナナイロタケが入ってるのは初めてじゃない?」


 ナナイロタケとは乳白色の地に6色の斑点を浮かべたキノコだ。キノコの中でも形容し難い風味を持つキノコであり、サラダやソテーに適しているとされている。

 母シェーンはそんな珍味を煮込み料理に活用したのだ。


「口には合わなかったかしら?」

「ううん。美味しいよ」

「よかった。今日はちょっとチャレンジしたい気分だったのよ」

「なんだ。シェーンにしては珍しいじゃねえか」

「確かに」


 シェーンは堅実に手足を生やしたような人間だ。それなのにどうして、とリーベが不思議に思っていると、彼女はいたずらっぽく笑って言う。


「ふふ、私も冒険してみようかなってね」

「ぷっ! はははお母さんもジョークを言うんだね!」

「さては浮かれてんな?」


 夫が妻の瞳を覗き込みながら言うと、彼女は頷く。


「だってまたリーベと働けるんですから」

「お母さん……わたしも、また一緒に働けるのが嬉しいよ」


 そう言って笑みを交わしていると、エルガーが挑戦的な笑みを浮かべて言う。


「リーベが冒険者になってから結構経つからな。今じゃ俺の方が上手く働けるだろうよ」

「むっ! そんなことないよ! わたしは10年も給仕をやってた大ベテランなんだからね!」

「はは! じゃあどっちが多く運べるか勝負だ」

「望むところ!」


 そう父子言った直後、場は急に静まりかえった。その落差がなぜかツボに入ってしまい、一家は笑い声を上げた。

 

それからエルガーはホールの清掃を、リーベとシェーンは仕込みをして、来るランチタイムへと備えた。


 そしてついに開店時刻を迎えた。


「準備は良いな?」

「うん!」


 例によってホールを担当することになったリーベは相方である父に頷いてみせると、客を出迎えるべく、ドアへ向かった。焦げ茶色のドアと向き合い、胸に手を当て、深呼吸をする。そうして肺の中の空気を置換すると、彼女はそっとドアを開け、客たちに呼び掛ける。


「いらっしゃいませ! エーアステへようこそ!」


 すると行列の先頭に立っていたサラ婦人と、その後ろに並んでいた人たちが目を丸くする。


「え、どうしてリーベちゃんが⁉」


 その問いに対し、リーベは表の札を『営業中』に変え、サラたちを招き入れながら答える。


「実はわたし、明日から王都に行かなきゃならなくて」

「王都に⁉」

「どういうことだい?」

 客の視線が彼女に集まる。

「おじさ――師匠が王都の冒険者なので。師匠が帰任するのに合わせてわたしもついていかなきゃならなくて」

「へえ……随分急なんだね」


 サラが言うと客たちはもの悲しそうな顔をしてリーベを見た。


「はい……なのでお世話になった人たちへのご挨拶も兼ねて、今日だけホールで働かせてもらうことになったんです」

「そうなんだ……心配だけど、ヴァールさんたちが一緒なんだもんね」

「ああ。それになにより、リーベちゃんはエルガーさんの娘なんだ。どこへ行っても、上手くやってけるはずさ」


 常連の言葉にリーベが頷く。その心遣いに、信頼に。リーベは目頭が熱くなった。それを気取られまいと堪えていると、父エルガーが彼女の肩に手を置いた。


「さ、お前が元気だってことを、ちゃんとアピールしてやんなきゃな」

「お父さん……うん、そうだね――お待たせしちゃってすみません。お好きな席へどうぞ」


 こうしてリーベは最後の奉仕に臨むのだった。


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