108 予感
街中に帰ってきた一行は、そのままスーザンの武器屋へと向かった。しかし、生憎と現在の店主であるダルは不在だった。彼は今頃、西の工房で武器を造っているのだ。
「あー、ダルさんいないみたい」
リーベ残念に思って言うと、ヴァールは「じゃあまた今度だな」と言った。
「他のお店に行ったりはしないの?」
「ああ。テルドルで武器を買うなら、ダルのヤツが一番だからな」
「へえ」
そういえばと、リーベは父が『ダルほど腕の立つ職人はそうそういねえよ』と絶賛していたのを思い出す。
「明日以降の訓練も私のロッドを使えばよろしいでしょう」
フェアはそう言ってくれたが、彼から愛用の武器を借りるという事に、リーベは若干の申し訳なさを抱いた。
「すみません。わたしがスタッフを壊しちゃったせいで」
「形ある物はいつか壊れる定めにあるのですから、そう気に病まないでください」
「はい……」
「……これからどうする、の?」
フロイデがヴァールに尋ねる。
「そうだな……ちと早いが、今日は解散にすっか――」
「あ、ヴァールさん。それに皆さんも、お疲れ様です」
男性らしい低い声に一行が振り向くと、そこにはロイド率いる冒険者一行がいた。
ボリス以外の2人は骨折で入院していたが、無事に退院できたのだ。
リーベが喜ばしく思っていると、ヴァールが口角をつり上げて意地悪な顔をする。
「よう山賊トリオ。ようやく出所できたのか」
「はい――て、退院って言ってくださいよ!」
そのやりとりに一同は笑っていたが、リーベはふと疑問を抱いた。
「ロイドさんたちも武器を買いに来たんですか?」
「うん。カナバミから逃げる時に全部捨てちゃったからね」
「お店、閉まってる」
フロイデがぼそりと告げると、3人は揃って店舗を見た。
「え? あ、ほんとだ」
「マジかあ……まあ、しょうがないか」
ロイドとバートの2人が残念がる中、ボリスが「スーザンのおばさんがいてくれたらな~」と零す。
以前はダルの妻であるスーザンが店番をしていたからいつでも武器を買えたが、彼女が亡くなった以来、ダルが鍛冶と店とを兼任しているのだ。
そんな事情もあり、客は不便を強いられているが、それを口にして良いはずがなかった。
実際、バートがボリスの肩を叩いてこれを諫める。
「おいボリス!」
仲間の叱責を受け、彼は自らの失言に気付いた。
「あ、悪い……」
「い、いえ……」
気まずい沈黙が流れるが、フェアが咳払いをすることで有耶無耶になった。
「ところで、皆さんはギルドの方へ行かれましたか?」
「あ、はい。傷病手当をもらいに――あ、そうだ」
ロイドは短い声を上げるとリーベたち一行を順繰りに見た。
「サリーちゃんが『ヴァールさんたちを見かけたらギルドに来るよう伝えてください』って」
「なに?」
ヴァールはフェアに目配せすると、緊張を孕んだ低い声で答える。
「わかった。すぐに行く――リーベ、お前もついてこい」
(サリーさんに呼ばれるなんて一体……まさか強い魔物が出たとか?)
強ばる喉を無理に解放して答える。
「わ、わかった……!」
頷いてみせると、ヴァールは「行くぞ」と行って歩き出す。
「あ、うん――それじゃ、失礼します」
リーベは3人に挨拶をすると師匠の後を追った。




